スコップは最強の武器じゃけえ
「その、マリア様?」
「マリアとお呼びください。ミヒャエル様」
「マリアさん、どうやってここに?」
マリアは笑顔でシャベルを振り上げた。
「オラニエ家は掘削や採掘の加護を持っているのです。私たちが本気を出せば帝都から城郭外までのトンネルを掘るくらい朝飯前ですわ」
…まあ今ちょうど朝飯前だけどな。
「いつから掘っていたんだ?」
「…お兄様がミヒャエル様に捕まったころからですわ」
「一晩でここまで掘ったのか?」
「ええ、私たちオラニエ家の秘密部隊“グレンドーラ”は抜け穴や塹壕作りに特化しておりますから」
「グレンドーラ?てか、一人じゃないのか?」
「グレンドーラは100名からなる精鋭です。今帝都にいるのは、30名ほどですが」
「いや、そうじゃなくて屋敷にいるのはマリアさんだけじゃないんですか?」
マリアさんは目を伏せた。
「その…私あの…」
やばい、危険なにおいがするぞ。
「アドナッむぐっ」
「お願いです、大きな声を出さないでくださいっ」
俺の口を手でふさいだ、マリアさんはものすごくいい匂いがした。
「私は…そのお兄様をお助けに来たのです。今、グレンドーラが地下にいるお兄様を連れて帝都から脱出しているはずです」
マリアさんの手を振りほどいた。
「やっぱり?」
「あら、お気づきでしたか?」
「いや、それしかないでしょう」
やばいぞ、俺の考えてつくだけでもやばい可能性が10ぐらい浮かぶ。
「マリアさん、悪いけど俺はあなたに協力することはできない。お兄さんも返してもらう」
俺はマリアさんをベットに放り投げた。
「どうしてもだめですか?」
俺が投げたせいでマリアさんの衣服がはだけている。多分、誰かから借りたと思われる大きなシャツからは下着が見えている。
「だめです」
マリアさんはシャツを脱いだ。えっ。
「その…お兄様のためでしたら、私は何でもいたします」
下着を外す。砂まみれだけど、真っ白で、柔らかそうで…いけん、いけんぞ。
「ミヒャエル様、私はあなたのものです」
マリアさんが俺に近づいて、シャツのボタンを外す。柔らかい手が俺の胸に当たる。
「…ミヒャエル様」
俺の頭の中に冷たい気が巡ってくる。アドナイアスに魔法をかけられた時のことを思い出した。
「アドナイアス!」
「…なっ、ミヒャエル様!?」
俺はマリアさんの手を振りほどいて、もう一度ベットに放り投げた。
「どうして…」
「あなたがお兄様の事を想ってらっしゃるように、俺も侯爵領の事が大事なんです」
「ミヒャエル様!どうか…」
アドナイアスと2名の警備兵がドアを乱暴にあけた。
「マリア殿?」
アドナイアスは俺とマリアさんを見比べて、俺に近づいて頬を殴った。
「ミヒャエル様!あなたという人は…」
「違うんだ」
「テンプテーションに引っかかるなんて情けない…」
「はい?」
「こんな低級魔術に引っかかる貴族が今時いてたまるもんですか」
「…俺引っかかってないよ」
「それは私がぶん殴ったからです」
「違うって、マリアさんに触られたとき、こう緑の宝石あったじゃん」
「メレアルカスですか?」
「そうそれ、あれ使った時みたいにこう頭がスッとした」
「…ほう。超抵抗が働いたのですかな?」
アドナイアスは俺にモンセラートを手渡した。
「超抵抗?」
「侯爵家当主の加護です」
へー、当主も加護ってつくんだな。
「…おい。逃げんな」
「はひっ!?」
俺はマリアさん、いやマリアの首筋を押さえつけた。
「いやあ、放して、お兄様たすけてー」
「ふざけんな、そのシャベルを放せ」
マリアの持っていたシャベルは俺の鎧くらいの重さがある。そんなもん振り回されたらたまらない。
「アドナイアス地下のリベルトが…」
「ああ、後を追っています。目印をつけておきましたからすぐに見つかるでしょう。そこの残念モグラ娘と一緒に3階に軟禁しておきましょう」
残念モグラ娘ことマリアは悔しそうに俺達を睨み付けた。
「わかりました。降参します。」
マリアはシャツのボタンをとめた。
「今回のことも、オラニエ家は全く承知していないことだったんです。お兄様があんなことを起こすなんて誰も予想できませんでした」
ベッドから起き上がると、床に落としたシャベルを拾い上げた。
「しかし、やってしまったことに申し開きをするつもりはありません」
こいつ何言ってんの?馬鹿ななの。ねえ、馬鹿なの?
「ですが、お兄様の後を追わせるわけにはまいりません」
マリアがシャベルを振るうとベッドが壁をぶち抜いて外に吹き飛んだ。
え?
「オラニエ伯爵家長女にしてグレンドーラ隊長、マリア・デ・フェ・オラニエがお相手いたします」
シャベルを水車のように振り回すと、俺をかばって護衛が2名とも吹き飛んだ。
俺はアドナイアスの方を見た。アドナイアスは杖を構えて額に汗を浮かべている。
「…まずいですね」
「まぢ?」
「ジルバンテならともかく、この狭い空間でパワーごり押しを相手にするのは骨が折れます。てか、多分勝てません」
「ねえ家って最強の武家なんだよね?」
「王子ならば、なんとかするでしょうな」
まぢか。俺なんもできないしな。
「最後の手段です」
「おう」
アドナイアスは懐に手を入れた。
アドナイアスは銀色のホイッスルを取り出して鳴らした。
「ものども、出会えい!」
「ふっふっふ。マリア殿。我がガルシア家の近衛兵は鉄器無効の加護がついているのをお忘れではないでしょうな?」
まじか、超チートじゃん。ちょっと格好悪いけど。
マリアは頭上でシャベルを振り回している。
「アドナイアス殿。申し訳ありませんが、近衛を待って差し上げるほどオラニエ家は粋ではありませんわ」
シャベルから真っ黒なオーラがにじみ出ている。
「我が愛シャベル、フィダルゴブラッキーの破壊力。特と堪能なさいませ」




