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加護持ち領主の和平活動  作者: アイゼン・ジム・トンプソン
第一部 帝都動乱編
12/135

感情的になったらいかんで

門を開け放つと、感情的になった帝国軍兵士たちが怒鳴り声を上げる。

「遅いぞ!」

「さっさと逆賊を引き渡さんか!」

めいめいが勝手なことを言い、中にはこれ見よがしに地面に唾を吐くやつもいる。


俺はペガサスに乗り前に進んだ。

「…しい」

がっちりした角刈りの男が黒い馬に乗って前に進みでる。

「そなたがミヒャエル殿か、私は帝国騎士団副団長コシモ・リドルフィだ。早速だが、賊を引き渡していただきたい」

リドルフィの傍らにいた兵士が書状を読み上げる。

「この度、帝都を騒がし、皇帝陛下に弓を…」



「やかましいと言うとろうが!!」

夜の帝都に俺の怒鳴り声が響いた。


「なっ、ミヒャエル殿」


「殿ではない。ミヒャエル様と呼べ、無礼者!!」

ガルバリウスがリドルフィを怒鳴りつける。

「私はただ逆賊を…」

「聞こえなかったのか、我の名前はガルシア・デ・トールバルド・ミヒャエル。今はまだ侯爵領代行だが、それも今日までの話。明日、いやもう今日か。私はガルシア家を継ぎ正当な侯爵になることは皇帝陛下もお認めになったこと。それとも、お前がそれに意見するというのか?」

「いえ、滅相もございません。ただ、その逆…」


ジルバンテが槍でリドルフィを示す。

「聞こえなかったのか無礼者。馬から降りよ」

ちなみに侯爵軍は一部を除き全員が騎乗している。ご先祖様が設計したという屋敷はとことん戦争向きにできており、馬に乗ったまま敷地内を移動することができる。


「こっ、これは失礼した」

リドルフィは馬から降りた。



俺の立てた皆に伝えた作戦は至ってシンプル。

“いちゃもんをつけまくれ”

とにかく、地位を利用して怒鳴り、脅し、ほころびを突け。というものだ。

相手が正しかろうが、なんだろうが、揚げ足を取りまくる。ほとんど、ヤクザのやり口だが、社会的地位と武力が伴っていればそれが正義だ。


俺は隊列を整えている間に皆にこう説明していた。

「相手の求めているのは武功でもなんでもない。ただ、出世レースの材料が欲しいだけだ。もし、賊を討伐できても、それが出世につながらなければ、相手は簡単に手を引くはずだ」

「藪蛇というやつですね」

アドナイアスは杖の先を撫でながらにやりと笑った。

「リベルトを引き渡すことも念頭には入れている。さすがに完全無罪にできるとは思ってないよ」

「なるほど、帝国対侯爵軍ではなく、騎士団副団長対ガルシア侯爵家に持ち込めば一矢報いることはできますな」

「それが、俺たちにできる精一杯だと思う。とりあえず、舐めた奴は許さないっていう意思表示ができれば十分だ」



「リドルフィ。さっき侯爵家に石を投げた奴がいるな?」

「いえ、そんなことは…。そんなことをする輩がいるはずもありません」

リドルフィはとぼける。

「俺が見たんだ、間違いない」

これぞジャイアニズム。

「いえ神聖なる帝国騎士団にそんな不埒ものはおりません」

「リドルフィ」

俺はペガサスをリドルフィの目の前まで進める。

「俺が嘘をついたっていうのか?」

侯爵軍の全員が槍を構え、抜刀する。


「いえ、私は…その、そんなことは」

リドルフィは目に見えて狼狽している。

「石を投げた奴を出せ。さもなければ、恥辱はお前たち全員の血でそそがなくてはならん」

俺はモンセラートをリドルフィの首に突き立てる。


「ひいっ…」

リドルフィは帝国軍に戻るとヒステリックに怒鳴った。

「すぐに石を投げた奴を探し出せ!!」


30分後、俺たちが怖い顔をするのにも疲れた頃、リドルフィと4名ほどの兵士が縄で縛られた兵士を運んできた。

「この男ベルイジスが侯爵邸に石を投げた犯人です」


ベルイジスをペガサスの足元に置いて、下がろうとするが、そうは問屋が下しませんよ。リドルフィさん。


「まて、こいつの上司は誰だ?」

「はい?」

「この男は平民だろう」

帝国騎士団は全員が貴族のエリートだが、帝国軍には平民も多く加わっている。恰好からしても、リドルフィのスケープゴートになったことを見ても、下っ端中の下っ端だろう。


「いや、この男の上司というのは、その…」

「そのなんだ?」


口ひげを伸ばした地味な男が出てきた。

「私が上司です」

「名前は?」

「ジャンジ・オノ・メイディランド。先代メイディランド伯爵の5男です」

「お前が責任を取るのか?」

「はい、いかような処分でも甘んじて受けます」


「いや、ミヒャエル様!メイディランドは関係ございません。ベルイジス一人の責任でございます」

…ん?なんかこいつメイディランドを庇うな?


「ガルバリウス。こいつらを奥に連れて行け」

「ミヒャエル様!メイディランドはお許しください」」

…ここが蟻の一穴か。


「リドルフィ、今何時だ?」

「はっ、はい?」

「さっさと答えろ!」

リドルフィは振り返って部下に尋ねる。

「大体2時半です」

「俺は明日5時から式典の準備がある、つまり、2時間ちょっとしか眠れないってことだな」

「…それが、その、なにか?」


俺はモンセラートを軽く振るう。

「ふざけるな!」

「無礼者が!」

「ぶち殺すぞ!」

「くそったれ!」

「舐めてんのか!」

事前に仕込んでおいた罵詈雑言が響く。


今回帝都に連れてきた兵士は式典を受けるために、先代の叙勲の時にもいたベテラン半分、武術と体格の整った若手が半分。全員が職業軍人で、しかも今晩400年ぶりの初陣を経験して、血が沸き立っている。


かく言う俺だって、チビりそうになるくらい怖い。

「ばり怖えーーー」

怒鳴り声にまぎれてこっそりつぶやいた。


モンセラートを頭上で回す。

「静まれ―い」

ぴたりと怒鳴り声が止まり、急に訪れた静寂に耳がキーンとする。

「なあ、リドルフィ。もう遅いし、今日はこのくらいにしないか?」

「…はい。わかりました」


思ったよりもあっさりとリドルフィは引き下がった。

「ただ、陛下メイディランドの命だけはお助けを」

「…考えておく」

下っ端の命乞いはしないんだな。



最初の勢いはどこへやら、リドルフィの一団は意気消沈して去って行った。

「なんとか終わったな…」

めっちゃ疲れて、俺は肩を落とした。モンセラートを落としそうなくらい体中から力が抜けている。


「お前もありがとうな」

ずっとナイス角度で翼を広げ、3時間近く凛々しい姿をキープしてくれたペガサスをなでてやる。

「剛力ち○ぽ丸なんて名前、すぐに変えてやるからな」

ペガサスはめちゃくちゃうれしそうに俺の顔を舐める。


「ひとまずはミヒャエル様お見事でした」

ジルバンテが鎧を脱がしてくれている間に、アドナイアスがお茶を出してくれた。2人はずいぶんご機嫌で、「ちょっと寒いですかね」とか「ああそうだお菓子も持ってきましょう」とか何かと世話を焼いてくれる。


「まずいことなかった?」

「いいえ、予想以上でした。リドルフィの片腕を落とせば100点を差し上げますよ」

「いや、落としたらまずいだろ」

「ふふん」

アドナイアスは桃色のローブに着替えていた。


「あと2時間で式典の準備をしなくてはいけません。ミヒャエル様はお休みください」

「あの2人は?」

「どこか適当な部屋に入れておきます。なに、腐っても騎士、逃げはしませんよ」

「じゃあ頼む」

正直ペガサスに乗った時から、めちゃくちゃ眠たかった。



「はあ、やっと眠れるな」

俺は寝間着に着替えてふかふかのベッドに飛び込む。


「きゃっ!!」

「うわっ!」

布団の中には栗色の髪をもつ美少女が眠っていた。


あれ、なんかこいつ見たことあるぞ?

「ミヒャエル様ですか?」


俺はとりあえず美少女から離れ、壁に掛っていた剣を抜いた。

「あんた誰だ?」

美少女は砂まみれで、ズボンの中にシャツを入れ、サスペンダーで止めていた。よく見ると、布団が砂まみれだ…。おい、俺の布団。



「しっ、失礼致しました。私、マリア・デ・フェ・オラニエと申します!」

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