各班の再調査で……
数分後、殺人現場である公園に辿り着いた大島は、キープアウトテープを潜って、再び、被害者の倒れていた所を視察していた。周囲には、数名の鑑識官の姿もあった。
「始めから、殺すつもりは無かったのか? それとも…… 凶器を持っていたが、ここに石が転がっていた事に気付き、それを利用したのか?」
そう呟きながら周辺を見渡す大島だった。そこに、田辺がやって来た。
「先程、公園の周りを歩いている人に聞き込みをしていたら、丁度殺人があった時刻に、この付近に居た者を発見しました」
息を切らしながらそう言った田辺の言葉に、
「でかしたぞ。俺にも話を聞かせろ」
田辺の肩を叩いて、そう言いながら笑みを浮かべる大島だった。そして二人は、その目撃者の所に向った。
「何時頃に…… その不審な男を目撃しましたか?」
目撃者は、公園から数十メートル離れたマンションの三階に住む住民だった。
近くのコンビニに夜食を買いに行った目撃者は、その帰りに、ふつと階段の途中で振り返った時、公園から出て来る不審な人物を見たのだ。
「そうですね…… 確か、仕事から帰って来たのが九時過ぎだったから、その後に夜食が食べたくなって…… そうそう、十一時半頃だったかな。コンビニに弁当を買いに行ったのは。その帰りだから、多分…… 十二時を回っていたかもしれないな」
目撃者の曖昧な答えに、
「そ、そうですか。もう少し詳しく、正確な時間は解りませんかね」
そう言った田辺だった。その言葉に、
「確かな時間ですよ。携帯を見て行ったんですから……」
と、少し怒った様子の目撃者だった。すると大島が、
「その時の不審者の格好は、どういった服装だったのでしょうか?」
そう問いかけると、暫く記憶を辿る様に考えていた目撃者だった。
そして、
「結構離れていますからね。黒い服装としか…… 」
そう言った。そして、何かを想いだしたかの様に、
「そうそう、何かを被っていました。ニット帽か…… とにかく毛糸の何かを被っていましたよ。それを脱ぎながら、公園から出てきましたから」
そう叫んでいた。それを聞いた大島は、
「十二時頃だな。それに、ニット帽ねぇ…… 梅雨明けで蒸暑いのに、そんな物を…… 」
と言いながら考え込んでいたが、
「解りました。他に、気が付いた点が在りましたら、署に連絡を下さい」
そう言って、その場を去って行った大島だった。その後ろでは、首を傾げながら歩いてくる田辺だったのである。
丁度その頃、前橋の事件を捜査していた桐谷と平塚は、二人目の被害者である、西野が働いていた高級クラブに居た。
「麗華ぁ……」
同僚のホステスがそう言うと、喰い付く様に平塚が言った。
「麗華って…… 本名で出ていたのですか? てっきりこういった仕事では、殆どが源氏名を使うと思っていましたが」
「麗華って名前…… 殆ど源氏名の様な響きでしょ。あの子も自分の名前を気に入っていた様だから、本名で出ていたのよ」
平塚の問い掛けに、笑って答えるホステスだった。そして、次に出た言葉に、耳を傾ける桐谷だった。
「麗華の客の中に…… そうねぇ…… 一人だけ居たけど、変な人が……」
「変な…… 人」
「うん。三カ月ほど前から、麗華目当てで来ていた客だけど。とっても気の弱そうな人だったわ。ただ…… イケメンでモテそうだけどね」
ホステスは、微笑みながらそう言った。それを聞いた二人は、顔を見合わせていた。
「その男の名前…… 解りますかね」
平塚の問い掛けに、
「小松…… 清って言ってなかったっけ」
考えながらそう言った。そして、
「だけど、麗華はその人を騙していたって言うか、お金目当てだった様子だったけどね」
そう呟く様に言ったのである。
「お金、目当てね。それでその男は、今もここに来るんですか?」
ホステスの証言をメモをする平塚は、再びそう問いかけると、
「麗華が居なくなる少し前から姿を見せなくなったわね。だけど、あの人が犯人だとは…… とても思えないけど」
そう言って、首を傾げるホステスだったのだ。それを聞いた桐谷は、
「その男の職業など、解りますかね?」
と尋ねると、
「解んなぁい。麗華の客ですもの」
両手を肩まで挙げてそう言ったホステスは、振り返って店の中に入って行った。そんなホステスの後姿を見ながら、
「有難う御座いました。他に何かありましたら、連絡下さい」
そう叫んでいた桐谷だったのである。
そして、アパートでの幼児と母親が殺された事件を調べていた大林は、相沢と一緒にアパートの住民に話を聞いていた。
「ここの二階に住んでいた、琴野幸恵さんの事ですが……」
大林は、殺害された琴野幸恵の真下の階に住んでいた住民の家を訪れていた。その玄関口で、そこの婦人にそう言うと、
「ああ…… あの女ね」
そう言って、不機嫌な顔になったのである。それを見た大林は、
「あの…… 女ですか?」
と婦人の言った言葉を重複すると、
「ええ。そう言われても、あの女は言い返せないわ」
そう言って言葉を荒げていた。
「もっと、詳しく話を聞かせて貰えませんか?」
手帳を広げた相沢が、大林の後ろからそう言うと、
「ええ、いいわ。とにかく、手の速い女でね。旦那と子供が居るくせに、若いからって…… よく男を連れ込んでいたわよ」
そう言い放つと、手帳を見ながら相沢が言った。
「男…… ですか」
「そうよ。それも、気の弱そうな男だったわね。確か…… 旦那と同じ職場だって言ってなかったかな。何ね、この上に住んでいたでしょ。話し声が、聞こえてくるのよね」
そう話をしていた婦人だった。その時、咄嗟に相沢が声を上げた。
「そ、それじゃ、殺人が起こった日もこの部屋に居たのですか?」
早く事件を解決に導きたいと言った、相沢の焦りが声に出たのである。
その声に驚いて、目を丸くして相沢を見る婦人だったが、大林が二人の間に入って来て、
「すいませんね。若い刑事なものですから、事件解決を急いでるもので……」
そう言って、婦人に頭を下げていた。しかし、その大林の眼つきも変わって、
「ところで…… その日は家に、居ましたか?」
そう、低い声で問い掛けていた。そんな二人の真剣な顔を見て、
「い…… いいえ、買い物に出掛けていて、居ませんでした」
と、何か悪い事でもしたかの様に、急に声が小さくなっていった。
その言葉に、
「そうですか」
と、二人は声を揃えて言った。だが、その後に、
「そう言えば、私が買い物に行った時に、スーパーから出て来るアイツを見かけたわ」
と言うと、
「他には、何か変わった事は? 例えば、誰か不審な人が、琴野さんの後をつけていたとか。どんな小さな事でもいいのです。とにかく、事件に関する情報が欲しいのですよ」
目の前の婦人につられたかの様に、大林も小声でそう言った。すると婦人は、困ったような顔で二人を見ていたが、
「ここだけの話ですよ」
と言って、首を延ばして外を見渡した。その行動に、大林も相沢も、振り返って辺りを見渡すと、大林が婦人に小声で言った。
「近くには誰も居ませんよ。私達三人だけです」
その言葉を聞いて安心した婦人は、
「幸恵さんね、その男からお金を借りていたみたいなの。それで、その男と関係を持ったみたいで…… 」
耳打ちする様に、そう言ったのである。
そんな婦人に、これ以上は情報を得られないと悟った大林は、
「解りました。ご協力、有難う御座いました」
と言って、その場を去って行った。その後ろを歩く相沢は、そんな大林を見ながら言った。
「琴野昭義って言っていましたよね、被害者の旦那の名前。その旦那の職場に行ってみましょうか」
その言葉に、大きく頷く大林だったのである。
大林も、相沢と同じ事を考えていたのだ。
そして、琴野昭義が勤める会社に辿り着いた大林と相沢だったが、目の前には桐谷と平塚が立っていたのである。
「桐谷警部補じゃないですか。どうしてここへ?」
大林がそう叫ぶと、
「うちのヤマを調べていたら、事件の関係者がここに勤めていた事をつきとめたものですから……」
そう答えていた。その言葉に、
「もしかして、こっちの話に出て来た男と…… 同一人物?」
そう呟いた相沢だったのである。
その時、大林の携帯電話が鳴った。
「もしもし…… 解りました。直ぐに戻ります」
そう言った大林は、目の前の三人に言った。
「署で、もう一度捜査会議だそうだ。容疑者と思われる男が発見されたらしい」
その言葉に、四人は車に乗り込んだのである。




