婦女強姦殺人(2)
その時の事件は…… 午後四時頃に起きた。
「昭弘君。お迎えが来た様よ」
園児服を着た男の子が、他の子供達と遊んでいる所に、そんな保育士の声が届くと、
「ママッ!」
と大きな声で駆け寄る昭弘。それを笑顔で待つ幸恵だった。
「昭ちゃん、お利口さんにしてた?」
目線を子供の高さまでしゃがんで、そう尋ねると、
「うん。今日はね、弘毅君と千亜妃ちゃんと泥団子作って遊んだの」
と言いながら、保育カバンを持ってくる昭弘だった。
「そうよね。今日は泥んこになって遊んだんだよね」
一生懸命に笑顔で説明をする昭弘に、横から覗き込む様に保育士がそう言うと、急に真面目な顔になった昭弘だったが、そんな昭弘を見て幸恵は、
「もう、園児服が泥んこじゃない。でも、元気が良いから許してあげる」
と言うと、再び笑顔を見せる昭弘だった。そして、
「先生。また明日」
と言いながら手を振っていた。その後、帰りのスーパーで買い物をした二人は、アパートに帰ってきた。
そこのアパートの住民の殆どは仕事に出てる者達ばかりで、昼間に家に居るのは琴野幸恵だけだった。
車が到着して、アパートの二階に住んでいる幸恵は、昭弘を抱いて階段を登って行った。そして玄関の鍵を開けると、中に入って買い物袋を台所の床に置いた。その時昭弘はというと、帰りに買って来たおもちゃの事で、じっとしている事が無かった様子だった。家に着くなり、部屋の奥へと歩いて行ったのである。
「昭ちゃん。待ってよ」
幸恵は、何時もの様にそう言いながら、買ってきた物を冷蔵庫などに納めていた。そして、ふつと奥の部屋が静かになった事に気付いた幸恵は、何時もとは違うと感じた。
「昭ちゃん…… 今日は大人しいね」
笑顔でそう言いながら、奥の部屋を覗き込んだ幸恵だったが、目の前の光景に声を失った。
「し、静かにしろ。言われた通りにしていたら、この子供には危害を加えたりしない」
部屋の奥で、緊張気味に声を震わせてそう言ったのは、ニット製の覆面を被った黒尽くめの不審者だった。そして、昭弘を後ろから抱えていたその手には、台所に置いてある筈の包丁が握られて、昭弘の喉元に当てられていた。それを見た幸恵は、
「な…… 何が目的なの。お金なら…… お金ならそこの棚の中に入っているわ。全部あげるから…… 警察にも言わないから…… 出て行ってちょうだい」
本当は助けを呼びたい心境だったが、三歳を過ぎた頃の昭弘を人質に盗られた状態だったので、強盗の犯人を興奮させまいとそう言ったのだ。だが、暫く犯人を見ていた幸恵は、何かに気付いたのか表情が変わると、
「何のつもりよ。何が目的なわけ……」
そう強気に言い放った。
犯人は、思いも依らない態度を見せた幸恵に一度は動揺したが、急に目付きが変わったかと思うと、爪先から舐める様に幸恵の身体を眺め始めた。そして、音を発てて生唾を呑み込むと、
「は…… 早く部屋の中に入れッ」
と幸恵に命令した。そして、次に発した言葉は、
「ふ、服を脱げ」
ニットの覆面から細めた目を覗かせながら、そう呟く様に言った犯人だったのだ。
「な…… なぜ、服を脱ぐのよ。これって、あなたの趣味なの」
そう言いながら胸元を隠す様に襟を掴んだ幸恵だったが、目の前の犯人が昭弘に包丁の刃を近付けると、
「わ…… 解ったから…… その子には何もしないで……」
両手を振りながらそう言って、着ていた服を一枚ずつ脱ぎ始める幸恵だったのである。そして、下着だけになると、
「こ、これでいいでしょ。お金を持って、早くここから出て行って」
そう言った。
その時である。
班員は昭弘を放り投げると、幸恵の方に襲い掛かったのである。
幸恵の足を掴んだ犯人は、必死にその場から逃げようとする幸恵を引き寄せると、首筋に包丁を突き付けてきたのである。そして、
「大人しくしてりゃ…… 殺さないからな」
顔を寄せてそう言うと、怯える幸恵の上に馬乗りになった。そして、幸恵の顔面を数発殴ったのである。力を失くした幸恵は、そのままぐったりと横たわっていた。
数分後、立ち上がった犯人は、幸恵が言っていた棚の方に歩いて行った。そして、引出しを開けて物色した後、中に入っていた財布から現金を奪った。それをじっと見ていた幸恵は、
「警察には言わないから、早く出て行ってよ」
そう呟いた。しかし、次の瞬間……。
幸恵の目の前に居た昭弘の背中に、犯人の持っていた包丁が突き刺さっていた。
声も出せないまま、痙攣を起こした昭弘を見た幸恵は、
「いやぁっ! やめてぇっ!」
そう叫んだが、その後には幸恵の腹部にも、その包丁が刺さっていたのである。
昭弘の前で倒れる幸恵。その後も、何度も幸恵の腹部を突き刺す犯人だったのである。
目の前の幸恵は、完全に息絶えているにもかかわらず……。




