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二度目の人生は勇者パーティに入りません 〜裏切られた最強魔導士、今度はSランク冒険者と魔王を先に倒します〜  作者: 月代
終章「旅の続き」

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第六十六話 王の論理


 協議の間は、王城の二階にあった。


 長いテーブルが一つ。椅子が十脚。窓から春の日差しが差し込み、テーブルの上に光の四角を作っている。

 壁には王国の地図と、歴代の功績者の肖像画が掛けられている。

 部屋の空気が重い。石の壁が音を吸い込む。


 テーブルの向こう側に、三人の男が座っていた。


 中央に、典礼局長。五十代の太った男。金縁の眼鏡をかけ、書類の束を前に置いている。

 右に、騎士団代表。四十代の軍人。背筋が伸び、表情が硬い。

 左に、王。


 アルドの父親。


 セラは、その男を見た瞬間に分かった。

 アルドに似ている。顎の線と、目の形。

 だが印象が全く違う。アルドの穏やかさが一切ない。代わりに、圧がある。

 五十代後半。白髪混じりの短い髪。軍人の姿勢を崩さない王。

 目がアルドと同じ色だが、温度が違う。

 “見ている”のではなく、“測っている”目だ。


 四人はテーブルの手前側に座った。

 アルドが中央。セラが右。レインが左。アネスがレインの隣。


 王がアルドを見た。

 長い沈黙。三秒。五秒。


「久しぶりだな」


 王の声は低く、部屋の隅まで届く。


「はい」


 アルドの返答は短い。

 敬語でも、親しみでもない。距離を保った声。


 典礼局長が咳払いをし、書類の読み上げを始めた。

 功績の内容、討伐の日時、報告書の整合性。

 全てが事務的に処理されていく。


 だが、本題は別にあった。


 書類の確認が終わった後、典礼局長が姿勢を正した。


「さて。功績の認定は問題ありません。特級討伐として登録されます。ただし、一点ご相談があります」


「相談?」アルドが聞く。


「功績の”帰属”と、それに伴う……身分の問題です」


 身分。


「辞退王子が国家級の功績を上げた。これは前例がありません。功績をパーティに帰属させる場合、辞退王子の身分は冒険者のままです。しかし、功績の規模を考慮し、王家としてこれを認定する場合には……」


「王子の身分に戻す必要がある、と?」


 アルドの声が一段低くなった。


 典礼局長が黙った。

 代わりに、王が口を開いた。


「アルド。魔王を倒したのはお前だ。その事実は認める。だが、その力は王家の血が育てたものだ。王家の教育、王家の剣術、王家の資質。お前が辞退しても、お前の中にある力は王家のものだ」


 血の論理。

 ミルネの時よりも直接的だった。

 “力は国のものだ”という手紙の内容が、口頭で繰り返されている。


「四人で倒した」


 アルドが答えた。短く。


「四人の中でお前が筆頭だ。筆頭の功績は、筆頭の出自に帰る」


「俺は筆頭じゃない。リーダーであって、筆頭ではない。作戦を立てたのはセラだ。矢を射ったのはレインだ。治癒で支えたのはアネスだ。俺はその中で剣を振っただけだ」


「それでも、世間はお前の名で覚える。“辞退した王子が魔王を倒した”。それが歴史に残る」


 噛み合わない。

 アルドは”パーティ”の論理で話している。四人は対等で、功績は共有だ。

 王は”王家”の論理で話している。個人の功績は血統に帰属する。


 セラは黙って聞いていた。

 前世の宮廷でも、同じような論理を聞いた。

 勇者パーティの功績は、勇者ユリウス個人の功績として扱われた。

 セラの名前は記録に残らなかった。


 今世では、違う結末にする。


「失礼します」


 セラが口を開いた。


 全員の視線がセラに向いた。

 典礼局長が眉を上げる。騎士団代表が目を細める。

 王が、初めてセラを正面から見た。

 測る目。値踏みする目。


「魔王討伐の作戦立案と実行指揮は、私が担いました。魔王城の構造、弱点の特定、戦闘中の全ての判断は、私の知識と分析に基づいています」


 嘘ではない。

 前世の知識を使ったとは言わないが、作戦の中核がセラだったのは事実だ。


「功績をアルドさん個人、あるいは王家に帰属させるなら、作戦立案者である私の功績はどこに行くのですか。レインの射撃は? アネスの治癒術は? 王家の血が育てた力で魔王を倒したのではありません。四人の技術と判断で倒したのです」


 典礼局長が書類をめくりながら口を開いた。


「セラ殿の功績も、もちろん記録されます。ただ、功績の”代表帰属”の話であって……」


「代表帰属という制度自体が、冒険者ギルドのパーティ制度と矛盾します。ギルドの制度では、功績はパーティに帰属し、個人に還元されません。王城がギルドの制度を超えて功績の帰属を変更するなら、それはギルドの独立性を侵害することになりませんか」


 典礼局長が口ごもった。

 ギルドの独立性は、王国の法で保障されている。王城であっても、ギルドの内部制度に介入するのは越権行為になりかねない。


 セラの声は静かだったが、論理は鋭かった。

 前世の宮廷で声を出せなかった分、今世では出す。

 政治の言葉で、政治の場で。


 王がセラを見つめた。

 長い間。値踏みの目から、少し違う目に変わっていた。


「……面白い魔導士だな」


「面白いかどうかは分かりません。ただ、事実と制度を述べています」


 王の口元が、微かに動いた。

 笑みではない。だが、険しさが僅かに緩んだ。


「お前の名は」


「セラです」


「セラ。……覚えておく」


 アルドが隣でセラを見ていた。

 目に、何かの感情がある。

 驚きか、感謝か、それとも。


 セラは気づかないふりをして、典礼局長に視線を戻した。

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