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二度目の人生は勇者パーティに入りません 〜裏切られた最強魔導士、今度はSランク冒険者と魔王を先に倒します〜  作者: 月代
第五章「魔王討伐」

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第六十話 二度目の人生の、次の一歩



 すれ違いから二日後。


 四人は街道沿いの宿場町に着いた。

 ギルドの支部があり、ここから王都への報告書を送ることができる。

 前の出張所より大きく、常駐の受付が三人いる。


 アルドが報告書を書き上げ、ギルドの受付に提出した。


 “北方山脈エルドガルド奥地にて、魔王と称される上位魔物を討伐。パーティ『銀夜の残火』による緊急討伐として報告する。討伐対象は、四本の腕を持ち広範囲魔力攻撃を行使する高位魔物。城塞内部での戦闘を経て撃破。城塞は魔力の喪失により崩壊過程にあり。詳細は添付書類の通り”


 受付嬢が報告書を読み、何度も目を瞬いた。


「これ……本当ですか」


「嘘を書いて楽しい報告書じゃないだろう」


 アルドの返答に、受付嬢は慌てて頷いた。


「す、すみません。至急、本部に転送します」


 報告書は鳥便で王都に送られた。

 正式な確認と認定には時間がかかるだろう。

 だが、北の山の通行止めが解除され、滞っていた物資が動き出す。

 それだけで、報告の価値はある。


     ◇


 宿の食堂で、四人はテーブルを囲んだ。


 報告書を出し終えた後の、穏やかな時間。

 窓から春の日差しが差し込み、テーブルの上に温かい四角を作っている。

 埃が光の中で舞い、ゆっくりと回っている。


 レインが杯を掲げた。


「一応、祝杯だな。魔王討伐」


「酒は?」アルドが聞く。


「茶でいい。セラ、酒飲めるのか?」


「飲めません」


「じゃあ茶で。茶の祝杯。一番質素な祝杯だな。魔王倒して茶で乾杯って」


「質素が一番いいだろう」アルドが言う。


 四つの杯が重なった。

 小さな音。陶器と陶器がぶつかる、軽い音。


 乾杯の言葉はなかった。

 ただ杯を合わせて、茶を飲んだ。


 それだけで十分だった。

 言葉にしなくても、四人の間で共有されていることがある。

 怖かったこと。戦ったこと。勝ったこと。生きていること。

 全部が、茶の中に溶けている。


 アネスが杯を置き、セラに聞いた。


「この先、どうする?」


「この先?」


「魔王は倒した。前世の区切りもつけた。これからの旅の目的は、何になるの?」


 セラは考えた。


 前世の話を、このパーティに打ち明けた時。

 カレイドでリーネに手を伸ばした時。

 魔王城で泣いた時。

 街道でユリウスとすれ違い、振り返らなかった時。


 全部が繋がって、一つの道になっている。

 前世の影を背負って歩いてきた道が、少しずつ明るくなっている。


「……普通に冒険者を続けます。依頼をこなして、旅をして、必要な場所で必要なことをする」


「魔王を倒した後に”普通”か」レインが笑う。


「普通がいいんです。前世では、“特別”なパーティにいて、“特別”な任務をして、“特別”に死にました。今世では、普通に生きたい。普通に依頼を受けて、普通に飯を食って、普通に笑って、普通に眠りたい」


 アルドが茶を飲み干した。


「いいじゃないか。普通に生きよう。依頼をこなして、飯を食って、寝て、また歩く。それが一番難しくて、一番いい」


 セラは微笑んだ。


「あと、一つだけ」


「何だ」


「リーネさんからの手紙を、待ちます。ルドナのギルドに届くはずだから。銀夜の残火宛てに」


 約束がある。

 カレイドで握った手。“ルドナのギルドに一報ください”。

 手紙が届くかどうかは分からない。

 リーネが本当にパーティを抜けるかどうかも分からない。

 でも、待つことはできる。

 待つことも、手を伸ばすことの一つだ。

 “ここで待っている”と伝えたこと自体が、リーネにとっての逃げ道になる。


 アルドが頷いた。


「なら、次はルドナに向かうか。拠点に戻ろう」


「はい」


 セラは立ち上がった。


 窓の外には、春の街道が伸びている。

 道端に黄色い花が咲き始めている。名前は知らない。

 風が柔らかく、日差しが温かい。


 前世の影は、まだ消えていない。

 完全には消えないだろう。

 あの暗い空間の記憶は、セラの一部になっている。

 消すのではなく、抱えて歩く。

 重さを知っているから、足の踏み方が変わる。

 痛みを知っているから、他人の痛みが分かる。


 でも、影の上に光が差している。


 アルドの声。レインの笑い。アネスの手。

 四人の足音。重なる呼吸。並んで歩く影。


 前世では、セラは一人で死んだ。

 今世では、四人で生きている。


 二度目の人生は、まだ続く。

 次の一歩は、もう踏み出している。


 セラは宿の扉を開け、春の風を顔に受けた。


 隣にはアルド、レイン、アネスがいる。

 後ろには、リーネとの約束がある。

 前には、まだ見ぬ道が続いている。


 歩こう。

 今度こそ、最後まで。

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