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二度目の人生は勇者パーティに入りません 〜裏切られた最強魔導士、今度はSランク冒険者と魔王を先に倒します〜  作者: 月代
第五章「魔王討伐」

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第五十三話 前世と今世の境界



 魔王の影腕が一本消えたことで、攻撃パターンが変わった。


 残った左の影腕が防御に回り、身体の前に展開している。

 盾のように広がった影腕が、魔王の胸と顔を覆っている。

 実体の二本の腕が攻撃を担い、従来より積極的に振るわれる。


 速い。前世より速い。

 実体の腕が、コンマ一秒の間に二回振るわれる。


「前世では影腕二本で攻撃していました。実体の腕はそこまで速くなかった。今は実体で攻めてきてる。戦い方を変えてきた」


「学習してるのか」アルドが剣で爪を弾きながら叫ぶ。顔に汗が飛ぶ。


「魔王は知性がある。一度見た攻撃は対策を取る。パターンを読む」


 セラの脳が高速で回転する。

 前世の記憶と今の状況を照合し、差分を抽出する。


 前世と同じ点:城の構造、魔王の基本形態、影腕の弱点。

 前世と違う点:二層目の魔物の種類、門が開いていたこと、魔王の戦術変更。


 前世の知識が全て通用するわけではない。

 だが、基盤はある。基盤の上に、今世の判断を乗せればいい。

 前世の知識は地図であり、今世の判断は足だ。

 地図があっても歩かなければ進めない。


 魔王の左腕が横薙ぎに振られた。

 黒い衝撃波――さっきより細く、速い。扇状ではなく、一本の線。狙い撃ちだ。


 狙いはセラ。


 魔力弾を撃てる唯一の存在を、魔王は最優先で排除しようとしている。

 正しい判断だ。魔王にとってセラが最大の脅威であることは、影腕を消された時点で確定している。


 セラは土壁を立てた。

 床から石の壁が隆起し、セラの前に立ちはだかる。

 だが衝撃波が壁を貫通する。魔力で構成された攻撃に、物理的な壁は紙と同じだ。

 壁が砕け、石片がセラの頬を擦った。血が滲む。


 壁の向こう側にいたレインが、矢を放った。

 衝撃波の隙を突いて、魔王の顔面を狙った一射。

 タイミングは完璧だった。魔王が攻撃動作に入った直後、防御が最も薄い瞬間。

 魔王が左の影腕を動かして弾く。矢が砕け散る。


 だがその一瞬で、衝撃波の追撃が途切れた。

 影腕を防御に使った分、次の攻撃が遅れる。


 セラは横に転がり、体勢を立て直した。

 右の腕が痺れている。衝撃波の余波を受けた。指先の感覚が鈍い。


「アネス!」


「分かってる!」


 アネスの回復魔法が飛んでくる。

 緑色の光がセラの右腕に絡みつき、痺れが引いていく。

 指先の感覚が戻る。


 四人の連携が、自然に回っている。

 誰かが攻めている時、誰かが守り、誰かが回復する。

 声をかけなくても、視線と気配で動けるようになっている。

 カレイドの森の哨戒で鍛えた連携が、ここで活きている。


 これが、パーティだ。

 前世のセラは、これを知らなかった。

 “パーティ”という言葉は知っていたが、中身を知らなかった。


     ◇


 戦闘が十五分を超えた頃、変化が起きた。


 魔王が後退した。


 初めて、魔王が距離を取った。

 実体の腕を振るう動作を止め、魔法陣の中央に戻った。

 三本の腕を広げ、身体を浮かせた。

 足が床から離れ、魔法陣の上空に浮いている。


「来る」


 セラが叫んだ。


 魔法陣が激しく発光した。

 紫の光が空間全体を満たし、影が消える。

 床の紋様が回転し始めた。螺旋状の文字が光りながら、時計回りに回っている。

 空気が渦を巻く。魔力が魔法陣に吸い込まれ、凝縮されていく。


 大技だ。


 前世でも見た。

 魔王が追い詰められた時に使う広範囲攻撃。

 溜めが長い代わりに、威力が桁違いだ。


 前世では、この攻撃でカイルの盾が砕けた。

 魔力耐性のある特注の盾が、一撃で粉々になった。

 ディーノの指輪が三つ壊れた。指輪は魔力の過負荷で焼き切れた。

 そしてセラは――この攻撃の後に”前に出ろ”と命じられた。

 魔力が尽きかけた状態で、囮になれと。


 記憶がフラッシュバックする。

 紫の光。魔法陣の回転。ユリウスの声。


 “セラ、前に出ろ”。


 視界が白くなりかけた。

 足が床から離れる感覚。ここにいるのに、ここにいない感覚。


「セラ!」


 アルドの声。

 名前。今世の名前。


 白い視界が引き戻される。

 床の感触が足裏に戻る。


「私はここにいる」


 セラは自分に言い聞かせた。声に出した。

 自分の声を聞くことで、現実に戻る。


「ここにいる。今世にいる。四人でいる」


 魔法陣の光が最大になった。

 紫の光が目を灼き、空気が振動する。

 もうすぐ来る。


「全員、私の後ろに!」


 セラは両手を前に出した。

 魔力を全身から絞り出し、防御を展開する。


 壁ではない。

 魔力の膜。空間そのものを歪めて、攻撃を逸らす構造。

 ソロの二年間で編み出した最大の防御術。

 通常の壁は魔力攻撃を受け止めるが、受け止めれば壊れる。

 この膜は受け止めるのではなく、逸らす。

 攻撃の軌道を歪めて、左右に分散させる。

 川の中に立てた楔のように、流れを二つに割る。


 名前はつけていない。名前をつける余裕がなかっただけだ。

 ソロの夜営で、一人で試行錯誤した技だ。


 魔王の広範囲攻撃が放たれた。


 紫の光が波となって押し寄せる。

 音がない。光だけが迫ってくる。

 だが光が触れた場所は全て破壊される。

 床が割れ、壁が砕け、空気が燃える。

 空間全体が紫の光に呑み込まれた。


 セラの防御膜に、波が衝突した。


 衝撃。

 足が地面にめり込む。腕が軋む。歯を食いしばる。

 全身の骨が悲鳴を上げている。

 魔力が削られていく。膜が薄くなる。

 紫の光が膜を侵食し、セラの手のひらに触れそうになる。


 だが、持ちこたえた。


 波が左右に分かれ、四人の横を通過していく。

 背中の風圧で、髪が前に煽られた。


 波が収まった。

 紫の光が薄れ、空間に静寂が戻る。

 床には深い溝が二本、セラの防御膜が光を分割した跡として残っていた。


 セラの腕が震えていた。

 膝が笑っている。

 魔力の残量は三割。一気に消耗した。


 だが四人とも立っている。


 前世では、この瞬間に立っていたのはユリウスだけだった。

 カイルは膝をつき、ディーノは壁に叩きつけられ、セラは床に倒れていた。

 ユリウスだけが聖剣の力で立ち、そしてセラに”前に出ろ”と言った。


 今世では、四人が立っている。


 魔王の紫の瞳が、僅かに揺れた。


「……四人とも立っているのか」


 驚きが、声に混じっていた。

 初めて、魔王の声に感情が乗った。

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