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二度目の人生は勇者パーティに入りません 〜裏切られた最強魔導士、今度はSランク冒険者と魔王を先に倒します〜  作者: 月代
第五章「魔王討伐」

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第五十話 二層目の戦い



 二層目に入ると、空気が変わった。


 一層目の回廊は静かだったが、二層目には”気配”がある。

 壁の向こうに何かがいる。天井の上で何かが動いている。

 音ではなく、魔力の波動で分かる。


 魔力の密度がさらに濃くなり、灯りの魔法が勝手に増幅される。

 セラが抑えないと、光が強くなりすぎて逆に目が眩む。

 出力を通常の三分の一に絞っても、まだ明るい。


「ここからは、魔物がいます。前世では甲虫型の上位種が八体。通路の要所に配置されていた。ただ、今回は種類や数が違うかもしれない」


 セラは魔力感知を最大限に広げた。

 意識を前方に向け、通路の奥まで探る。


 反応がある。

 前方に四つ。右の通路に二つ。左の小部屋に一つ。奥に一つ。

 合計八つ。前世と同じ数だ。


 だが種類が違う。

 甲虫型ではない。魔力の波形が異なる。

 甲虫型の波形は重くて鈍い。硬い殻を持つ魔物特有の、低周波の魔力。

 今感じているのは、もっと鋭い。速い。波が細かい。


「前世と違います。甲虫型じゃない。もっと速い魔物です。波形から推測すると……おそらく、獣型。四足歩行で、鱗か甲殻を持つタイプ」


「獣型か」アルドが剣を抜いた。刃が灯りの光を反射して、一瞬だけ白く光った。「甲虫より厄介だな。速いってことは、一撃で仕留めないと追い回される」


「通路の幅は人が三人並べるくらいです。狭い通路なら、獣型の速度を封じられる。アルドさんが前で壁になれば、一度に来るのは一体か二体に限定できます」


 セラは頭の中で隊形を組み立てた。

 前世の失敗を踏まえて。今世の仲間の能力を活かして。


「アルドさんが前。通路の幅いっぱいに立って、突破を防ぐ。レインさんが後方から、アルドさんの頭の上を越えて矢を射る。私が中央で、左右から来る個体を魔法で牽制と足止め。アネスさんは私の後ろで回復に専念」


「アネスは?」アルドが確認する。


「私の後ろで回復に専念してください。二層目は長丁場になります。魔力場の中で戦闘が続くと、消耗が激しい。回復が途切れると崩れます」


 隊形が決まった。

 アルドが先頭に立ち、剣を両手で構える。

 レインが弓を張り、通路の奥に矢を向ける。矢はあと二十四本。

 セラが中央で魔力感知を維持しながら、攻撃魔法の準備をする。

 アネスが最後尾で回復の態勢に入る。


 前世の勇者パーティの隊形とは違う。

 前世では、ユリウスが先頭で単独突撃し、カイルが横で盾を構え、ディーノが後方から支援魔法を飛ばし、セラは最後尾に”置かれて”いた。

 “置かれて”いた。配置されたのではなく、置かれた。

 戦闘計画にセラの役割はなかった。

 “邪魔にならないように”いれば良いとされていた。


 今世では、セラが攻撃の要だ。

 セラの魔力感知が全ての起点になり、セラの魔法が戦闘の流れを作る。

 三人がセラの判断を信じて動く。


     ◇


 最初の二体が来た。


 暗闇の奥から、赤い目が二対光った。

 低い唸り声。喉の奥から出る、金属を引っ掻くような音。

 獣型の魔物。狼に似た形状だが、体表に黒い鱗がある。

 肩の高さが人間の腰ほど。筋肉が盛り上がった前足に、黒い爪。


 速い。

 甲虫型の倍以上の速度で駆けてくる。

 通路の床を爪が引っ掻き、火花が散る。


 アルドが前に出た。

 通路の幅いっぱいに立ち、剣を正面に構える。

 一体目が跳躍した。空中から、アルドの顔を狙って。


 アルドの剣が横薙ぎに振られた。

 獣の突進を剣の腹で受け流し、反転して首筋を斬る。

 だが鱗が硬い。刃が滑り、火花が散った。

 切れていない。


「鱗がある! 首の裏が弱い! 鱗の合わせ目が首の後ろに集中してます!」


 セラが叫ぶ。

 前世にはいなかった魔物だが、鱗の構造から弱点を読んだ。

 鱗が重なる部分には、必ず合わせ目がある。合わせ目は鱗が薄く、裏側の柔らかい皮膚が露出している。


 アルドが体勢を変え、獣が着地した瞬間に下から切り上げた。

 鱗の隙間に刃が入り、首の裏の柔らかい肉を裂いた。

 獣が甲高い悲鳴を上げ、身体を痙攣させて倒れた。


 二体目は、一体目の悲鳴に怯まなかった。

 一体目の横をすり抜けて、アルドの左側に回り込もうとする。


 レインの矢が飛んだ。

 アルドの頭の上を越え、二体目の目を狙った一射。

 獣が頭を振ってかわす。矢が壁に突き刺さった。


 だがそのかわす動作で、獣の突進が一瞬止まった。


 セラの氷の矢が横から来て、後ろ足を凍結させた。

 氷が足首から膝まで一気に広がり、獣が床に固定される。

 動きが止まった一瞬に、レインの二射目が喉に突き刺さった。


 二体、処理。

 所要時間、約十秒。


「次は右の通路から来ます。二体。距離は三十歩。十秒後にこの位置に到達します」


 セラの予告通り、十秒後に右の通路から獣が二体飛び出した。

 通路の角を曲がってくる。速い。だが角を曲がる瞬間に速度が落ちる。


 その瞬間にセラの氷壁が通路の半分を塞いだ。

 二体が一度に来るのを、一体ずつに分断する。


 一体目がアルドに突っ込む。アルドが受ける。

 今度は最初から首の裏を狙い、一太刀で仕留めた。


 二体目は氷壁を回り込んでくる。

 レインの矢が壁の隙間を通って、二体目の前足を貫いた。

 獣がバランスを崩し、転倒する。

 セラの氷の槍が、転倒した獣の首に突き立った。


 四体、処理。


 アルドが息を整える。額に汗が浮いている。

 だが、表情は安定している。


「セラ、次は?」


「左の小部屋に一体。動いていない。こちらから行く必要があります。通路を進むと、小部屋の前を通過する形になる」


「通過する時に飛び出してくるパターンか」


「はい。前世の甲虫型も同じ配置でした。通路を通過する冒険者の横腹を突く待ち伏せです」


「対策は?」


「小部屋の入口に氷壁を立てて封じます。通過後に、壁越しに攻撃を叩き込む」


 計画通りに実行した。

 セラが小部屋の入口に氷壁を立て、四人が通過。

 通過後、セラが壁の隙間から火球を放ち、小部屋の中の獣を焼いた。

 魔力場の増幅で、通常の倍の火力が出た。制御に気を使ったが、狙い通りに着弾した。


 五体目。


 アルドの腕に、四体目の処理の際に爪傷ができていた。

 左腕の前腕。浅いが、血が滲んでいる。


 アネスが即座に治癒を当てた。

 緑色の光が傷口を覆い、血が止まる。


「大丈夫?」


「かすり傷だ。動きに支障はない。続ける」


 六体目は、通路の奥の広間の手前にいた。

 セラの魔力感知では、広間の入口で待機している。

 広間に入った瞬間に襲ってくる配置だ。


 セラは広間に入る前に氷の矢を三本射込み、獣を広間の奥に追い立てた。

 追い立てた先にアルドが走り込み、首の裏を斬った。


 六体目、処理。


 六体を倒した時、セラは気づいた。


 前世では考えられなかった戦い方をしている。

 全員が全員を見ている。誰一人、孤立していない。

 セラの魔力感知を信頼し、アルドが前で受け、レインが隙を突き、アネスが支える。

 四人の連携が、歯車のように噛み合っている。


 そしてその歯車の中心にいるのは、セラだ。

 セラの感知が全てを始め、セラの魔法が流れを作り、三人がその流れに乗る。


 前世の勇者パーティでは、セラは”邪魔にならないように”戦っていた。

 自分の魔法が味方の邪魔にならないか、常に気を使っていた。

 ユリウスの突撃の邪魔にならないように。カイルの盾の後ろに隠れるように。

 “邪魔にならない”ことが、セラの戦い方だった。


 今世では、セラが戦闘の軸だ。

 セラが「次は右から二体」と言えば、三人が信じて動く。

 信じられている。頼りにされている。


 その差が、胸の奥で静かに燃えていた。


     ◇


 七体目と八体目は、奥の広間で同時に来た。


 広間は通路の三倍の幅がある。

 天井が高く、壁に魔力の紋様が光っている。

 二体の獣が、広間の左右から同時に突進してきた。


 セラは二体同時に氷壁で分断した。

 広間の中央に壁を立て、左右に一体ずつ分ける。

 アルドが左、レインが右。


 アルドの剣が左の獣を斬り、レインの矢が右の獣の目を射た。

 右の獣が悲鳴を上げ、暴れる。

 セラの氷の槍が、暴れる獣の首を貫いた。


 アネスは広間の入口で退路を確保し、万が一の撤退に備えていた。

 前衛が崩れた時に全員が逃げる道を確保する。

 地味だが、最も重要な役割だ。


 八体、全滅。


 誰も倒れていない。

 全員が立っている。

 全員が息をしている。


 前世では、この二層目でセラは三回倒れた。

 一回目は甲虫型の突進に巻き込まれて壁に叩きつけられた。

 二回目は魔法の暴発で自分の腕を焼いた。

 三回目は魔力枯渇で膝が折れた。

 そのたびにユリウスに「遅い」と怒鳴られ、カイルの盾の陰で縮こまっていた。

 ディーノには「邪魔なら下がっていてくれ」と言われた。


 今世では、セラが「次は右から二体」と言えば、三人が信じて動く。

 セラが「首の裏が弱い」と叫べば、アルドが即座に狙いを変える。

 セラが氷壁を立てれば、レインが壁の隙間を計算して矢を射る。


 信頼されている。

 それが、セラの魔法の精度を上げ、判断の速度を上げ、恐怖を抑えている。


     ◇


 二層目を抜けた先に、下り階段があった。


 三層目への入口。

 暗い階段が、地の底へ向かって続いている。

 階段の幅は人二人分。壁は黒い石。手すりはない。

 下の方から、微かに紫色の光が漏れている。

 魔法陣の光だ。


 セラは階段の入口に立ち、闇を見下ろした。


 この先に、魔王がいる。

 前世で死んだ場所がある。

 あの暗い空間が、この階段の下に広がっている。


 足が震えた。

 膝ではなく、足首から先が。

 靴の中で、足の指が丸まっている。


 魔力場の影響か。恐怖の増幅。

 それとも、これはただの恐怖か。

 魔力場に関係なく、前世で死んだ場所に近づけば、身体が恐れるのは当然だ。


「セラ」


 アルドの声。


「怖いか」


「……怖いです」


「いい。怖いまま行け。怖くなくなったら、それは油断だ。怖い方が、判断を間違えない」


 レインが隣に来た。

 弓を肩にかけ、セラの横に立つ。


「俺も怖いよ。言っとくけど。魔王とか、正直聞いた時は冗談だと思った。冗談じゃなかった」


 アネスが反対側に立った。

 薬箱を腰に下げ、セラの横で微笑む。


「私もね。でも、怖いのは普通のこと。怖くない方がおかしい」


 四人で、怖い。

 一人で怖いのとは、質が違う。


 一人で怖い時は、恐怖が全身を覆って動けなくなる。

 四人で怖い時は、恐怖を四分の一ずつ持ち合って、残りの四分の三で動ける。


 セラは一歩、階段を踏んだ。


 前世の自分が死んだ場所へ、降りていく。

 今度は、四人で。

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