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二度目の人生は勇者パーティに入りません 〜裏切られた最強魔導士、今度はSランク冒険者と魔王を先に倒します〜  作者: 月代
第五章「魔王討伐」

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第四十九話 魔王城の構造


 城に近づくと、魔力の密度がさらに上がった。


 盆地の端にいた時点で”重い”と感じた空気が、城に近づくにつれて”痛い”に変わる。

 肌がぴりぴりする。目の奥が痺れる。

 空気を吸うたびに、肺の中で魔力が暴れる感覚がある。

 自分の魔力と外の魔力が衝突して、身体の中で小さな嵐が起きているようだ。


 アネスが咳き込んだ。

 何度も咳をして、目に涙が滲んでいる。


「大丈夫?」レインが聞く。


「……大丈夫。でも、喉が焼ける感じ。空気が辛い」


 レインの目が充血していた。

 魔導士ではないレインやアルドにも、この濃度になると影響が出る。


「全員、口を覆って。布に水を含ませて、鼻と口を塞いでください」


 セラの指示で、四人は水袋から水を出し、布を濡らして顔に巻いた。

 魔力は空気中の微粒子に乗って体内に入る。水を含んだ布で濾過すれば、微粒子の一部を捕捉できる。完全ではないが、多少は軽減できる。


 前世の知識だ。

 ただし、前世ではこの対策を知らなかった。

 セラが自力で気づいたのは、城の中に入ってからだった。

 一層目の回廊で息が苦しくなり、持っていた包帯を水で濡らして口に当てた。

 咄嗟の対処だったが、効果があった。


 だがその時、ユリウスたちはもう先に行っていた。

 セラの対策を共有する機会はなかった。共有しても、聞いてもらえなかっただろう。


 今世では、四人が同じ対策を取る。


     ◇


 城門まで百歩。


 紫の霧が足元を覆い、靴の甲が見えなくなった。

 霧は冷たい。触れると、指先が痺れる。


 セラは霧に手を伸ばし、魔力の密度を測った。

 霧自体は毒ではない。だが長時間吸い込めば、魔力酔いの原因になる。


「霧の中は足元が見えません。罠がある可能性があるので、私の後ろをぴったり歩いてください。足を置く場所を指示します」


 四人は一列で、霧の中を進んだ。

 セラが魔力感知で地面を探り、安全な場所にだけ足を置く。


 城門が目の前に現れた。


 巨大な黒い扉。高さは五メートルを超える。

 扉の表面に、蛇のような紋様が彫られている。

 紋様は前世の記憶通りだ。この蛇は魔王の紋章だと、前世でディーノが言っていた。


 城門は開いていた。


 左右に開いた扉の間から、暗い通路が奥へ続いている。

 通路の奥からは、微かに風が吹いてくる。城の中の空気が流れ出している。

 甘い匂い。腐敗に似ているが、腐敗ではない。魔力が凝縮した時の匂いだ。


「前世では、門は閉まっていました。ユリウスが聖剣で切り開いた。一太刀で扉ごと両断した」


「今回は開いてる。何が違う?」


「分かりません。ただ、魔王が”待っている”可能性はあります。門を開けて、招き入れている。罠かもしれないし、自信の表れかもしれない」


 アルドが剣の柄に手をかけた。

 鞘から三分の一だけ抜き、刃の状態を確認してから戻す。

 戦闘前の儀式のような動作だ。


「入る。セラ、中の構造を教えてくれ」


 セラは記憶を辿りながら説明した。

 城門の前に立ち、暗い通路を見つめながら。


「城は三層構造です。一層目は広い回廊。長さはおよそ三百歩。真っ直ぐではなく、何度か曲がります。罠が多い。床の魔法陣、壁から出る針、天井からの落石。全て魔力で起動する仕掛けです」


「それは避けられるのか」


「私の魔力感知で起動前に察知できます。魔法陣は起動する直前に魔力が集中するので、その兆候を読み取れば回避できる。ソロの二年間で、罠の探知は得意になりました。カレイドの森の小型魔法陣より、こちらの方が規模が大きい分、察知しやすいはずです」


「二層目は?」


「護衛の魔物がいます。前世では、甲虫型の上位種が八体。通路の要所に配置されていました。広い部屋が三つあり、それぞれに魔物が待機していた。配置は変わっているかもしれませんが、通路の構造が同じなら、迎撃の位置は限られます」


「三層目が魔王か」


「はい。最深部。下り階段を降りた先に、広い空間がある。天井が高く、柱がない。床に巨大な魔法陣が刻まれていて、その中央に魔王がいる」


 セラは一拍置いた。


「前世でユリウスが戦った場所です」


 もう一拍。


「……前世で、私が死んだ場所です」


 声が僅かに震えた。

 だが止まらなかった。

 震えを認めた上で、言い切った。


 アルドが頷く。


「一層ずつ行く。急がない。セラの判断を最優先にする。セラが”進め”と言えば進む。“止まれ”と言えば止まる。“退け”と言えば退く。異変があったら、即撤退。いいな」


 レインが頷く。アネスが頷く。セラが頷く。


 四人は城門をくぐった。


 暗闇が四人を呑み込んだ。


     ◇


 一層目の回廊は、前世の記憶通りだった。


 黒い石の壁。天井は高く、松明はない。

 完全な暗闘。人間の目には何も見えない。

 セラの灯りの魔法だけが、回廊を照らしている。


 光が壁に反射し、黒い石が微かに紫色に光る。

 魔力を含んだ石材だ。城そのものが魔力の塊で作られている。


 足音が反響する。四人分の靴音が、回廊の奥へ消えていく。

 静かだが、無音ではない。

 どこかで水が滴る音がする。

 壁の向こうで、何かが軋む音がする。


 床に魔法陣が刻まれている。

 踏めば起動する罠だ。

 魔法陣は黒い石に黒い線で描かれていて、目では見えない。

 だがセラの魔力感知には、はっきりと分かる。

 魔力が陣の形に沿って流れている。踏んだ瞬間に、流れが集中して発動する。


 セラは魔力感知で一つずつ位置を把握し、避けて進んだ。


「ここ、右寄りに。左の壁際に圧力板があります」


「次は中央を避けて。三歩先の床全体が魔法陣です。壁際の幅三十センチだけが安全」


 四人は一列で進む。セラの足跡を正確に辿る。

 アルドがセラの後ろ、レインがその後ろ、アネスが最後尾。

 セラが踏んだ場所だけに足を置く。一歩ずつ。慎重に。


 途中、壁から針が飛び出す罠が二か所。

 セラが事前に警告した。


「この先、壁に穴が四つあります。通過すると針が出る。速度は弓矢と同じくらい」


 アルドが盾を構え、先に通過した。

 壁の穴から黒い針が四本、同時に射出された。

 アルドの盾が二本を弾き、残り二本は反対側の壁に突き刺さった。


 針は黒い金属で、先端に緑色の液体が光っている。毒が塗られている。


「前世では、この針でカイルが腕を擦った。毒で半日動けなくなった。カイルの巨体でも効くほどの強い痺れ毒です」


「厄介だな」アルドが針を観察する。盾から針を引き抜き、先端を嗅いだ。「解毒は?」


 アネスが針を一本回収し、匂いを嗅いだ。

 それから、舌の先で極微量を味見する。


「アネス、危ない」


「大丈夫。この量なら舌が少し痺れるだけ。……痺れ毒。致死性は低いけど、筋肉が弛緩する。握力が消えるから、剣も弓も持てなくなる。解毒薬は持ってる。でも、刺さらないのが一番」


 回廊はさらに続く。

 曲がり角が三回。行き止まりに見える壁が一つ。その壁に隠し通路がある。

 セラは全てを記憶から引き出し、四人を導いた。


 一層目を抜けるのに、一時間かかった。

 前世では三十分だった。慎重に進んだ分、時間はかかるが、誰も怪我をしていない。


 前世では、この時点でセラが一本の針を踏んでいた。

 隠し通路の入口にあった床の罠を、暗闇で踏んだ。

 足首に針が刺さり、痺れが残った。

 右足の感覚が鈍くなり、まともに歩けなくなった。


 ユリウスは”気をつけろ”と言っただけで、治療はしなかった。

 アネスのような回復役はいなかった。

 セラは痺れた足を引きずりながら、二層目に進んだ。


 今世では、全員が無傷だ。


 その差が、セラの胸に染みた。

 前世で失ったもの全てが、今世では守られている。

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