ep.662 黄金の福利厚生、あるいは「逃げ場のない家族計画」
「……ふふ。極新人、お前の計算は完璧だ。だが、お前は一つ……大きな失念をしている」
強制労働の執行キーを叩こうとする極新人の前に、サヨがアイロンの効いた「婚姻届」を盾のように構えて立ちはだかりました。その瞳には、家計簿の数字をも焼き尽くす執念の炎が宿っています。
「計算?利益?……そんな端金で、私たちの『愛』が清算できると思っているの?」
「さらっと。……補足。サヨ様が提示しているのは、極新人様が提示した『強制労働契約』を上書きする、さらに上位の特約条項――通称『暗黒福利厚生制度』です」
サヤの淡々とした実況と共に、会場のスクリーンに新たな数式が投影されました。それは極新人の「22NkQ」を、サヨの「情念」で割ったような、おぞましい計算式でした。
「極新人君!あなたが騎士を『自家発電タービン』にするというのなら、私はそのタービンの『法定代理人』として、全ての発電エネルギーを『家庭内貯蓄』として差し押さえる権利があるわ!」
「パパ!アリスも考えたよ♪パパが24時間働くんだったら、アリスはパパの『心のケア担当』として、1分ごとにパパの耳元で『パパ、大好き(追加融資のお願い)』って囁き続ける権利を要求するね!」
これこそが、愛という名の狂気の福利厚生。極新人が「効率」を追求すればするほど、その成果はサヨの「家計」へと吸い込まれ、騎士の精神はアリスの「情操教育」によって削られていくという、逃げ場のない無限ループです。
「にゃうにゃああ!これなのです!『労働』と『家庭』が合体して、逃げ場のない一蓮托生の地獄が完成したのですー!!全銀河の社畜が涙する、究極のブラック・マリッジなのですー!!」
咲姫がカメラを限界までズームさせ、興奮で鼻血を出しながら叫びます。極新人の無機質なホログラムが、初めてわずかに歪みました。
「……不可解です。私の計算では、この福利厚生を適用すると、城の全利益がサヨ様の『へそくり』として消滅し、騎士様の精神崩壊までの残り時間は……わずか3分。これでは城の運営が成り立ちません」
「あはは!極新人くんも困ってるねぇ~。でも大丈夫だよぉ、僕がこの『家族計画』に、うさちぁん特製の『アルコール年金制度』を混ぜてあげちゃおっかぁ♪」
うさちぁんが酒樽を傾けると、ドロドロのピンク色の液体が「祝儀」として会場に溢れ出しました。
「ひぎィィィ!数字と愛のダブルパンチで、僕の時給がマイナス無限大に加速していくニャー!誰か……誰か僕を、福利厚生も何もない、ただの汚いドブ川に捨ててニャーーー!!」
ウェディングケーキの堆肥の中で、猫二の絶叫が空虚に響き渡りました。
狂気の福利厚生は多分こういうのだと思うです。




