ep.212 鉄の音、街の拍動
「……嬢ちゃん、いいか。火は『命』だが、剥き出しの火はただの『野火』だ。街にするなら、火を飼い慣らさなきゃならねえ」
石積み職人ガラムは、咲姫のスープを飲み干すと、鋭い眼光を仮設のかまどに向けた。 彼はリオに川原から石を運ぶよう指示し、自らは袋からずっしりと重い「鉄床」を取り出した。
ところが。 石を拾いに行ったはずの咲姫が、川べりで足を止めて鼻をヒクヒクさせていたのです。
「……くんくん。リオ、聞こえるのです。キラキラした、とっても美味しそうな『跳ねる響き』がするのです!」
「咲姫、今は石を運ぶのが先だよ。……って、おい、何をする気だい!?」
リオの制止も聞かず、咲姫は川に向かって両手を広げた。 「風よ、魚さんの背中を優しく押すのです! 水よ、魚さんの通り道をお空に作るのです!」
それは、風の魔法と水の魔法を無理やり掛け合わせた、咲姫流の「即席・空中漁網」。 バシャーン! と水柱が上がったかと思うと、川の中にいた丸々と太った銀色の魚たちが、魔法の渦に巻き込まれて次々と陸へ「飛んで」きたのです。
「獲ったのです! エトスフェリアの初音は、お魚さんのピチピチ音なのです!」
咲姫は石を運ぶ代わりに、両手いっぱいの魚を抱えてガラムのもとへ駆け戻った。 「ガラムさん! 今すぐ、この子たちを最高に美味しく焼ける『お家』を作るのです! そうしないと、この子たちが成仏できないのです!」
「……てめえ、石運びはどうした! ……ったく、そんな美味そうなもん見せられちゃ、職人として手は抜けねえな」
ガラムは呆れながらも、ニヤリと笑った。 咲姫の獲ってきた魚を焼くために、彼は予定していた設計を変更し、石の隙間に「魚を串ごと刺せる専用の溝」を急遽追加した。
カン! カン! カン!
鉄を打つ乾いた音が、咲姫の鼻歌と魚の焼ける香ばしい匂いに混ざり合う。 完成したのは、一度火を入れれば一晩中冷めず、上では煮込み、横では焼き魚、中ではパンが焼けるという、食いしん坊の夢を形にした「魔法の石窯」でした。
「できたのです! これがエトスフェリアの、美味しいの心臓なのです!」
焼きたての魚に、ほんの少しの岩塩を振って。 パリッとした皮の中から溢れる白い湯気とともに、四人は「新しい場所」が動き出した確かな手応えを噛み締めたのでした。
咲姫の食欲が大暴走。
これが咲姫です。
書き終わってから見直したら「お使いに行ったのに違うことしてお使いを忘れる子供」だなとか思いました。




