ep.213 風を編む屋根と、魔法の結び目
「大変なのです! お鍋が泣いているのです!」 突然の夕立に、咲姫が叫んだ。せっかくガラムが作ってくれた完璧なかまどに、雨粒が容赦なく降り注ぐ。リオとミナがマントを広げて火を守ろうとするが、吹き付ける風に火種が弱まっていく。
「どきな、坊主。火にだって傘が必要だ」 ガラムが濡れた髪をかき上げ、金槌を腰に差した。彼はリオに斧を渡し、近くの森からしなりの強い若木を切り出すよう指示した。
ここでミナが、編纂帳を置いて立ち上がった。 「……ガラムさん、骨組みの固定は私にやらせて」 ミナは旅の途中で覚えた、とある特殊な結び方を披露した。
「それは……『もやい結び』か? ほう、よく知ってるな」 「ええ。一度結べば絶対に緩まない。でも、解きたいときは魔法みたいにすぐ解ける……この街の『縁』も、そうありたいから」
ミナの指先が鮮やかに動き、若木と若木がガチリと固定されていく。 数時間後。そこには、壁のない、けれど頑丈な「円形の東屋」が産声を上げた。
しかし、そこで咲姫の天然なこだわりが爆発したのです。 「ガラムさん! このかまどの『後ろ側』、もったいないのです!」
「ああん? 何がだよ」 「こっち側は、火の神様がポカポカをお裾分けしてくれてるのです。ここに、みんなでゴロゴロできる『お昼寝の箱』を作るのです!」
咲姫はガラムを急かし、かまどの排熱が伝わる石壁の裏側に、小さな板張りの小部屋を増設させた。 それは、世界で一番贅沢な「床暖房付きの避難所」。
「できたのです! 雨の日もお外は寒いけど、ここだけは春なのです!」 屋根の下、もやい結びで守られた東屋で、咲姫たちはかまどの裏のポカポカな部屋に肩を寄せ合った。
「……生きてるって、こういう温かさのことなんだな」
雨音をBGMに、咲姫は満足げに瞳を閉じたのでした。
咲姫の発想は斜め上を行きます。
避難所に床暖房ってもう避難所じゃないよね?




