ep.205 結界の外
その人影に、咲姫は見覚えがあった。
町の入り口、かつて“結界”と呼ばれていた石の門。
そこに立っていたのは、
十数年前に町を出ていった青年——
「……タカユキさん?」
ミナが、驚いたように声を上げた。
青年は、少し照れたように笑った。
「ただいま。
……なんだか、呼ばれた気がしてね」
咲姫は、そっとうなずいた。
「語りが、届いたのですね」
タカユキは、火台のほうを見た。
「夢に出てきたんだ。
あの火のまわりで、
誰かが“咲姫の名を呼んでいた”」
ミナは、手にしていた記録帳を開いた。
「ここに、あなたの名前があるんです。
昔、咲姫の語りを手伝っていたって」
タカユキは、目を細めた。
「……あのときは、
語りなんて、ただの昔話だと思ってた。
でも、今は違う。
語りって、町そのものなんだな」
咲姫は、火台のそばに歩み寄った。
「町を離れても、
語りは、縁を結び直してくれます。
ようこそ、おかえりなさい」
火の灯りが、ふわりと揺れた。
それは、町が応えているようだった。
『縁の章・伍
結界の外。
語りは、町の外へも届く。
かつて離れた者に、
帰る場所を思い出させる。
語りがあるかぎり、
縁は、いつでも結び直せる。』
“縁の章”第五話は、結界の外。
かつて町を離れた者が、
語りに導かれて帰ってきました。
語りは、町の中だけでなく、
外にいる人々にも届くもの。
語りがあるかぎり、
縁は断たれず、いつでも結び直せる——
そんな希望を描いた回です。
次は、咲姫が“咲姫”として町の前に立つ回へ。




