SeSk02.咲姫、逃走の余白
だだだだだだだっ!!
咲姫は、訓練場から全力で駆け出した。
砂埃が舞い、足音が遠ざかる。
胸が熱い。
顔も熱い。
頭の中はもっと熱い。
「な、なにあれ……なにあれ……なにあれ……!」
走りながら、咲姫は自分の頬を押さえた。
触れた指先が熱を感じる。
「孝平さんが……騎士……?そんなの……そんなの……聞いてない……!」
思考がまとまらない。
まとまらないどころか、
さっきから同じ言葉が頭の中をぐるぐる回っている。
「……その顔で、あの声で……騎士だったんですか……?」
自分が言った言葉を思い出して、
咲姫はさらに顔を覆った。
「うにゃあああああああああ!!」
だだだだだだだだっ!!
さらに加速する。
一方その頃、孝平
孝平は剣を拾い上げ、
特に急ぐでもなく、淡々と訓練を再開していた。
「……驚かせたかな」
その程度の感想。
追いかける気配は一切ない。
そもそも追いかけるという発想がない。
「気づかれないなら、それでいいと思ってたんだけどな……」
淡々とした声が、熱気の中に溶けていく。
咲姫、逃げた先で
木陰に飛び込み、
咲姫は膝に手をついて息を整えた。
「はぁ……はぁ……なんで追ってこないの……!」
言ってから、自分で自分にツッコミを入れる。
「いや、追ってこられても困るけど……!でも……でも……!」
胸の奥がざわざわする。
驚き
恥ずかしさ
混乱
そして、ほんの少しの寂しさ
全部が混ざって、
咲姫の心をかき乱していた。
「……あんなの……反則……」
木にもたれ、
咲姫は顔を覆ったまま小さく呟いた。




