SeSk01.咲姫、知らなかった真実
昼下がり。
地面が揺れるほどの熱気が、訓練場の空気をゆらゆらと歪ませていた。
咲姫は、たたたっと軽い足音で走っていた。
何かを探しているような、そんな気配。
ふと視界の端に、見慣れた銀色の鎧が映る。
「あ、騎士さんだ」
咲姫は小さく息を整え、近づいていく。
騎士はひとり、黙々と剣を振っていた。
鎧の隙間から汗が落ち、陽光にきらめく。
その動きが止まる。
騎士がメットに手をかけた。
カシャン。
外したメットの下から、汗をぬぐう素顔が現れる。
その瞬間、咲姫の足が止まった。
「…………え?」
一拍。
二拍。
三拍。
「えっ……えっ……えっ……!?
孝平さん!?
なんでいるの!!??!?」
声が裏返る。
咲姫の顔が一気に真っ赤になる。
「ち、ちょっと待って……頭が追いつかない……」
「なんで……なんで言ってくれなかったんですか……!」
「……その顔で、あの声で……騎士だったんですか……?」
孝平は汗をぬぐいながら、いつもの淡々とした声で言う。
「……隠してたつもりは、なかったんですけど」
「むしろ何で気づかなかったの?」
咲姫の脳が完全にフリーズする。
「き、気づけるわけ……ないじゃないですか……!」
頬は真っ赤。
目は泳ぎ、言葉はしどろもどろ。
そして次の瞬間。
「~~~~っっ!!」
咲姫は顔を覆い、
だだだだだだだっ!!
と全力で走り去った。
砂埃だけが残る。
孝平はその場で汗をぬぐいながら、特に追うこともなく、淡々と剣を拾い上げる。
「……暑いなぁ」
その静かな独り言だけが、熱気の中に溶けていった。
異常な世界の中で、ほんの一瞬だけ訪れた“普通のラブコメ”
それは、連休の断片の中でもひときわ鮮やかな一幕だった。




