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第百十五話 後日譚その弐

特別に謁見を許されたおりょうは、広間にて落ち着かない様子で帝の出座を待っていた。

程なく

「帝の御成ー」

奏上役の者が現われて声を上げると

御簾の後ろに帝が現われてゆっくりと座る気配が感じられた。

本来ならばここで奏上役を挟んで遣り取りをするのだが、帝たっての希望で直接言葉を交わすという異例の事態となっていたので、そのことだけでもおりょうにとっては気の重いことであった。

先の綸旨の際は奏上役や大納言を挟んでの遣り取りだったのだ。

おりょうは奏上役が現われる少し前から緊張の面持ちで平伏していたが

「堅苦しいことはよい、面を上げよ。」

「いえ、その・・・。」

直接遣り取りをするということだけでもいっぱいいっぱいだった上に、いきなり声を掛けられたおりょうは戸惑ったが、帝の有無を言わせぬ口調に負けて顔を上げた。

「うむ。此度は大義であった。その功績足るや恩賜の十手に相応しい者と思うのだが?」

帝の方には既に十手の返納の件は耳に入っているらしい。

「恐れ多いことながら、今回の事はうち一人の力やあらへんし。」

「しかし其方がおらねばここまで上手くはいかんかったと思うぞ。」

「・・・。」

おりょうは押し黙ると辺りには暫し重苦しい空気が流れたが、その空気を破るかのように帝が合図を送ると、御簾がスルスルと上げられた。

「えっ!?」おりょうは突然のことに思わず声を上げた。

「其の方の功に報いるのにはこの位のことは当たり前のことだがな。」

帝が下々の者に顔をさらすなどあり得ないことではあるが、そのあり得ないことをさも当たり前可のように行って見せたのだ。

「はわわわ~っ」ただですら緊張の極致にあったおりょうは、常なら口にすらしないような言葉が口に出るほど動揺した。

「少しは落ち着きなさい。十手のおりょうが泣くぞ。」

「あ、はい、すんません。」

おりょうは何とか落ち着くと、あくまでも恩賜の十手は返すことを願い出た。

押し問答になってはいたが、結局おりょうの言い分が通ったのだ。

おりょうとしては、

『十手は父親が受けた物であり私の力では無い』ことと

『父親の無念を晴らし、事が片付いた』

ことが返納の理由であり、自身は元々恩賜の十手には興味は無く、むしろ今回の一件では事件の解決には役には立ったが、身分を弁えていないとい各方面から非難を受けることになったのは本意では無いと言うことを根気よく説明してなんとか理解して貰えたようだった。

最も、帝も返納の申し出をされることはある程度予測していたようで、今回の拝謁は申し出を受けてから二ヶ月後に定められていたのだ。

「全くこういう頑固なところは父親似なのだな。」

「すんません。」

おりょうは心底申し訳なさそうにしていたが、それだけに帝からの次なる申し出を断ることがどうしても出来そうにはなかった。

「では代わりといっては何だが、これを受け取ってはくれまいか。」

そう言って帝が促すと、奏上役が恭しく三宝に載せられた錦の織物で包まれた物をおりょうの前に差し出した。

「これは一体?」

「良いから開けてみよ。」

おりょうはゆっくりと錦を開くと真新しい十手が姿を現わした。

「これは・・・十手、ですよね?」

「見て解らぬか?安心してくれて良いが、これは官位などとは無縁な当たり障りの無い只の十手である。また、朕からの感謝と友誼の証しでもある。まあ手に取ってみよ。」

おりょうは勧められるまでに十手を手に取った。

手に取った十手はおりょうの手に馴染むというか、大きさといい掴み具合といい明らかにおりょうのために拵えたれた物であることに疑いは無かった。

「手に馴染むええ十手ですね。」

「そうであろう。拵えもそうであるが細工もみごとじゃぞ。」

帝は満足そうに言うと、おりょうは十手をじっくりと見回した。

真鍮に金と銀で象嵌された模様は花があしらわれており、優美な模様でありながら頑丈に出来たよい十手だとおりょうは感じていた。

そして持ち手に目を移すと、巻かれた単色の組紐の境目に彫られていた銘は『徹』のひと文字だった。

「これってもしかして鬼徹の・・・。」

「其方の友人という腕の良い刀鍛冶に頼んだ逸品だ。それ故ふた月の時をかけておったのだ。むろん納めてくれるであろうな。」

「はい!」

おりょうは十手を胸に抱きしめると大きく頷いた。


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