第百十六話 浪速乃華
剛霊武の一件より半年以上過ぎたとある日の午後
おりょうは父親の墓参りへとやって来ていた。
帯には真新しい十手が目を惹き、親分らしい出で立ちであった。
「あ、やっぱりここだったんだ!」
背後から聞き覚えのある明るい声がした方へ振返ると
「お高さん!こっちに戻ってきてたんや。」
「お久し~。おりょうちゃんも元気そうね?」
さすがのお高も墓の前では抱きついて来たりはしなかったが、もう逃さないという殺気にも似た気を纏っているようだった。
おりょうは若干怖じ気づきながらもお高に向き合った。
「その前に親分さんに線香上げてもいい?」
「はい、父も喜びます。」
お高と並んで源蔵の墓に手を合わせて事が全て終わったことを報告した後、二人は近くの茶屋へ赴いた。
「おりょうちゃんお疲れさま。」
「お高さんこそお疲れやったんちゃうの?」
「そうなのよ、毎日毎日報告書いて幕府に送っての繰り返しだったし、事後処理を仕切るのも大変だったし、何よりお壱からのいじめにも耐えたのよ。かわいそうでしょ?おりょうちゃんに慰めて欲しいの。」
お高が泣き真似をしながら寄りかかろうとするのを軽くいなして
「お高さん全然お疲れちゃうやんか。まだ働き足りんのちゃう?」
「おりょうちゃんひどい!」
そういうお高の顔は笑顔だった。
「ごめんやで。でもお高さんありがとう。うちのこと気遣ってくれたんやろ?」
「あーえっと、その十手は帝からの贈り物?」
お高は面と向かって感謝されるのが照れくさいのか無理矢理話題を変えた
「うん、鬼徹が作ってくれたそうや。」
「見てもいい?」
おりょうは十手を抜いてお高に手渡すと
お高は十手を捧げ見たあと、回すようにしてじっくりと拵えを眺め、鬼徹の「徹」の銘を確認すると捧げるようにしておりょうに十手を返した。
「いい十手ね。そう言えば鬼徹さんって鬼の里に帰ったんだっけ?」
「そうやねん。鬼道丸さんちゅう親友やった鬼の遺骨を持って。」
「鬼徹さんはずっとおりょうちゃんのところにいると思ってた。」
「うちもそうして欲しかったけど、もともと父が亡くなった時に事の真相を明らかにするまでって言う約束やったし、恩返しも終わった訳やから寂しいけど仕方ないわ。」
「そっか、おりょうちゃんが納得してるんだったらいいんだけど。」
「それよりお高さん、お志乃ちゃんの事だまっとってくれたんやろ?ありがとうな。」
「え、何のこと?」
「烏小僧のことや。知らんふりしても無駄やで。」
「本当に私も何も。正体を含めて確証の無いことは何も言わなかっただけ。」
「じゃあそういうことにしとく。けど、勝手に感謝しとくで。」
おりょうが笑顔を向けると
「やっぱりおりょうちゃんってかわいい!」
そう叫んでおりょうに抱きついた。常ならやり過ごしているおりょうだったが、この時だけは抱きすくめるに任せていたのだ。
おりょうなりの、お高へのお礼のつもりだったのかも知れない。
おりょうがお高の好きにされていた時だった。
「あ~姉御ここに居はったんですか!」
定吉が目の前に飛び込んできたのだ。
「定吉、血相変えてどうしたん?」
「姉御こそ暢気な。殺しがあったんですわ!」
「殺しやて?どこや!」
「詳しいことは道々話しますわ。とにかくたのんます。」
定吉に促されたおりょうは
「お高さんごめん。ちょっと行ってくるわ。」
そうお高に声を掛けると、十手を帯に差し直して定吉と共に駆けだした。
「おりょうちゃん、頑張ってね!」
おりょうの背中に声を掛けたお高に向かって、おりょうは軽く手を上げて応えて見せた。
「お、あれはおりょう親分とちゃうか?」
「確かにそやな。化け物退治までやってのけた凄い女子やで。」
「西国一の親分、いや、日の本一の親分さんやな。」
「いよ、おりょう親分!日の本一!!」
人々が賞賛する中、今日もおりょうは疾走する
腰に光るは恩賜の十手
殿上人の威光こそ無いが
おりょうが一度手にすれば
悪人共を召し捕って
天に正義を轟かせ
名を天下に知らしめる
十手のおりょうは浪速乃華と
これにて十手のおりょうの物語はひとまず終幕といたします。
御清聴ありがとうございました。




