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第百十四話 後日譚その壱

今回の剛霊武(ゴーレム)騒ぎの中、終始奮闘していたお高達隠密は事が終わってからも奮闘を余儀なくされていた。

事の顛末を幕府に報告することは言うに及ばず、事後処理や表に出して良い情報と出してはならない情報の精査、証拠の収集に逃げた真選教徒の探索。

無論本屋稼業も手を抜く訳にはいかず、あまりの忙しさにお高は些か怒りっぽくなっていた。

「全くどうすりゃいいのよ?何でもかんでも私達に押し付けてくるなんて!!」

「おかみさん、愚痴っても何も終わりませんよ?」

「お壱はどうしてそんなに冷静でいられるのよ?あんたが一番仕事を抱えてるはずよね?」

怒りが収まらないお高をお壱は軽くいなしたのだが、その態度が気に入らないお高は更に

「あーイライラする!いっそこのままお壱に全部投げちゃおうかしら?」

「それは却下です。おかみさんが探索方の総元締めですからね。私ごときがおいそれと分を越える真似は出来ません。」

澄ました顔で言い返すお壱をお高は睨みつけたが、お壱は何処吹く風といった様子だった。

「あーもう、こんな時おりょうちゃんが側にいてくれたらなあ。」

「おかみさん、おりょうさんに迷惑をかけたら駄目ですよ。あちらも忙しいのですから。」

「迷惑なんてかけてないわよ、人聞きの悪い。」

「どうですかね。」

機先を制するようなお壱に図星を突かれ、形勢不利とみたお高は別の話を持ち出して

「おりょうちゃんと言えば恩賜の十手返しちゃったんだって?お壱は知ってた?」

「ええ、その様ですね。勿体なくはありますが・・・。」

お壱は少し言いよどんだが

「まあ仕方ないわね。あの十手のおかげで化け物の退治が出来たようなものだけど、お侍達にしてみれば一介の岡っ引きの、しかも女に好き勝手されたよなものだからね。」

お高はお壱が言い淀んだことをあっさり口にした

実は今回の件では意外なところから苦言を呈されたのが、恩賜の十手による越権行為紛いのことで、岡っ引きが綸旨まで出させて淀の藩士達を動かした事と言うことがよほど気に入らなかったらしく、位階上は何ら問題は無いはずだったが、権限を行使したのが岡っ引きでしかも女子ということが一部幕閣から問題視されたのだ。

「全くクソ爺共は右往左往してただけなのに、事が終わった途端功労者の足を引っ張るんだから。」

「まあ女性であったことも余計癇に障ったのでしょうね。」

「ほんと男ってどうしてこうも嫉妬深いのかしらね。」

「その点、そのことを理解した上で十手を返す決断をされたおりょうさんはさすがですよね。」

「あの子は器が違うからね。さすが私のおりょうちゃん。」

「おかみさんのではありませんよ。」

せっかく話題を変えたのに結局やり込められたお高は、むくれてそっぽを向いた。

その姿を見たお壱は少し微笑むと

「おかみさん、そういえば御前の元へは行かなくて良かったのですか?そろそろ顔を見せて差し上げてもよろしいのでは?」

お壱がそう水を向けると

「確かにそうね。気晴らしに行ってこようかしら?あ、でもまだやることが・・・。」

お高が頭をかきながら暗い顔をしていると、お壱がいつものようなすまし顔で

「書き付けの整理でしたら私がやっておきますよ。」

「助かる、だからお壱の事好きなのよ!ありがとう!!」

「おかみさん抱きつかないで下さい。ウザいです。」

お高に抱きつかれたお壱は、嫌がった口ぶりながらその表情は明るかった。

その様子を見ていたお冬達は

「いつもの事ながらあの二人仲がいいわね。」

「お頭を上手く転がしてますよねお壱様って。」

お冬の言葉を受けて楪が面白そうに言えば

「だよね。まああの二人がいれば安泰だよね。安心して仕事が出来るよ。」

咲も楽しげに応えた

「まあ私達伊賀者は淡々と仕事をこなすだけよ。咲も楪も頼むわね。」

そう言うお冬に向かって二人は大きく頷いた。

隠密方は江戸へここまで集めた情報を江戸へ送りつつ、事後処理の裏方として京都や大坂の間を飛び回って力を振るうという役割はその後も続き、お高達が日常を取り戻すのはこの後、更に半年の刻を必要とするのだった。

他日おりょうは京の御所へ姿を見せていた。

恩賜の十手を返納するために。





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