第8話 勝手に縁結び!?
第8話 勝手に縁結び!?
「二人でデート作戦よ!」
朝。
あんずの一言で、神谷家の朝食が止まった。
ママは箸を持ったまま固まっている。
「……デート?」
「そう!」
あんずは得意そうに胸を張った。
「昨日の作戦その一は、二人で料理するところまで成功したわ」
「成功してない!」
ママがすぐに否定する。
「私、ただ夕飯を作っただけだから!」
「でも、恒一さん、楽しそうだったよ?」
ひまりが嬉しそうに身を乗り出す。
「ママも笑ってた!」
「ひまり……」
「だから次は、お出かけ!」
ひまりは両手を上げて喜んだ。
「お出かけ大好き!」
さくらが慌ててひまりの肩を押さえる。
「ひまり。今回はママと恒一さんだけのお出かけなの」
「えーっ!」
「私たちはお留守番」
「つまんない!」
ひまりが頬を膨らませる。
その隣で、すずはママの顔をじっと見ていた。
「……ママ、嫌なの?」
「え?」
「恒一さんと二人で出かけるの」
ママは少し考えた。
「嫌……ではないけど」
「じゃあ、大丈夫」
すずはふわっと笑った。
「ママ、最近楽しそうだから」
その言葉に、ママは何も言えなくなった。
すると、ももがママの膝によじ登る。
「ママ、お出かけするの?」
「うん。もし行くならね」
「ももも行く!」
「今回はお留守番だよ」
「いや!」
ももはママの首にぎゅっと抱きついた。
「ママと一緒がいい!」
「もも……」
ママが困った顔をする。
その様子を見ていたあんずが、指を一本立てた。
「大丈夫よ、ももちゃん」
「ほんと?」
「ママはちゃんと帰ってくるから」
「……うん」
ももは渋々ママから離れた。
あんずはそんなももを見て、小さく笑う。
「よし。作戦開始ね」
「だから、勝手に作戦を始めないで!」
ママのツッコミが飛んだ。
---
その日の夕方。
恒一が仕事から帰ってきた。
「ただいま」
「おかえりなさい!」
ひまりが玄関へ駆けていく。
勢い余って、恒一の足元で止まれず――。
「わっ!」
「おっと」
恒一がひまりの腕をつかんだ。
「危ないよ」
「えへへ……」
ひまりは頭をかいた。
「でも、恒一さんに会いたかったんだもん!」
「ありがとう」
恒一が笑う。
さくらも後ろからやってきた。
「ひまり、走ったらダメでしょ」
「ごめんなさーい」
「もう……」
そう言いながら、さくらはひまりの服についた埃を払ってあげる。
すずは玄関の少し離れたところに座り、恒一を見つめた。
「……今日は疲れてる」
恒一が目を丸くする。
「分かる?」
「うん。いつもより目が疲れてる」
「すずちゃんはよく見てるね」
恒一が優しく笑う。
すずも小さく笑った。
「無理しないでね」
「ありがとう」
そして、もも。
ももは恒一ではなく、まずママのところへ行った。
ママの手を握る。
「ママ、今日ずっと待ってたよ」
「そうなの?」
「うん!」
そして恒一を見上げる。
「恒一さんもママと一緒にいてね」
「え?」
恒一が驚く。
ママの顔が赤くなった。
「も、もも! 何言ってるの!」
その後ろで、あんずがニヤニヤしていた。
「これは使えるわね……」
「何が?」
さくらが聞く。
あんずは耳元で囁いた。
「今夜、二人をくっつけるの」
---
夕食後。
ママが食器を片づけていると、あんずが突然、恒一の前に立った。
「恒一さん」
「ん?」
「お願いがあるの」
「どうしたの?」
「明日、ママをお出かけに連れて行って」
「え?」
恒一がママを見る。
「ええっ!?」
ママは驚いて振り返った。
「あんず!」
「だってママ、最近ずっと頑張ってるもん」
さくらも食器を持ちながら頷く。
「それは……そうだけど」
「たまには休んだほうがいいよ」
さくらはママの顔を見て、優しく笑った。
ひまりも手を挙げる。
「私も賛成!」
すずも静かに頷いた。
「……二人で出かけたら、ママも嬉しいと思う」
そして、もも。
「ママ、行ってきていいよ」
「もも……」
ママが少し驚く。
ももは寂しそうにしながらも、笑った。
「帰ってきたら、抱っこしてね」
「もちろん」
ママはももを抱きしめた。
「ありがとう」
その光景を見て、恒一が優しく笑う。
「じゃあ……明日、もしよかったら一緒に出かけませんか?」
「……!」
ママは固まった。
「え、あ……はい」
顔が一気に赤くなる。
その瞬間。
五人が一斉に顔を見合わせた。
あんずが小さくガッツポーズ。
ひまりは両手を握って喜び、
さくらはホッと胸を撫で下ろし、
すずは微笑み、
ももは嬉しそうに拍手した。
ところが――。
「じゃあ、明日みんなで――」
恒一が言いかけた。
「違う!」
あんずが叫ぶ。
「二人で!」
「え?」
恒一が目を丸くする。
ママは顔を真っ赤にした。
「ちょっと、あんず!」
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翌朝。
玄関に立つママと恒一。
「本当に行くの?」
ママが小声で聞く。
「子どもたちが、せっかく勧めてくれたから」
恒一が笑う。
「俺も、少し楽しみです」
「……私も」
ママが小さく答える。
二人が歩き出す。
その背中を、五人が窓から見送っていた。
ひまりが窓に張りつく。
「いってらっしゃーい!」
さくらがひまりの服を後ろから引っ張る。
「落ちるよ!」
「でも見たい!」
すずは二人の背中を眺めながら呟いた。
「……なんだか、いい感じ」
ももは窓に小さな手を当てる。
「ママ、早く帰ってきてね」
そして、あんず。
あんずは腕を組み、満足そうに頷いた。
「ふふっ」
「どうしたの?」
さくらが聞く。
「ここからが本番よ」
あんずは、机の上に並べた小さな紙を取り出した。
そこには――。
『縁結び大作戦』
と書かれている。
「……あんず?」
さくらが嫌な予感を覚える。
「何をするつもり?」
あんずはニッと笑った。
「二人がもっと仲良くなるように、ちょっとだけ手伝うの」
「ちょっとだけ?」
「そう」
ひまりが紙を覗き込む。
「何するの?」
あんずは小声で答えた。
「二人が同じ場所に行くようにして、同じものを見つけるようにして――」
「それ、ちょっとじゃないよ!」
さくらが叫ぶ。
その頃――。
ママと恒一は、まだ知らなかった。
五人の座敷わらしちゃんたちが、自分たちの恋を勝手に応援していることを。
そして、その「縁結び」が――。
後に神谷家を巻き込む、大騒動の始まりになることを。
「ふふふ……」
あんずは楽しそうに笑った。
「絶対、二人を幸せにするんだから!」
その隣で、ひまりが元気よく叫ぶ。
「恋愛大作戦、頑張ろー!」
「おー!」
五人の声が、神谷家に響き渡った。




