第7話 座敷わらしちゃんの恋愛大作戦
第7話 座敷わらしちゃんの恋愛大作戦
「ねえ、ママ」
朝食の途中、あんずが突然、真剣な顔でママを見つめた。
「な、なに?」
ママが箸を止める。
あんずは小さな手を顎に当て、じーっとママの顔を観察している。
「ママ……恒一さんのこと、好きでしょ?」
「ぶっ!」
ママは飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。
「な、なに言ってるの、あんず!」
「顔が赤いよ」
「赤くない!」
すると、隣にいたひまりがママの顔を覗き込んだ。
「ほんとだ! ママ、真っ赤!」
「ひまりまで!」
ひまりは楽しそうに笑いながら、ママの頬を指でつつく。
「恒一さん、かっこいいもんね!」
「そういう問題じゃないの!」
さくらは慌ててひまりの手を止めた。
「ひまり、ママをからかっちゃダメ!」
そう言いながらも、さくらはちらっとママを見る。
そして、小さく頷いた。
「……でも、恒一さん、優しい人だよね」
「さくらまで……」
ママが頭を抱える。
その横で、すずは黙ってママの顔を見ていた。
しばらくして、ぽつり。
「……ママ、恒一さんといるとき、笑ってる」
「え?」
「前より、いっぱい笑ってるよ」
その言葉に、ママは黙った。
確かにそうだった。
恒一の家に来る前は、毎日五人の世話で精一杯だった。
笑う余裕なんて、あまりなかった。
けれど――。
恒一と話しているとき。
子どもたちと一緒に食卓を囲んでいるとき。
自然と笑っている自分がいる。
「……そう、かな」
ママが小さく呟く。
すると、あんずがニヤッと笑った。
「決まりね」
「なにが?」
「ママと恒一さんの恋愛大作戦!」
「ええっ!?」
あんずが立ち上がる。
「作戦開始よ!」
「ちょっと待って!」
ママの声が響く。
しかし、もう遅かった。
ひまりはすでに椅子から飛び降りている。
「作戦って何するの?」
あんずは得意げに胸を張った。
「まずは、二人きりになる時間を作るの!」
「それ、絶対余計なことするつもりでしょ!」
さくらが腕を組んだ。
「でも……ママが幸せになるなら、私も協力する」
「さくらまで!?」
すずは窓の外を眺めながら、静かに言った。
「……ママ、幸せそうになるかな」
「すず……」
そして、ももはママの膝によじ登った。
「ママが幸せになるの?」
「う、うん……」
「じゃあ、ももも応援する!」
「ありがとう、もも……」
ママが抱きしめる。
その様子を見ながら、あんずは小さく笑った。
「ふふっ。これで五人全員、協力者ね」
「私はまだ何も許可してない!」
ママの叫び声が、家中に響いた。
---
その日の夕方。
恒一が仕事から帰ってくる。
「ただいま」
「おかえりなさい!」
ひまりが玄関まで猛ダッシュする。
「恒一さん、おかえり!」
「ただいま。今日も元気だね」
恒一が笑う。
「うん!」
ひまりは嬉しそうに笑った。
その後ろから、さくらが走ってくる。
「恒一さん、お疲れさまです。お風呂、すぐ入れますよ」
「ありがとう、さくらちゃん」
「……!」
さくらの頬が少し赤くなる。
「ど、どういたしまして……」
すずは少し離れた場所から恒一を見ていた。
「……今日は疲れてるね」
「え?」
恒一が驚く。
「目が少し寂しい」
「……そう見える?」
すずは頷いた。
「うん」
恒一は少しだけ笑った。
「すずちゃんには、隠せないな」
すずは嬉しそうに目を細めた。
そして――。
「恒一さん!」
ももが両手を広げて走ってくる。
「抱っこ!」
「はいはい」
恒一がももを抱き上げる。
「今日もいっぱい遊んだ?」
「うん!」
その様子を見ていたあんずが、ママの袖を引っ張った。
「ママ、今よ」
「何が!?」
「夕食を二人で作るの」
「え?」
「私たちが子どもたちを見てるから」
「いやいやいや!」
ママが小声で抵抗する。
しかし、ひまりが突然手を挙げた。
「ママと恒一さん、一緒にご飯作る!」
「ひまり!?」
「さんせーい!」
さくらまで手を挙げる。
すずも静かに頷いた。
「……いいと思う」
ももは恒一の腕の中から、
「ママと恒一さん、一緒がいい!」
と笑う。
「みんな……!」
ママは頭を抱えた。
あんずだけが満足そうに笑っている。
「作戦その一――大成功」
「まだ始まったばかりでしょうが!」
---
結局、ママと恒一は台所に立つことになった。
「じゃあ、俺が野菜を切るよ」
「お願いします」
二人並んで料理をする。
最初は少し気まずかった。
けれど、恒一が包丁を持ちながら言った。
「こういうの、久しぶりだな」
「料理ですか?」
「うん。誰かと一緒に作るの」
ママは手を止めた。
「……一人だと、料理する気にならないですもんね」
「そうなんだ」
恒一は少し寂しそうに笑った。
「家に帰っても、誰もいないから」
その言葉を、ママは黙って聞いていた。
「でも……今は違いますね」
「え?」
「帰ってきたら、みんながいるから」
恒一が笑う。
「うん。すごく嬉しいよ」
その笑顔を見て、ママの胸が温かくなる。
「……私も」
思わず口から出た。
「え?」
「……いえ、何でもありません」
ママは慌てて下を向いた。
頬が熱い。
その瞬間――。
台所の隅から、五つの小さな顔がひょこっと現れた。
「……!」
「見てる……」
さくらが慌てて口を押さえる。
ひまりは楽しそうに笑っている。
すずは二人をじっと見つめている。
ももは嬉しそうに手を叩いている。
そして、あんずは小さく親指を立てた。
「脈あり」
「こらーーーっ!」
ママの声が台所に響いた。
恒一は何が起きたのか分からず、笑っている。
その笑顔を見て、五人は顔を見合わせた。
あんずが小声で言う。
「……次の作戦に行くわよ」
ひまりが目を輝かせる。
「次はなに?」
あんずはニヤリと笑った。
「二人でデート作戦」
「デート!?」
五人の声が重なった。
そして――。
ママの悲鳴が、再び家中に響き渡った。
「あなたたち、何を企んでるのーーー!?」




