第6話 イケメン兄弟の家
第6話 イケメン兄弟の家
神谷恒一の家で暮らし始めて、数日。
ママは朝から大忙しだった。
「ひまり、そこに置いたら危ないわよ!」
「はーい!」
「さくら、手伝ってくれてありがとう」
「うん、ママ!」
「すず、ご飯できたわよ」
「……眠い」
「もも、起きて」
「ママ、抱っこ……」
「はいはい」
そして――。
「ママ!」
最後に現れたのは、あんず。
「何?」
「今日、こういちお兄ちゃんのお友達が来るよ」
「え?」
ママが振り返った。
「どうして知ってるの?」
「昨日、電話してたから」
「あんず、盗み聞きしたの?」
「聞こえただけ」
「……まあいいわ。それで?」
あんずはニヤリと笑った。
「すごくカッコいい人が来るみたい」
その瞬間。
ひまりが飛び上がった。
「イケメン!?」
「うん」
「どんな人?」
「こういちお兄ちゃんのお兄さんだって」
「お兄さん!?」
五人の目が輝いた。
ママは嫌な予感がした。
「みんな、変なことしちゃダメよ」
「はーい!」
返事だけは立派だった。
昼過ぎ。
玄関のチャイムが鳴った。
ピンポーン。
恒一が玄関へ向かう。
「いらっしゃい」
「久しぶりだな、恒一」
玄関に立っていたのは、恒一より少し年上の男性だった。
背が高く、爽やかな雰囲気。
名前は――。
神谷蓮。
恒一の兄だった。
「兄さん、元気だった?」
「ああ。仕事で近くまで来たから寄ってみた」
「そうなんだ」
そのとき。
襖の隙間から、五人の小さな顔が並んだ。
「…………」
蓮が目を丸くする。
「恒一……」
「うん」
「この子たちは?」
恒一は苦笑した。
「座敷わらし」
「……は?」
その瞬間。
「イケメン!」
ひまりが飛び出した。
「こら!」
ママが慌てて追いかける。
「こんにちは!」
さくらが丁寧に頭を下げる。
「こんにちは」
すずも小さく挨拶する。
ももはママの足にしがみついた。
「あの人、イケメン?」
「……うん」
ママが小声で答える。
「あんず?」
あんずは蓮をじっと観察していた。
「……なるほど」
「何がなるほどなの?」
「こういちお兄ちゃんとは違うタイプね」
「あなた、何を分析してるの?」
蓮は思わず笑った。
「面白い子たちだな」
「でしょう?」
恒一も笑う。
すると、ひまりが蓮の前に立った。
「ねえ、お兄ちゃん!」
「ん?」
「彼女いる?」
「え?」
「好きな人は?」
「ひまり!」
ママが真っ青になる。
「子どもがそんなこと聞いちゃダメ!」
「なんで?」
「なんでも!」
蓮は笑いながら答えた。
「今はいないよ」
「やった!」
ひまりが叫ぶ。
「何が『やった』なの!」
あんずがすぐに口を挟む。
「ママ」
「何?」
「候補が一人増えたね」
「増えてません!」
「こういちお兄ちゃんと蓮お兄ちゃん、どっちがいい?」
「だから!」
ママの顔が真っ赤になる。
さくらが困ったように笑った。
「みんな、ママを困らせちゃダメよ」
「さくらは真面目だな」
蓮が笑う。
「ありがとう」
さくらの顔が赤くなる。
「……え?」
ひまりがニヤニヤする。
「さくら、お兄ちゃんに褒められて嬉しいんだ」
「ち、違う!」
「顔赤い!」
「赤くない!」
ママは思わず笑った。
「ふふっ」
すると、すずがママを見る。
「ママ、嬉しそう」
「え?」
「こういちお兄ちゃんも、笑ってる」
恒一を見ると、確かに嬉しそうに笑っていた。
その光景を見ながら、ママは胸の奥が温かくなるのを感じた。
家族。
その言葉が、少しずつ現実になっている気がした。
ところが――。
「ねえ、蓮お兄ちゃん!」
ひまりが突然手を挙げた。
「何?」
「お兄ちゃんのお家ってどこ?」
「少し離れたところだけど」
「じゃあ、遊びに行っていい?」
「もちろん」
「みんなで?」
「うん」
五人が一斉に叫ぶ。
「行きたい!」
ママの顔が引きつった。
「……待って」
あんずがニッコリ笑う。
「新しいお家候補、発見ね」
「何を言ってるの!」
ひまりが叫ぶ。
「蓮お兄ちゃんもイケメン!」
さくらまで小さく頷く。
「……確かに」
「さくらまで!」
すずも、
「静かで住みやすそう」
「すず!」
ももはママに抱きつきながら言った。
「ママと一緒なら行く」
「もも……」
最後にあんず。
「決まりね」
「何が!?」
「次のお家候補は、蓮お兄ちゃんのお家!」
「決まってません!」
五人は大笑い。
蓮と恒一も笑っている。
ママだけが頭を抱えた。
「どうしてこうなるの……」
その夜。
五人が眠ったあと。
恒一がママに話しかけた。
「……賑やかになりましたね」
「はい」
「以前は、この家に帰ってきても静かだったんです」
「……」
「でも今は、帰るとみんなの声がする」
恒一は優しく微笑んだ。
「なんだか、家に帰るのが楽しみになりました」
ママも微笑む。
「私もです」
その二人の会話を、襖の隙間からあんずが聞いていた。
「あら……」
隣にいたすずが眠そうに聞く。
「どうしたの?」
あんずはニヤリと笑った。
「これは……恋が始まる予感ね」
「……そうなの?」
「間違いないわ」
そして翌朝。
「ママ!」
「何!?」
「蓮お兄ちゃんのお家に行こう!」
「行きません!」
「どうして!?」
「あなたたちが住み着くから!」
今日も神谷家には、ママの叫び声が響いていた。
そして――。
座敷わらしちゃんたちの「イケメン探し」は、まだ始まったばかりだった。




