第29話「座敷わらしちゃんたちの成長」
第29話「座敷わらしちゃんたちの成長」
新しい家で暮らし始めて、しばらく経った。
ある朝。
ママが目を覚ますと、家の中が妙に静かだった。
「……あれ?」
いつもなら、
「ママ、おはよう!」
「朝ごはん!」
「ママ、抱っこ!」
と、朝から大騒ぎなのに。
今日は誰も来ない。
ママがリビングへ行く。
すると――
「おはよう、ママ」
さくらがキッチンに立っていた。
「さくら?」
「朝ごはん、もうすぐできるよ」
テーブルには、きれいに並べられた食器。
「これ、さくらが?」
「うん。みんなでやったの」
その言葉を聞いた瞬間。
「ママ、おはよう!」
ひまりが走ってきた。
「今日は私も手伝った!」
「何をしたの?」
「お皿を運んだ!」
「偉いね」
「あと、卵焼き味見した!」
「……それは手伝いなの?」
ひまりが笑う。
「もちろん!」
ママも思わず笑った。
すると、すずが花瓶を持ってやって来た。
「ママ、ここに飾っていい?」
「うん。きれいね」
すずは花を飾りながら、窓の外を見る。
「今日はママ、ちょっと眠そう」
「え?」
「昨日、遅くまで起きてたから」
ママは驚いた。
「よく見てるね」
すずは微笑んだ。
「ママのこと、ちゃんと見てるから」
その横では、ももがママのところへ来た。
「ママ」
「なあに?」
「今日は、ももが抱っこする」
「え?」
ももは両手を広げた。
「ママ、疲れてるでしょ?」
ママは思わず笑った。
「ももが抱っこするの?」
「うん!」
一生懸命ママの腰に腕を回す。
もちろん、ママを持ち上げることなんてできない。
それでも、ももは一生懸命だった。
「よいしょ……!」
「ふふっ」
ママはももを抱き上げる。
「ありがとう」
「ママ、元気になった?」
「うん。元気になったよ」
ももは嬉しそうに笑った。
そして最後に、あんずが現れた。
「ママ」
「どうしたの?」
「今日は、私から言いたいことがあるの」
あんずは真剣な顔をしていた。
「何?」
「私たち、少し大きくなったと思わない?」
ママは五人を見回す。
「そうね」
「前は、イケメンを見つけたらすぐに『この家に住む!』って言ってた」
ひまりが笑う。
「懐かしい!」
「全然懐かしくないよ……」
ママが苦笑する。
「でも今は違う」
あんずが続ける。
「私たちは、ママがいる場所に帰りたい」
「……」
「イケメンの家じゃなくて」
あんずは家の中を見渡した。
「家族がいる家に」
さくらが頷く。
「私も、前よりママの手伝いができるようになった」
ひまりが胸を張る。
「私も!」
「ひまりはまだ味見が多いけどね」
「そこは成長してない!」
みんなが笑う。
すずが続ける。
「私は、ママが悲しいときに気づけるようになった」
ももはママの手を握る。
「ももは、ママを一人にしない」
あんずが笑う。
「私は、ママの気持ちを勝手に決めつけない」
ママが少し驚く。
以前のあんずなら、すぐに恋愛作戦を立てていただろう。
「ママにはこの人!」
「脈あり!」
「告白するべき!」
そんなことばかり言っていた。
でも今は――
「ママが誰を好きになるかは、ママが決める」
あんずははっきり言った。
「私たちは、ママが幸せならそれでいい」
ママの目が潤んだ。
「みんな……」
五人がママの前に並ぶ。
「ママ」
さくらが言う。
「私たち、もう子どもだからって何でもママに任せないよ」
「うん」
ひまりが笑う。
「困ったときは一緒に考える!」
すずも頷く。
「悲しいときは、一緒に泣く」
ももがぎゅっと手を握る。
「嬉しいときは、一緒に笑う」
最後にあんずが言った。
「家族だから」
ママはとうとう涙をこぼした。
「……みんな、大きくなったね」
五人が嬉しそうに笑う。
そのとき――
玄関が開いた。
「ただいま」
恒一だった。
「恒一さん!」
五人が振り返る。
「どうしたんだ? みんな揃って」
ひまりが胸を張る。
「私たち、成長したの!」
「へえ」
恒一が笑う。
「何ができるようになった?」
五人は顔を見合わせる。
そして――
さくらが言う。
「家族を支えられるようになった!」
「なるほど」
恒一が頷く。
「じゃあ、俺も支えてもらおうかな」
「もちろん!」
ひまりが即答する。
「じゃあ今日のお昼ご飯――」
「任せて!」
「ひまりは味見係ね」
「えー!」
また家中に笑い声が響く。
午後。
五人は庭に出た。
以前みんなで植えた花が、きれいに咲いている。
すずが花を見つめる。
「きれい」
さくらが笑う。
「みんなで植えたからね」
ひまりが花壇の前にしゃがむ。
「大きくなったね」
「花も、私たちも」
あんずが言う。
ももはママの手を握る。
「ママも一緒に大きくなった?」
ママは少し考えてから笑った。
「うん」
「じゃあ、みんな一緒だね」
「そうね」
夕暮れ。
家の窓から、オレンジ色の光が差し込む。
五人は並んで座り、今日一日のことを話していた。
以前は、ママに守ってもらうだけだった。
けれど今は違う。
ママが笑えば嬉しい。
ママが悲しければそばにいる。
ママが困れば一緒に考える。
そして――
自分たちも、家族を守れるようになった。
ママは五人を見つめながら、優しく笑った。
「みんな、本当に大きくなったね」
すると、ひまりが手を挙げる。
「でも!」
「何?」
「イケメンがいたら、見るよ!」
「……」
五人が頷く。
「それは別!」
ママは思わず吹き出した。
「そこは変わらないのね」
五人は声を揃えた。
「うん!」
笑い声が家中に響く。
そして夜。
五人が眠ったあと。
ママは静かに子どもたちの寝顔を見つめた。
「ありがとう」
小さく呟く。
「私のところに来てくれて」
五人は眠ったまま、幸せそうな顔をしている。
ママはそっと布団をかけ直した。
明日は、もっと楽しい一日になる。
そして、その翌日も。
家族みんなで笑っていられる。
そんな毎日が、ずっと続いていく。
――五人はもう、ママに守ってもらうだけの存在ではない。




