第28話「ママへのサプライズ」
第28話「ママへのサプライズ」
新しい家での生活にも、すっかり慣れてきた五人。
ある日の朝。
ママが洗濯物を干していると、五人がリビングの隅に集まっていた。
「ねえ、みんな」
あんずが小声で言う。
「そろそろ、ママに何かしてあげない?」
「何かって?」
ひまりが首を傾げる。
「ママへのサプライズ」
その言葉を聞いた瞬間、ひまりの目が輝いた。
「サプライズ!?」
「声、大きい!」
さくらが慌てて口を押さえる。
「ママに聞こえちゃうでしょ」
「ご、ごめん……」
ひまりは口を両手で押さえた。
すずが考える。
「ママが喜ぶことって、何かな?」
「おいしいご飯!」
ひまりが即答する。
「それ、ひまりが食べたいだけじゃない?」
さくらが苦笑する。
「じゃあ、掃除!」
「ママ、いつも掃除してるよ」
すずが言う。
ももはしばらく考えていた。
そして――
「ママに、ありがとうって言いたい」
四人が静かになった。
「……それがいい」
あんずが笑う。
「じゃあ、決まり」
五人はこっそり作戦会議を始めた。
さくらは部屋を飾る係。
ひまりは料理係。
すずは花を用意する係。
ももはプレゼント係。
そして、あんずは全体の指揮。
「絶対にママにバレないようにね」
「分かった!」
五人は頷いた。
――ところが。
作戦開始から五分。
「ひまり、何してるの?」
さくらが聞く。
「味見!」
「もう?」
「うん!」
「まだ料理完成してないよ」
「だから味見なの!」
「意味が違うよ……」
その頃、すずは花を運んでいた。
ところが、ももが後ろからついてくる。
「ももも手伝う」
「ありがとう」
二人で花を運ぶ。
一方、あんずは部屋を飾るための紙を広げていた。
そこには大きく、
『ママ、いつもありがとう』
と書かれている。
「いい感じ」
あんずが満足そうに頷いた。
そのとき――
「みんな、何してるの?」
突然、ママの声。
「!」
五人が凍りついた。
ひまりは料理を隠そうとする。
さくらは飾りを背中に隠す。
すずは花を抱えたまま固まる。
ももはプレゼントを抱えてしゃがみ込む。
あんずだけが平然としていた。
「……何でもないよ」
「何でもない?」
ママが不思議そうに見る。
「うん」
あんずはニッコリ笑った。
「絶対に何でもないから」
「それ、何かある人の言い方じゃない?」
ママが笑う。
「ほら、ママは向こうに行ってて!」
ひまりが思わず叫ぶ。
「ひまり!」
「しまった……」
ママは笑いながら部屋を出ていった。
五人は胸を撫で下ろした。
「危なかった……」
「ひまりのせいだよ」
「ごめんなさい!」
そして――
夕方。
すべての準備が終わった。
部屋には花が飾られ、テーブルには料理が並んでいる。
壁には大きな紙。
『ママ、いつもありがとう』
五人は部屋の隅に隠れた。
「準備OK」
あんずが頷く。
「ママを呼んでくるね」
ももが走っていく。
「ママ!」
「なあに?」
「こっち来て!」
「どうしたの?」
ママがリビングに入った瞬間――
「ママ!」
五人が一斉に飛び出した。
「いつもありがとう!」
ママは目を丸くした。
「……え?」
テーブルの上。
壁の飾り。
そして五人の笑顔。
「今日は、ママの日!」
ひまりが胸を張る。
「みんなで作ったの!」
ママはゆっくり部屋を見回した。
「……私のために?」
「うん!」
さくらが頷く。
「いつも私たちのお世話をしてくれてありがとう」
すずが花を渡す。
「悲しいときも、一緒にいてくれてありがとう」
ももが小さな箱を差し出す。
「ママ、大好き」
ママが箱を開ける。
中には、五人で作った小さな飾りが入っていた。
少しいびつで、形もバラバラ。
でも――
五人の名前が書かれている。
「これ……」
ママの目に涙が浮かんだ。
あんずが照れながら言う。
「今まで、ママは私たちを守ってくれたでしょ?」
「うん」
「だから今度は、私たちがママを幸せにする番」
ママはとうとう涙をこぼした。
「……ありがとう」
五人が一斉にママへ飛び込む。
「ママ、大好き!」
「私も!」
「私も!」
「ずっと一緒!」
ママは五人を抱きしめる。
「私も、みんなが大好き」
その様子を見ていた恒一も、優しく微笑んでいた。
「いいサプライズだな」
ひまりが振り返る。
「恒一さんも参加した?」
「少しだけね」
「じゃあ、恒一さんにもありがとう!」
「俺にも?」
五人が頷く。
「だって恒一さんも、家族だから!」
恒一は一瞬驚いたあと、嬉しそうに笑った。
「……ありがとう」
ママもその姿を見て微笑む。
家族みんなが、同じ場所で笑っている。
それだけで十分だった。
食事が始まる。
「いただきます!」
「いただきます!」
ひまりが料理を一口食べる。
「おいしい!」
さくらが聞く。
「ひまり、ちゃんと作ったの?」
「もちろん!」
「……味見ばっかりしてたけど」
「それも料理の一部!」
また笑い声が起こる。
ママは五人を見ながら、涙を拭いた。
かつては、自分がこの子たちを守らなければと思っていた。
けれど今は違う。
五人もまた、自分を支えてくれている。
家族だから。
その夜。
五人が眠ったあと。
ママはリビングに一人で座り、昼間にもらったプレゼントを眺めていた。
「……ありがとう」
そこへ恒一がやって来た。
「眠れない?」
「うん」
ママはプレゼントを見つめる。
「こんなに幸せでいいのかなって思って」
恒一は少し笑った。
「いいと思うよ」
「……そうかな」
「みんながそう思ってるんだから」
ママは静かに笑った。
「そっか……」
そして、五人が眠っている部屋を見る。
「私、幸せだね」
「うん」
恒一も頷いた。
その夜、家の中には穏やかな寝息と、優しい笑顔があった。
そして翌朝。
五人が起きると――
ママが大きな声で言った。
「みんな、おはよう!」
「おはよう!」
ひまりが元気に返す。
「今日は何する?」
「朝ごはん!」
「それはいつもでしょ」
みんなが笑う。
新しい家。
新しい生活。
そして、これからも続いていく家族の日々。
五人はもう知っていた。
自分たちが探していた「幸せな家」は――
イケメンが住んでいる家ではなく、大好きなママと一緒に笑える家だった。




