第27話「イケメンより大切なもの」
第27話「イケメンより大切なもの」
新しい家での生活が始まって、数日。
五人はすっかり新しい暮らしに慣れていた。
朝から、家の中は大騒ぎだった。
「ママ、おはよう!」
ひまりが元気よく飛び起きる。
「朝ごはん、まだ?」
「今、作ってるところよ」
「お腹すいた!」
「昨日、寝る前におやつ食べたでしょ」
「それは昨日!」
「当たり前でしょ」
さくらが呆れた顔をする。
その横では、すずが窓を開けていた。
「今日はいい天気だね」
ももはママの後ろから離れない。
「ママ、今日も一緒?」
「もちろん」
「よかった」
そして、あんずは新聞を広げていた。
「……ふむ」
さくらが覗き込む。
「何見てるの?」
「イケメン情報」
「まだやってるの?」
あんずは真剣な顔で新聞を指差した。
「この人、かなりイケメン」
ひまりも飛んでくる。
「どこ!?」
「ここ」
「わあ!」
二人が写真を見つめる。
すると、ももがちらっと見て言った。
「でも、ママのほうが好き」
「え?」
ママが振り返る。
ももは何でもないように言った。
「だって、ママが一番かわいいもん」
「もも……」
ママは思わず笑った。
あんずも新聞を閉じた。
「……そうだね」
「え?」
ひまりが驚く。
あんずは少し考えてから言った。
「私たち、昔はイケメンの家に住みたかったじゃない?」
「うん!」
ひまりが元気よく答える。
「イケメン発見したら、すぐ『この家に住む!』って言ってた」
さくらが苦笑する。
「本当に大変だったよね」
「でも……」
あんずは部屋を見回した。
新しい家具。
五人のための棚。
家族写真。
そして、キッチンから聞こえるママの声。
「今は、ここがいい」
「どうして?」
すずが聞く。
あんずは笑った。
「だって、ここには大好きな人たちがいるから」
さくらが嬉しそうに頷く。
「私も」
ひまりも手を挙げる。
「私も!」
すずも笑う。
「私もだよ」
ももは即答。
「ママがいるから、ここ!」
ママは料理の手を止めた。
「みんな……」
そのとき、玄関から声がした。
「おはよう」
恒一だった。
「恒一さん!」
五人が一斉に駆け寄る。
「今日も来た!」
「朝ごはん食べる?」
「イケメン発見!」
「ひまり、今さら言わないの!」
あんずが笑う。
恒一は苦笑しながら靴を脱いだ。
「最後のは、まだ続いてるのか?」
「まあ、これは私たちの伝統だから」
あんずが胸を張る。
恒一が笑う。
「そうか」
そして、みんなで朝食を囲む。
すると、恒一がふとママを見る。
「今日は午後から時間ある?」
「うん。どうして?」
「新しい家の庭を少し整えようと思って」
「私も手伝う!」
さくらが手を挙げる。
「私も!」
ひまりも挙手。
「おやつ係なら!」
「庭仕事だから」
「……じゃあ応援係!」
「それならいいか」
みんなが笑う。
午後。
庭に出ると、五人はそれぞれ仕事を始めた。
さくらは小さな熊手を持って落ち葉を集める。
すずは花壇の花を眺める。
ももはママのそばで草を拾う。
ひまりは――
「見て! こんなに取れた!」
両手いっぱいの草を見せる。
「ひまり、それ雑草じゃなくて花も混ざってる」
「……」
「戻してきて」
「はい……」
あんずはそんな様子を見ながら笑っていた。
そして、ふとママの隣に座った。
「ママ」
「なあに?」
「ママは今、幸せ?」
突然の質問。
ママは少し驚いた。
そして五人を見た。
恒一が庭を整えている。
さくらが一生懸命働いている。
ひまりが花を戻そうとしている。
すずが花に水をあげている。
ももがママの袖を握っている。
あんずが隣にいる。
「うん」
ママは笑った。
「幸せだよ」
「イケメンがいるから?」
あんずがニヤッとする。
「もう!」
ママが笑いながら、あんずの頭を撫でる。
「違うよ」
「じゃあ、何?」
ママは五人を見つめた。
「みんながいるから」
五人が静かになる。
「ママはね」
ママは一人ずつ顔を見る。
「あなたたちと一緒に笑ったり、泣いたり、ケンカしたり……そういう毎日が幸せなの」
ももがママに抱きついた。
「ももも幸せ!」
ひまりも笑う。
「私も!」
さくらも頷く。
「私もだよ」
すずは優しく微笑む。
「みんなの心が、ここにあるから」
あんずは少し照れながら言った。
「じゃあ……」
「うん?」
「イケメンより大切なもの、見つけたね」
ママは笑った。
「そうね」
その言葉を聞いたひまりが、突然叫ぶ。
「でもイケメンは好き!」
「そこは変わらないの!?」
ママのツッコミが庭に響く。
五人が大笑いする。
恒一も笑いながら振り返った。
「結局そこは変わらないんだな」
「もちろん!」
五人が声を揃える。
そして、その日の夕方。
庭には小さな花壇が完成した。
中央には、家族みんなで選んだ花が植えられている。
ママがそれを眺める。
「きれい……」
恒一が隣に立つ。
「これから、もっと増やしていこう」
「うん」
二人の後ろでは、五人が顔を見合わせていた。
あんずが小声で言う。
「……やっぱり、この家が一番いい」
さくらが笑う。
「うん」
ひまりが頷く。
「おやつも食べられるし!」
「そこ?」
みんなが笑った。
五人にとって、もう「イケメンの家」は一番の目的ではなかった。
イケメンを見れば、もちろん喜ぶ。
でも――
一番帰りたい場所は、大好きな家族が待っている家。
それだけは、もう誰にも変えられなかった。




