第30話「童子ちゃんはイケメン好き」最終話・幸せな家族
第30話「童子ちゃんはイケメン好き」最終話・幸せな家族
朝。
窓から柔らかな光が差し込んでいる。
「ママ、おはよう!」
ひまりの声が響いた。
「おはよう」
ママが笑って振り返る。
「朝ごはん、できてる?」
「できてるよ」
「やったー!」
ひまりがテーブルへ走っていく。
「ひまり、走らないの!」
さくらが注意する。
「分かってるって!」
そう言いながら、ひまりは椅子に座る。
すずは窓を開ける。
「今日はいい天気だね」
ももはママの隣に座る。
「ママ、今日はずっと一緒?」
「うん」
「あんずは?」
ママが辺りを見回す。
「あれ? あんずは?」
すると――
「ここ!」
あんずが新聞の後ろから顔を出した。
「またイケメン見てるの?」
ママが笑う。
「もちろん」
あんずは新聞を閉じた。
「だって私たち、イケメン好きだもん」
「そうだったね」
ママも笑う。
五人は顔を見合わせる。
そして、ひまりが言った。
「でもさ」
「何?」
「昔はイケメンの家に住みたかったけど……」
ひまりは家の中を見渡した。
「今は、この家が一番好き」
さくらが頷く。
「私も」
すずも微笑む。
「ここには、みんなの笑顔があるから」
ももはママに抱きついた。
「ママがいるから!」
あんずも笑った。
「結局、私たちが一番好きなのは家族だよね」
ママは五人を見つめた。
胸の奥が、じんと熱くなる。
「……そうだね」
朝食を食べ終えると、五人は庭へ出た。
みんなで植えた花が、きれいに咲いている。
「大きくなったね」
さくらが花を見ながら言う。
「私たちもね」
すずが笑う。
ママは五人の後ろ姿を見つめていた。
小さかった五人。
いつも自分の後ろをついてきた。
「ママ!」
「ママ、抱っこ!」
「ママ、一緒にいて!」
そんな声に囲まれていた毎日。
最初は、それが当たり前だと思っていた。
でも――
いつの間にか、自分のほうが五人に支えられていた。
ママは五人を呼んだ。
「みんな」
「なあに?」
五人が振り返る。
「少し、聞いてほしいことがあるの」
五人がママの前に集まる。
ママはゆっくりしゃがんだ。
「私はね……」
少しだけ言葉に詰まる。
「昔、自分は一人で大丈夫だって思ってた」
五人は静かに聞いている。
「何でも一人で頑張らなくちゃいけないって思ってた」
「でも……」
ママは五人の手を一つずつ握った。
「あなたたちが私のところに来てくれて、毎日が変わった」
「笑うことが増えた」
「誰かとご飯を食べることが嬉しくなった」
「帰る場所があることが、こんなに幸せなんだって知った」
ママの目から涙がこぼれる。
「だから……」
五人も少しずつ涙を浮かべる。
「ありがとう」
「私のところに来てくれて」
「私を家族にしてくれて」
「そして――」
ママは五人をぎゅっと抱きしめた。
「私を幸せにしてくれて、本当にありがとう」
「ママ……」
さくらが涙を拭う。
「私たちのほうこそ、ありがとう」
「うん!」
ひまりも涙を流しながら笑う。
「ママがいるから、毎日楽しい!」
すずがママの手を握る。
「ママが寂しいときは、私たちがそばにいるよ」
ももはママに飛び込んだ。
「ママ、大好き!」
あんずも涙を拭きながら笑う。
「ママが幸せなら、私たちも幸せ」
五人がママを囲む。
「だから――」
さくらが言う。
「これからも一緒にいよう」
「ずっと!」
ひまりが続ける。
「ずーっと!」
ももも叫ぶ。
「もちろん」
ママは涙を拭きながら笑った。
「ずっと一緒だよ」
そのとき――
玄関が開いた。
「ただいま」
恒一だった。
「恒一さん!」
五人が一斉に振り返る。
恒一は五人とママを見て、少し驚いた。
「どうした?」
ひまりが笑う。
「ママと感謝大会してたの!」
「感謝大会?」
「うん!」
あんずが説明する。
「家族になれてよかったねって」
恒一は優しく笑った。
「そうか」
そしてママを見る。
「俺からも、一つ言っていい?」
「……うん」
恒一は五人を見る。
「この家に、みんなが来てくれてよかった」
五人が笑う。
「最初は静かな家だった」
恒一は家の中を見る。
「でも今は、毎日うるさい」
「うるさいって言った!」
ひまりが怒る。
恒一は笑った。
「でも、そのうるささが好きなんだ」
五人が笑う。
ママも笑った。
「私も」
その日の夕方。
みんなで夕食を囲む。
「いただきます!」
七人の声が重なった。
ひまりが笑う。
さくらが料理を取り分ける。
すずがみんなの顔を見る。
ももはママの隣にぴったりくっつく。
あんずは新聞を見つけて、またイケメンを探している。
「……あんず?」
ママが呆れる。
「何?」
「最終話なんだけど?」
「だから?」
あんずは新聞を見ながら言った。
「イケメン好きは、最終話でも変わらないよ」
ひまりも新聞を覗き込む。
「本当だ! この人かっこいい!」
「もう……」
ママが笑う。
すると、ももがママに抱きついた。
「でも、ももはママが一番好き!」
「私も!」
「私も!」
「私も!」
五人の声が重なる。
ママは笑いながら、五人を見つめた。
――かつて、自分は一人だった。
でも今は違う。
笑ってくれる家族がいる。
帰りを待ってくれる家族がいる。
一緒に泣いてくれる家族がいる。
そして、どんなときもそばにいてくれる五人がいる。
ママは五人を抱きしめた。
「みんな……ありがとう」
「ママ、大好き!」
五人の声が家中に響く。
窓の外には、夕焼け。
家の中には、笑い声。
そして――
今日もまた、誰かが「ただいま」と言い、誰かが「おかえり」と答える。
そんな当たり前の毎日が、何よりも幸せだった。
五人の座敷わらしちゃんたちは、今日もイケメンを見ると大騒ぎする。
けれど――
五人が本当に大切にしているものは、もう分かっている。
イケメンよりも。
立派な家よりも。
何よりも大切なのは――
大好きなママと、家族みんなで笑えること。
そしてママは、最後にもう一度だけ五人へ伝えた。
「あなたたちに出会えて、本当によかった」
五人は笑った。
「私たちも!」
こうして――
五人の座敷わらしちゃんとママの、賑やかで、ちょっと騒がしくて、幸せな物語は幕を閉じる。
『童子ちゃんはイケメン好き』
――おしまい。




