第23話「座敷わらしちゃんたちの奇跡」
第23話「座敷わらしちゃんたちの奇跡」
五人がママを探し始めてから、数時間。
さくらが広げた地図には、たくさんの丸がついていた。
「公園、カフェ、商店街……全部違ったね」
ひまりは疲れ切って、ベンチにぐったり。
「もう歩けない……」
「さっきまで走ってたじゃん」
さくらが呆れる。
「だってママを探してたから!」
ひまりは胸を張った。
「でも、お腹すいた……」
「結局それ?」
あんずがため息をつく。
その隣で、すずはじっと遠くを見ていた。
「……ねえ」
「どうしたの?」
さくらが振り向く。
「なんとなく……ママが近くにいる気がする」
「本当?」
ももがすぐに立ち上がった。
「ママ、いるの?」
すずは首を傾げた。
「分からない。でも……」
そのときだった。
五人の周りに、ふわりと風が吹いた。
木の葉が一枚、空へ舞い上がる。
そして、その葉がくるくる回りながら、ある方向へ飛んでいった。
「あっ!」
ひまりが走り出す。
「待って、ひまり!」
さくらたちも追いかける。
葉は道路を越え、公園を抜け、細い路地へ。
そして――
一軒の家の前で、ぽとりと落ちた。
五人は顔を見合わせた。
「……ここ?」
あんずが家を見上げる。
「でも、ママはいないよ」
ひまりが周囲を見回す。
「本当に?」
その瞬間。
家の中から、声が聞こえた。
「……すみません」
五人が一斉に振り返る。
そこにいたのは、近所のおばあさんだった。
「あら、あなたたち……」
おばあさんは五人を見るなり、目を丸くした。
「もしかして、あの人たちの子?」
「え?」
さくらが首を傾げる。
「さっき、ここを通った若い女性と男性がいたのよ」
五人の目が大きくなる。
「ママ!?」
「違うかしら?」
おばあさんが笑う。
「女性のほうが、ずっと何かを探していたみたいでね」
「どこへ行ったの?」
あんずが聞く。
「この先の道へ行ったわ」
おばあさんが指を差した。
「でも、不思議なのよ」
「何が?」
「さっきから、家の中に置いていた花瓶が勝手に動いたり、電気がついたり消えたり……」
五人が顔を見合わせる。
ひまりがニヤッとする。
「それ……」
さくらが慌てて口を塞いだ。
「ひまり、言わなくていい!」
おばあさんは首を傾げていた。
五人は急いでその場を離れる。
少し走ったところで、あんずが立ち止まった。
「分かった」
「何が?」
さくらが聞く。
あんずは得意そうに胸を張った。
「私たちの力が、ママを導いてるんだよ」
「座敷わらしの力……?」
すずが呟く。
あんずが頷く。
「たぶん、ママも今、私たちを探してる」
そのとき――
ももの手の中にあった小さな髪飾りが、突然ふわりと浮いた。
「わぁ!」
髪飾りは空中をくるくる回り、まっすぐ前へ飛んでいく。
「追いかけよう!」
五人は走り出した。
角を曲がる。
その先に――
一台の車が見えた。
そして、その車の横に立っていたのは。
「……ママ?」
ももの声が震えた。
車のそばにいた女性が振り返る。
「……え?」
ママだった。
「ママーーー!」
ももが真っ先に駆け出した。
「もも!」
ママも走る。
ぎゅっ!
ももがママの胸に飛び込んだ。
「ママぁ……!」
「ごめんね……!」
ママはももを強く抱きしめた。
その後ろから、四人も一斉に駆け寄る。
「ママ!」
「会いたかった!」
「探したよ!」
「ママ、大好き!」
五人が一気に抱きつく。
ママは笑いながら泣いていた。
「もう……みんな……」
そこへ恒一もやって来る。
「見つかってよかった」
さくらが涙を拭きながら言った。
「ママ、私たちが探しに来たの」
「うん」
ひまりが胸を張る。
「いっぱい走った!」
「途中で三回転んだけどね」
さくらが付け加える。
「言わなくていいの!」
「それでね」
すずがママの手を握る。
「私たち、ママが寂しいって分かったの」
ママは言葉を失った。
あんずが笑う。
「だから迎えに来てもらうんじゃなくて、私たちから会いに来たの」
「……みんな」
ママの目から、また涙がこぼれた。
「ありがとう」
そのとき、恒一がふと周囲を見る。
「ところで……どうやってここが分かったんだ?」
五人が固まった。
「……」
「……」
「……」
ひまりが小声で言う。
「葉っぱ……?」
さくらが慌てて首を振る。
「言っちゃダメ!」
あんずが笑う。
「座敷わらしの秘密だから」
恒一は五人を見る。
「……なるほど」
そして少し考えたあと、
「分かった」
五人がホッとする。
ところが恒一は真顔で続けた。
「でも、今度からは道路に飛び出すのは禁止」
「はーい……」
五人が揃って返事をする。
ママが笑う。
「本当に、あなたたちは……」
そのとき、五人の周りをまた風が吹いた。
今度は五人ではなく、ママの髪を優しく揺らした。
ママは空を見上げる。
そして、そっと五人を抱き寄せた。
「もう、離れないからね」
「うん!」
五人が笑う。
離れ離れになった家族は――
不思議な力と、互いを想う気持ちによって、もう一度ひとつになった。
そして、あんずが小さく呟いた。
「やっぱり……家族って、すごいね」
ひまりが即答する。
「うん! でもお腹すいた!」
「今それ言う!?」
五人の笑い声が、夕暮れの街に響いた。
――奇跡を起こしたのは、座敷わらしの力だけじゃなかった。
家族を想う五人の気持ちだった。




