第22話「ママを探して」
第22話「ママを探して」
子どもたちを乗せた車が走り去ってから、しばらく。
五人は誰も口を開かなかった。
さっきまで一緒にいたママが、もう隣にいない。
車の窓から見える景色が、どんどん遠ざかっていく。
ももは小さな手で、ずっと窓を握っていた。
「……ママ」
その声は、今にも泣き出しそうだった。
ひまりも、いつものように騒がない。
膝の上に置いた荷物を抱えたまま、唇を尖らせている。
「ママ……どこ行っちゃったの?」
さくらが二人の肩に手を置いた。
「大丈夫。ママは絶対に私たちを迎えに来てくれるよ」
すずは窓の外を見ながら、小さく呟いた。
「でも……ママも、きっと寂しいよ」
その言葉に、五人が顔を見合わせる。
そして――
あんずが、ゆっくり立ち上がった。
「……待ってるだけじゃダメだよ」
「え?」
さくらが振り向く。
あんずは真剣な顔をしていた。
「ママが迎えに来てくれるのを待つんじゃないの」
「私たちが、ママを探しに行くの」
「……!」
五人の目が変わった。
「そうだよ!」
ひまりが突然立ち上がった。
「ママ探しに行こう!」
勢いよく立ち上がったせいで、頭を車の天井にぶつける。
ゴンッ!
「いたぁぁぁ!」
「ひまり……」
さくらが呆れた顔をする。
「落ち着いて」
「だって早くママに会いたいんだもん!」
ひまりは頭を押さえながら、それでも立ち上がった。
「なんとかなるよ!」
「その前に、まず座って」
さくらに肩を押され、ひまりは渋々座った。
あんずは小さなバッグから紙とペンを取り出した。
「まず、ママが行きそうな場所を考えるの」
「ママが好きな場所……」
さくらが考える。
「家?」
「それは今、入れないでしょ」
「じゃあ……公園?」
「ママ、疲れたとき公園でベンチに座ってたよ」
すずが静かに言った。
「それから、前に行ったカフェ」
「あと、ママがよく買い物するところ!」
ひまりも次々に思いついた場所を口にする。
あんずは紙にどんどん書いていく。
「公園。カフェ。商店街。駅。前の家……」
さくらが地図を広げた。
「でも、私たちだけじゃ遠くまで行けないよ」
「だから――」
あんずがニヤッと笑った。
「座敷わらしの力を使うの」
「え?」
さくらが目を丸くする。
「あんず、何する気?」
「ママが私たちを見つけられないなら……」
あんずは窓の外へ手を伸ばした。
「私たちが、ママに気づいてもらえばいいの」
五人が手を繋ぐ。
目を閉じる。
すると――
ふわっ。
車内に小さな風が吹いた。
誰も窓を開けていないのに、カーテンが揺れる。
そして、ひまりの持っていた小さなリボンが、ふわりと宙に浮いた。
「わぁ……!」
ひまりが目を輝かせる。
リボンは車の中をゆっくり回り――
ある方向へ向かって飛んでいった。
「……あっち」
すずが呟く。
「ママのいる方向かもしれない」
さくらが地図を見る。
「本当に?」
あんずが頷いた。
「行ってみよう」
五人はリボンを追うように、車の窓から外を見つめた。
そのころ――
別の場所では、ママも同じように窓の外を見ていた。
隣には恒一がいる。
「……みんな、大丈夫かな」
ママは膝の上で手を握りしめていた。
「泣いてないかな」
恒一は前を見ながら答えた。
「きっと大丈夫です」
「でも……」
「五人とも、強い子たちですから」
ママは小さく笑った。
「そうね……」
けれど、その目には涙が浮かんでいた。
「私のほうが、耐えられないかも」
恒一は何も言わず、そっとティッシュを差し出した。
「……ありがとう」
その瞬間。
ママのバッグの中から――
小さなリボンが飛び出した。
「え?」
リボンは車内をくるくる回り、窓のほうへ向かう。
ママが手を伸ばす。
すると、リボンが手のひらに落ちた。
「これ……」
見覚えのあるリボンだった。
「ももが、昨日つけてた……」
ママの目から涙が一粒落ちる。
恒一も驚いてリボンを見る。
「まさか……」
ママは胸元でリボンを握った。
「みんなが……私を探してる?」
そのころ、五人のいる車でも――
リボンが突然、床に落ちた。
「……」
五人が顔を見合わせる。
すずが笑った。
「ママ、気づいたよ」
ももが立ち上がった。
「ママ、いるの?」
「たぶんね」
あんずが笑う。
「だったら、もっと強く伝えよう」
「うん!」
五人が手を繋ぐ。
今度は全員で声を合わせた。
「ママーーー!」
その声は、もちろん車の中から外へ出ることはなかった。
……はずだった。
ところが――
街のどこかで、一枚の小さな紙が風に乗って舞い上がった。
その紙には、五人が書いた言葉があった。
『ママ、大好き』
紙は風に乗り、ひらひらと空へ舞い上がっていく。
そして――
ママの乗る車の前へ、ふわりと落ちた。
恒一が車を止める。
ママが紙を拾う。
そこには、五人それぞれの字で書かれていた。
「さくら……」
「ひまり……」
「すず……」
「もも……」
「あんず……」
ママは紙を胸に抱きしめた。
「……もう」
涙が止まらない。
「あなたたちったら……」
そして、涙を拭きながら笑った。
「私も、会いたいよ」
一方、五人も同じ空を見上げていた。
あんずが小さく笑う。
「見つけるよ」
さくらが頷く。
「うん」
ひまりが拳を握る。
「ママ探し、開始!」
すずが微笑む。
「きっと会えるよ」
ももは胸の前で手を握った。
「ママ……待っててね」
五人はもう、離れ離れになったままではいなかった。
ママを探すために、一歩を踏み出した。
そして――
その先で、五人を待っているのは、
座敷わらしちゃんたちにしか起こせない、不思議な奇跡だった。




