第12話 座敷わらしちゃんたちの家族会議
第12話 座敷わらしちゃんたちの家族会議
「家族会議を開きます!」
夕食が終わった直後。
あんずが突然、ちゃぶ台の前に立った。
「また始まった……」
ママがため息をつく。
ひまりはすぐに座り直した。
「何の会議?」
さくらは散らかっていたお皿を端へ寄せる。
「ちゃんと話すなら、テーブルを片づけてからにしよう」
「ありがとう、さくら」
ママが手伝おうとすると、
「ママは座ってて」
さくらが小さな手を振った。
「今日は私がやるから」
その横で、ひまりが食べ終わったお茶碗を抱えて立ち上がる。
「私も!」
「ひまり、落とさないでね」
「大丈夫!」
数秒後。
「わっ!」
ガチャッ。
「……」
ひまりの手からお茶碗が滑りそうになった。
しかし、すずが素早く手を伸ばした。
「危ない」
「すず、ありがとう!」
「うん」
ママはその光景を見て、思わず笑った。
「みんな、少しずつお姉さんになってきたね」
すると、ももがママの膝によじ登る。
「ももも、お姉さん?」
「もちろん」
「じゃあ、ママのお手伝いする!」
ももはママの頬を両手で挟んだ。
「ママ、疲れてない?」
「……うん。大丈夫」
「ほんと?」
「ほんとだよ」
ももは安心したように笑った。
その様子を見ていたあんずが、パンパンと手を叩いた。
「はい、そろそろ本題!」
「そうだった」
ひまりが座る。
五人がちゃぶ台を囲んだ。
ママも向かい側に座る。
「それで、何の家族会議なの?」
あんずは立ち上がり、黒板代わりの紙を掲げた。
そこには――。
『私たちは、これからどこに住む?』
と書いてある。
「……」
ママの顔が固まった。
「どこって……」
あんずが指を一本立てる。
「今まで私たちは、イケメンを見つけるたびに『この人の家に住みたい!』って言ってきたでしょう?」
ひまりが元気よく手を挙げる。
「言った!」
「言いました!」
さくらも小さく手を挙げる。
すずは何も言わず、ママを見る。
ももはママの服を握る。
「ももは、ママと一緒ならどこでもいい」
「……」
ママの胸が温かくなる。
あんずは続けた。
「でも、最近ちょっと変わったと思うの」
「何が?」
「私たち」
あんずは、神谷家の中を見回した。
「最初は、恒一さんがイケメンだからここに住みたいって思った」
ひまりが頷く。
「うん!」
「でも今は?」
あんずがみんなを見る。
ひまりは少し考えた。
そして、キッチンを指差す。
「ご飯!」
「……」
「恒一さんと食べるご飯、楽しい!」
さくらも続ける。
「私は……この家に来てから、ママのお手伝いができるようになった」
少し照れながら笑う。
「恒一さんも『ありがとう』って言ってくれるし」
すずは窓の外を見た。
「……静かなときも、怖くない」
「どういうこと?」
ママが尋ねる。
すずは少し考えてから答えた。
「前は、静かな家って寂しかった」
「……」
「でも今は、静かでも、誰かがいるって分かる」
その言葉に、ママは胸を打たれた。
ももはママに抱きついた。
「ももは、ママがいるからここが好き」
「もも……」
「それに、恒一さんもいる」
ももは少し考える。
「だから……みんながいる家が好き」
そして最後に、あんず。
「私はね」
あんずは窓の外ではなく、家の中を見た。
「イケメンの家に住むのが目的だったはずなの」
「そうだったね」
ママが苦笑する。
「でも……」
あんずは少しだけ照れたように笑った。
「今は、イケメンかどうかより、この家にいるとみんなが笑ってることのほうが大事」
「……」
五人の間に、静かな時間が流れた。
---
すると、ひまりが突然立ち上がった。
「じゃあ、投票しよう!」
「投票?」
「うん!」
ひまりは紙を一枚ずつ配る。
「『ここに住みたい』と思ったら丸!」
さくらが紙を見る。
「でも、ここは恒一さんのお家だよ?」
「恒一さんに聞けばいいじゃん!」
「そんな簡単に……」
すずが紙をじっと見つめる。
そして、丸を書く。
「私はここ」
もももすぐに丸を書く。
「もももここ!」
さくらもゆっくり丸を書く。
「……私も」
ひまりは迷わず、大きな丸を書いた。
「私もここ!」
あんずも最後に丸をつけた。
「もちろん、ここ」
五人全員――。
同じ場所を選んだ。
ママはその紙を見つめる。
「……みんな」
その目が少し潤んだ。
「どうしたの?」
ひまりが心配そうに覗き込む。
「ううん」
ママは笑った。
「嬉しいだけ」
---
そのとき。
玄関の扉が開いた。
「ただいま」
「!」
恒一が帰ってきた。
五人が一斉に振り返る。
「おかえりなさい!」
ひまりが飛び出す。
「恒一さん!」
さくらも後ろから駆けていく。
「お疲れさまです」
すずは立ち上がって、静かに笑った。
「おかえり」
ももはママの手を握ったまま、
「恒一さん、おかえり!」
と叫ぶ。
そして、あんず。
「あのね、恒一さん」
「ん?」
「私たち、家族会議してたの」
「家族会議?」
恒一が驚く。
ママが苦笑した。
「みんなで、これからどこに住むか話していたんです」
「……」
恒一は五人を見る。
そして、ちゃぶ台の上の紙を見る。
五人全員の丸。
「……ここに住みたいの?」
「うん!」
ひまりが即答する。
「ここがいい!」
さくらも頷く。
「みんな一緒がいいです」
すずは静かに言う。
「ここ、あったかいから」
ももはママにくっついたまま、
「ママと一緒なら、ここがいい」
そして、あんずが最後に言った。
「恒一さん」
「はい」
「……私たち、ここにいてもいい?」
恒一はしばらく黙っていた。
そして――。
優しく笑った。
「もちろん」
五人の目が輝く。
「本当!?」
ひまりが飛び跳ねる。
「うん」
恒一は頷いた。
「俺も、みんながいるほうが嬉しいから」
「やったー!」
ひまりが両手を上げる。
さくらは嬉しそうに笑い、
すずは目を細め、
ももはママに抱きついたまま喜んだ。
あんずも満足そうに笑った。
「じゃあ、決まりね」
「何が?」
ママが聞く。
あんずは胸を張った。
「ここが、私たちの家!」
ママはその言葉を聞いて、静かに笑った。
「……そうだね」
恒一も頷く。
「うん」
その夜。
神谷家のリビングには、五人の笑い声と、恒一の笑い声。
そしてママの笑顔があった。
もう誰も、「次はどのイケメンの家に行こう」とは言わなかった。
――少なくとも、その夜までは。
「ねえ、あんず」
ひまりが小声で聞く。
「何?」
「でも、新しいイケメンが来たら?」
あんずは少し考えた。
そして――。
「……見に行く?」
「やっぱり!」
「こら!」
ママの声が飛んできた。
「もう、イケメン探しは禁止!」
「えー!」
五人の声が重なった。
恒一は笑いながら、その様子を見ていた。
こうして神谷家は――。
五人の座敷わらしちゃんと、ママと、恒一。
六人の家族として、少しずつ形を変え始めていた。
そして次の日。
その平穏な家に――。
一本の電話がかかってくる。
それが、新たな騒動の始まりになるとは。
まだ誰も知らなかった。




