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童子ちゃんはイケメン好き  作者: 雨宮ぐみ


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第13話 ママの前に現れた素敵な男性

第13話 ママの前に現れた素敵な男性


「ママ、電話だよー!」


朝。


ひまりが廊下を走ってきた。


「走らないの!」


その後ろから、さくらが追いかけてくる。


「だって早く届けなきゃ!」


ひまりは電話を持ったまま、ママのところへ駆け込んだ。


「はい、ママ!」


「ありがとう」


ママが電話を受け取る。


「もしもし?」


電話の相手は、以前から付き合いのある知人だった。


しばらく話しているうちに、ママの表情が少し変わる。


「え? 今日ですか?」


「……」


すずが少し離れた場所から、ママを見ていた。


「はい……分かりました」


電話を切る。


「どうしたの?」


さくらが尋ねた。


ママは少し考えてから答えた。


「今日、用事ができちゃったの」


「どこ?」


ひまりがすぐに聞く。


「知り合いの人に頼まれて、ちょっとお手伝いに行くの」


「私も行く!」


「ひまりはお留守番」


「えー!」


ひまりが頬を膨らませる。


その隣で、ももがママの服を握った。


「ママ、どこ行くの?」


「夕方には帰ってくるよ」


「……一人で?」


「うん」


ももの眉が下がる。


「寂しい……」


ママはしゃがんでももの手を握った。


「大丈夫。お姉ちゃんたちと一緒に待っててね」


「……うん」


すると、あんずが突然立ち上がった。


「私たちも一緒に行けばいいじゃない」


「ダメ」


ママが即答する。


「今日は大人のお手伝いだから」


「むう……」


あんずは頬を膨らませた。


「じゃあ、ママ。気をつけてね」


「ありがとう」


すずがママを見つめる。


「……ママ」


「なに?」


「今日は、何かあるよ」


「え?」


「なんとなく」


すずは首を傾げた。


「いつもと違う感じがする」


ママは少し不思議そうな顔をした。


「そうかな?」


「うん」


すずは小さく笑った。


「でも、悪い感じじゃないよ」


---


昼過ぎ。


ママは一人で出かけた。


向かったのは、知人が経営する小さなカフェだった。


「こんにちは」


「あら、来てくれたのね!」


店主が笑顔で迎える。


「今日はよろしくお願いします」


「こちらこそ」


ママが店内を見回していると――。


「あ」


店主が思い出したように言った。


「そうそう。今日、もう一人手伝いに来てもらってるの」


「もう一人?」


「うん」


そのとき。


店の奥から、一人の男性が出てきた。


「こんにちは」


ママは思わず足を止めた。


背が高い。


清潔感のある服装。


穏やかな目。


派手すぎないのに、自然と目を引く。


「……こんにちは」


ママが少し緊張して頭を下げる。


男性も微笑んだ。


「初めまして。高橋直人です」


「私は――」


ママが名前を告げる。


「今日は手伝いに来てくださったんですよね」


「はい」


「ありがとうございます」


直人は自然な笑顔を見せた。


「こちらこそ。助かります」


ママの胸が、ほんの少しだけ高鳴った。


「……」


自分でも分かるくらい、緊張している。


「大丈夫ですか?」


「え?」


「顔が少し赤いので」


「い、いえ!」


ママは慌てて首を振った。


「大丈夫です!」


---


二人は一緒に店の手伝いを始めた。


最初はぎこちなかった。


けれど、直人は仕事が丁寧だった。


重い荷物を見ると、さっと持ってくれる。


ママが困っていると、すぐに気づいて声をかける。


「それ、こちらでやりますよ」


「でも……」


「大丈夫です」


「ありがとうございます」


「いえ」


その自然な優しさに、ママは少しずつ緊張が解けていった。


昼休み。


二人で店の隅に座る。


「お子さんがいるんですよね?」


直人が尋ねた。


「はい」


ママは五人の顔を思い浮かべた。


「とても元気な子たちで……毎日大変ですけど、楽しいですよ」


「そうなんですね」


直人が微笑む。


「話しているときの顔が、とても優しいですね」


「え?」


ママは驚いた。


「子どもたちが大好きなんですね」


「……はい」


ママは照れながら笑った。


「私の大切な家族です」


直人は頷いた。


「素敵ですね」


その言葉に、ママの心が温かくなった。


---


一方、その頃。


神谷家では――。


「ママ、遅いね」


ひまりが時計を見る。


「まだ帰ってくる時間じゃないよ」


さくらが答える。


「でも、気になる」


ひまりが玄関へ向かおうとする。


さくらが慌てて腕を掴んだ。


「ダメ。ママは『お留守番してて』って言ったでしょう?」


「うー……」


ひまりは渋々戻る。


すずは窓辺に座っていた。


「……ママ、楽しそう」


「え?」


あんずが振り返る。


「分かるの?」


「うん」


すずは目を閉じる。


「知らない人と一緒にいる」


「知らない人?」


あんずの目が輝く。


「男性?」


「……たぶん」


あんずが勢いよく立ち上がった。


「これは事件よ!」


「何が?」


ひまりが聞く。


「ママに、新しい出会い!」


「えーっ!」


ひまりも飛び上がる。


「イケメン?」


「そこは重要ね」


あんずが腕を組む。


さくらは困った顔をする。


「もう……ママのこと、そっとしておこうよ」


「でも、どんな人か気になる!」


ひまりが玄関へ向かう。


「見に行こう!」


「ひまり!」


さくらが追いかける。


ももは不安そうにママの座っていた場所を見る。


「……ママ、帰ってくる?」


「もちろん」


すずがももの隣に座った。


「大丈夫だよ」


ももはすずの手を握る。


「うん」


そして、あんずは一人で考えていた。


「……恒一さんには、まだ言わないほうがいいわね」


「何か言った?」


「何でもない!」


---


夕方。


ママが帰ってきた。


「ただいまー」


「ママ!」


ももが一番に駆けていく。


「おかえり!」


ママはももを抱き上げる。


「ただいま、もも」


「遅かった!」


「ごめんね」


「寂しかった!」


「ごめん、ごめん」


ママが笑う。


すると――。


あんずがママの顔をじっと見つめた。


「……ママ」


「なに?」


「今日、楽しかった?」


「え?」


「すごく楽しそうな顔してる」


「そ、そう?」


「うん」


すずもママを見た。


「……嬉しいこと、あった?」


ママは少し考えた。


そして――。


「うん」


素直に頷いた。


「今日は、素敵な人に会ったの」


五人が固まった。


「……!」


ひまりの目が大きくなる。


さくらも顔を上げる。


すずは静かにママを見る。


ももはママの腕の中で首を傾げる。


そして、あんず。


「素敵な人?」


「うん」


「男性?」


「……そうだけど」


「あら……」


あんずの口元が緩む。


「どんな人?」


「優しくて、仕事ができて……」


ママが話し始める。


「子どもが好きそうな人だった」


「……」


五人の顔が一斉に変わった。


ひまりが小声で言う。


「新しいイケメン……」


さくらが慌てて口を押さえる。


「ひまり!」


あんずは腕を組んで、ママの顔を見つめる。


「なるほど……」


「何?」


「ママ、顔が嬉しそう」


「……!」


ママが頬を押さえる。


「そ、そんなことないよ!」


「ある」


すずが即答した。


もももママの顔を見上げる。


「ママ、かわいい顔してる」


「ももまで……」


そのとき。


玄関の扉が開いた。


「ただいま」


恒一が帰ってきた。


「あ……」


ママが振り返る。


恒一は、いつものように穏やかに笑っている。


「今日は何かあったんですか?」


「え?」


「みんな、ずいぶん楽しそうだから」


ママは一瞬、答えに詰まった。


すると――。


あんずがニヤッと笑った。


「恒一さん」


「はい?」


「今日ね――」


ママが慌ててあんずの口を塞ぐ。


「何でもない!」


「むぐ……」


五人が笑う。


恒一は不思議そうに首を傾げた。


「……?」


ママの胸は、なぜか少しだけ落ち着かなかった。


今日出会った男性。


そして――。


恒一の顔。


二人を比べたつもりはない。


それなのに。


どうしてこんなに、胸がざわざわするのだろう。


その夜。


布団に入ったママは、一人で天井を見つめていた。


「……私、どうしちゃったんだろう」


すると、隣の布団から小さな声。


「ママ」


「……起きてたの?」


すずだった。


「うん」


すずは目を閉じたまま言う。


「ママ、今日は心が動いたね」


「え?」


「なんとなく、分かるよ」


ママはしばらく黙っていた。


そして、小さく笑った。


「……そうかもしれないね」


その夜。


ママの胸に芽生えた小さな変化を――。


五人の座敷わらしちゃんたちは、誰よりも早く感じ取っていた。

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