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童子ちゃんはイケメン好き  作者: 雨宮ぐみ


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第11話 大騒動の撮影現場

第11話 大騒動の撮影現場


「作戦会議を始めます!」


朝。


あんずがテーブルの上に紙を広げた。


その紙には、大きな文字で――。


『イケメン俳優さんを幸せにする作戦』


と書かれている。


「また作戦……?」


ママが呆れた顔をする。


「今度は勝手に家へ行かないから安心して」


あんずは胸を張った。


「じゃあ、どこへ行くの?」


「撮影現場」


「……」


ママの顔が引きつった。


「それ、勝手に行くって言わない?」


「今回は、ちゃんと見学するの」


「どうやって?」


「それは――」


あんずがニヤリと笑う。


「座敷わらしの力で!」


「ダメ!」


ママが即座に止めた。


「人間の世界に勝手に入り込んじゃダメでしょう!」


ひまりが手を挙げる。


「じゃあ、普通に行けばいいんじゃない?」


「普通に?」


「うん!」


ひまりはテレビを指差した。


「今日、あの俳優さんの撮影が近くであるって言ってたよ!」


「……」


ママはテレビを見る。


確かに、番組の宣伝で撮影場所が紹介されていた。


「だからって、見に行く必要は――」


「行きたい!」


ひまりが立ち上がる。


さくらも困った顔でひまりの服を掴んだ。


「ひまり、勝手に走っていかないでよ」


「分かってる!」


「本当に?」


「……たぶん!」


「たぶんじゃダメ!」


すずはテレビ画面をじっと見ていた。


「……あの人」


「どうしたの?」


ママが聞く。


「今日も、笑ってる」


「うん」


「でも、やっぱり少し寂しい」


すずは小さく首を傾げた。


「……会ってみたい」


ママは黙った。


五人の目を見る。


「……分かった」


「本当!?」


ひまりが飛び上がる。


「ただし!」


ママが指を立てた。


「撮影の邪魔をしないこと。勝手にどこかへ行かないこと。ママから離れないこと!」


「はーい!」


五人の声が揃った。


あんずだけが小さく笑った。


「ふふっ。これで堂々と行けるわね」


「何か言った?」


「何でもないよ」


---


撮影現場。


大勢のスタッフが行き交っている。


カメラ。


照明。


衣装。


たくさんの人が忙しそうに動いていた。


「わあ……!」


ひまりの目が輝く。


「すごーい!」


「ひまり、走らない!」


さくらがすぐに追いかける。


「だって、全部初めて見るんだもん!」


「だからって、触っちゃダメだよ!」


すずは少し離れた場所で、スタッフたちを眺めていた。


「……みんな忙しそう」


ももはママの手をぎゅっと握っている。


「ママ、ここにいてね」


「うん」


「絶対?」


「絶対」


それを聞いて、ももは安心したように笑った。


一方、あんずは現場の奥を見ていた。


「あ……」


「どうしたの?」


ママが聞く。


「いた」


そこに、テレビで見た俳優がいた。


衣装を着て、スタッフと話をしている。


「イケメン……!」


ひまりが思わず声を出した。


俳優がこちらを見る。


「こんにちは」


優しく微笑む。


「こ、こんにちは!」


さくらが慌てて頭を下げた。


ひまりは目を輝かせている。


「テレビの人だ!」


俳優が笑った。


「そうだね」


そして、子どもたちを見て――。


「今日は見学?」


「はい!」


ひまりが元気よく答える。


「いいね」


俳優がしゃがんで、五人と目線を合わせる。


「撮影、ちょっとだけ見ていく?」


「見る!」


ひまりが即答した。


さくらも頷く。


すずは俳優の顔をじっと見つめた。


「……やっぱり」


「ん?」


「寂しそう」


「……」


俳優の笑顔が、一瞬だけ止まった。


ママが慌てる。


「す、すみません! この子、思ったことをそのまま言っちゃって……」


「いや」


俳優は首を振った。


「いいんだ」


そして、すずを見る。


「よく分かったね」


すずは小さく頷いた。


「なんとなく、分かるよ」


俳優は少しだけ笑った。


今度の笑顔は、さっきより自然だった。


---


ところが――。


撮影が始まると、事件が起きた。


「スタート!」


俳優が歩き出す。


その瞬間。


ひまりが持っていた風船が、手から離れた。


「わっ!」


風船が空へ飛んでいく。


「待ってー!」


ひまりが走り出す。


「ひまり!」


さくらも追いかける。


「止まって!」


風船は撮影中のセットへ。


「カット!」


スタッフが叫ぶ。


現場が止まった。


「ご、ごめんなさい!」


さくらがひまりの手を掴む。


ひまりは頭を下げた。


「ごめんなさい……」


ママも慌てて駆け寄る。


「本当にすみません!」


ところが、俳優は怒らなかった。


「大丈夫ですよ」


飛んでいった風船を拾い、ひまりに渡す。


「はい」


「ありがとう……」


ひまりが受け取る。


「次はちゃんと持っててね」


「うん!」


ひまりが笑う。


そのとき――。


すずがセットの隅を見た。


「……あ」


「どうしたの?」


ママが聞く。


すずはスタッフの一人を見ていた。


「……あの人、困ってる」


「え?」


スタッフが何かを探している。


「小道具がないみたい」


すずが指差す。


「これ?」


ももが床に落ちていた小道具を拾った。


「もも、すごい!」


ママが驚く。


ももは嬉しそうに笑った。


「ママのお手伝い!」


「ありがとう」


その様子を見ていた俳優が笑う。


「本当にいい子たちだね」


「……!」


さくらの顔が赤くなる。


「そ、そうですか?」


「うん」


俳優が笑う。


「みんな、家族みたいだ」


その言葉に、ママは少し驚いた。


そして五人を見る。


「……家族、ですか」


「はい」


俳優は五人を見ながら言った。


「すごく仲がいいから」


その言葉に、ママの胸が温かくなった。


---


撮影が終わったあと。


俳優が五人のところへやってきた。


「今日はありがとう」


「こちらこそ!」


ひまりが元気に答える。


「楽しかった!」


さくらは頭を下げる。


「撮影のお邪魔をしてしまって、すみませんでした」


「気にしないで」


すずは俳優の顔を見る。


「……少し、笑顔が変わった」


「え?」


「最初より、今のほうが嬉しそう」


俳優は少し驚いた。


それから――。


「そうかもしれないね」


優しく笑った。


ももはママの手を握ったまま言う。


「ママも笑ってるよ」


「え?」


ママが自分の顔を触る。


あんずがすかさず言った。


「ママは、この人のこと心配してたから」


「ちょっと、あんず!」


「でも、本当でしょ?」


ママは言葉に詰まった。


俳優はそんな二人を見て、笑った。


「あなたも、素敵なお母さんですね」


「……!」


ママの顔が真っ赤になる。


ひまりがすぐに叫ぶ。


「ママ、赤い!」


「ひまり!」


さくらも慌てる。


「言わなくていいの!」


すずはクスクス笑い、


ももはママに抱きついた。


そして、あんず。


「あら……」


ニヤリ。


「新しい情報を入手したわ」


「何の情報よ!」


「ママ、褒められると弱い」


「もう!」


その場にいた全員が笑った。


---


帰り道。


ひまりが嬉しそうに歩いている。


「楽しかったー!」


さくらが隣を歩く。


「今度は絶対、勝手に走らないでね」


「分かってる!」


すずは空を見上げた。


「……あの人、今日は寂しくなさそうだった」


ももはママの手を握る。


「ママも嬉しそう」


「……そう?」


「うん」


あんずは後ろからみんなを見ていた。


「今回は成功ね」


「何が?」


ママが聞く。


「誰かを幸せにする作戦」


あんずは笑った。


「イケメンだから住みたい、じゃなくて」


少しだけ真剣な顔になる。


「寂しい人を笑顔にするためなら、私たちがいる意味があるもの」


ママは五人を見た。


「……そうだね」


そして、優しく笑った。


「でも、もう勝手に撮影現場へ行くのは禁止だからね」


「えー!」


ひまりが叫ぶ。


さくらが笑いながらひまりの手を引く。


「ほら、帰ろう」


すずはママの隣を歩く。


ももはママの腕にくっついている。


あんずは最後尾で、こっそり笑った。


「……でも」


「あんず?」


「なんでもない」


五人の小さな影が、夕暮れの道に並んで伸びていく。


その日。


一人の俳優の笑顔を取り戻した五人の座敷わらしちゃんたちは――。


少しだけ、自分たちが誰かを幸せにする意味を知ったのだった。

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