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童子ちゃんはイケメン好き  作者: 雨宮ぐみ


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第10話 イケメン俳優の家に住みたい!

第10話 イケメン俳優の家に住みたい!


「……ねえ、みんな」


夕食後。


ママが食器を洗っていると、リビングから突然、大きな声が聞こえた。


「イケメン発見ーーーっ!」


「ひまり!」


ママはびっくりして振り返った。


「何を騒いでるの!」


「ママ、早く来て!」


「今、洗い物してるの!」


「いいから!」


ひまりの声があまりにも大きい。


ママはため息をつきながら、手を拭いてリビングへ向かった。


テレビでは、人気俳優が新しいドラマの番組宣伝をしていた。


背が高く、整った顔。


爽やかな笑顔。


そして、落ち着いた優しい声。


「今度のドラマでは、父親役に挑戦します」


俳優が笑う。


「わあ……」


さくらがテレビの前に座り込み、じっと画面を見つめる。


ひまりはクッションを抱えたまま、目を輝かせていた。


「かっこいい!」


すずは少し離れたところからテレビを見ている。


「……優しそう」


ももはテレビではなく、ママの顔を見た。


「ママ、この人かっこいい?」


「え?」


ママは困った顔をする。


「まあ……かっこいいんじゃない?」


その瞬間。


ひまりが立ち上がった。


「決めた!」


「何を?」


「この人の家に住む!」


「また!?」


ママの声が響いた。


さくらがひまりの腕を掴む。


「ひまり! 昨日ママに怒られたばっかりでしょ!」


「だってイケメンだよ!」


「理由になってない!」


ひまりがテレビを指差す。


「しかも父親役だって!」


「ドラマの役でしょう!」


「でも優しそう!」


「だからって、勝手に家を決めないの!」


ママが頭を抱える。


すると、あんずがテレビ画面をじっと見つめていた。


「……なるほど」


「何がなるほどなの?」


あんずは振り返った。


「ママ」


「なに?」


「この人、かなり有力候補よ」


「家の候補にするな!」


あんずは真剣な顔でテレビを見直した。


「でも、恒一さんとは違うタイプね」


「比べなくていいの!」


「恒一さんは大人っぽい感じ。この人は爽やか系」


「分析しなくていい!」


ひまりが横から口を挟む。


「私はどっちも好き!」


「ひまり……」


さくらが呆れる。


そのとき、すずがテレビを見ながら小さく呟いた。


「……でも」


「ん?」


「この人、笑ってるけど……ちょっと寂しそう」


全員がすずを見る。


「え?」


ママもテレビを見る。


俳優は笑顔で話している。


けれど、すずは首を傾げていた。


「目が笑ってない」


あんずが画面を見つめる。


「……本当?」


「うん」


すずは静かに頷いた。


「たぶん、疲れてる」


その言葉に、ママは少し考え込んだ。


「すずは、本当にそういうところよく見てるね」


「なんとなく、分かるよ」


すずはいつものように答えた。


---


翌日。


事件は起きた。


ママが買い物から帰ってくると――。


家の中が静かだった。


「ただいまー」


返事がない。


「みんな?」


ママがリビングへ入る。


すると――。


テーブルの上に、一枚の紙が置かれていた。


『イケメン俳優さんのおうちを見に行ってきます!』


「…………」


ママの顔が固まる。


「まさか……」


ママは慌てて家中を探した。


いない。


五人ともいない。


「もうーーーっ!」


ママは慌てて外へ飛び出した。


---


一方、その頃。


五人は駅前にいた。


ひまりが先頭を走っている。


「こっちだよ!」


「ひまり、待って!」


さくらが追いかける。


「勝手に走ったら危ないって!」


「だって早く行きたいんだもん!」


すずは二人の後ろをゆっくり歩いていた。


その横では、ももがあんずの手を握っている。


「ねえ、あんず」


「なに?」


「ママ、怒るかな?」


「……」


あんずが一瞬黙る。


「たぶん」


「えー……」


ももがしょんぼりする。


あんずは少し考えてから、ももの手を握り直した。


「でも、ママが来る前に帰れば大丈夫よ」


「それ、大丈夫じゃないと思う」


すずが後ろから言った。


「……ママ、もう怒ってる」


「え?」


四人が振り返る。


遠くから――。


「あなたたちーーーっ!」


ママが走ってくる。


「げっ!」


ひまりが固まった。


さくらはすぐに頭を下げる。


「ママ、ごめんなさい!」


ももは一目散にママへ駆け寄った。


「ママ!」


「もも!」


ママが抱きしめる。


「どこか痛くない? 怖くなかった?」


「大丈夫!」


「よかった……」


ママはももをぎゅっと抱きしめた。


そして――。


「みんな!」


五人がびくっとする。


「勝手に家を出ちゃダメでしょう!」


「……ごめんなさい」


ひまりがしゅんとする。


さくらも頭を下げる。


「私も止められませんでした」


「さくらのせいじゃないよ」


ママは少し落ち着いてから、五人を見た。


「どうして、そんなにその俳優さんの家に行きたかったの?」


ひまりが手を挙げた。


「イケメンだから!」


「……」


ママは頭を抱えた。


あんずが続ける。


「それだけじゃないわ」


「?」


「テレビで『父親役』をするって言ってたから」


あんずは少し真剣な顔をした。


「きっと優しい人なんじゃないかなって」


ママは何も言わなかった。


すずが静かに続ける。


「……でも、本当は寂しい人かもしれない」


「すず……」


「だから、私たちが行ったら、笑ってくれるかなって」


その言葉に、ママは驚いた。


五人はただ「イケメンだから」という理由だけで動いているわけではなかった。


誰かが寂しそうなら。


誰かが笑っていないなら。


自分たちがそばに行けば、その人を幸せにできる。


座敷わらしとして、そう思っているのだ。


ママは深く息を吐いた。


「……みんな」


五人を見る。


「誰かを幸せにしたいって思う気持ちは、とても素敵なことだよ」


五人の顔が明るくなる。


「でもね」


ママは指を一本立てた。


「勝手に家へ行くのはダメ!」


「はーい……」


五人が揃って肩を落とした。


ひまりだけは、すぐに顔を上げる。


「じゃあ、今度はママと一緒に行こう!」


「行かない!」


「えー!」


---


その夜。


神谷家では、いつものように五人が布団に入っていた。


ひまりはまだテレビの俳優の話をしている。


「かっこよかったなあ……」


さくらが布団をかけ直す。


「もう寝なさい」


「はーい」


すずは目を閉じながら、ぽつり。


「……でも」


「なに?」


「本当に寂しそうだった」


あんずが隣で考え込む。


「だったら……」


「何?」


「私たちが行かなくても、幸せにできる方法を考えればいい」


さくらが安心したように笑う。


「うん。それならママも怒らないね」


ももは布団の中から顔だけ出した。


「ママが怒らないなら、もももやる」


「よし!」


ひまりが拳を握る。


「新しい作戦!」


ママが廊下を通りかかる。


「……何の作戦?」


五人が一斉に黙る。


「…………」


「何もないよ!」


あんずが笑顔で答える。


ママはじっと五人を見る。


「……本当に?」


「本当!」


ママはため息をついた。


「お願いだから、今度は勝手に家を出ないでね」


「はーい!」


ママが去っていく。


すると、あんずが布団の中で小さく笑った。


「……さて」


「今度は何するの?」


ひまりが聞く。


あんずは目を輝かせた。


「イケメン俳優さんを、幸せにする方法を考えるの」


「それならいいね!」


ひまりが笑う。


さくらも頷いた。


すずは静かに微笑み、


ももは「ママも一緒ならいい」と呟いた。


五人の新しい作戦が、また始まろうとしていた。


そして――。


それがまさか、テレビ局まで巻き込む大騒動になるとは。


まだ誰も知らなかった。

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