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婚姻契約の更新日は昨日でしたので、今さら愛していると言われても戻りません  作者: 九葉(くずは)


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第六話 議長席の値段

公爵家から届いた晩餐記録には、成功という言葉が二十三回あった。


私は王室典礼局の記録庫で、その一つずつを照合した。


国境関税の暫定合意。河川工事の共同出資。隣国領事の着任祝い。アーレン公爵家で卓を囲んだあと、止まっていた交渉が動いた例は多い。


報告書の主語は、どれも公爵家だった。


では、誰が何をしたのか。


典礼局に残る連絡票を古い順に開く。ある年は、対立中の二商会を同じ日に呼ばないよう求める私の書簡へ、翌朝には修正案が返っている。別の年は、王弟の侍従が魚を避けていることを尋ねられた。病気ではなく喪中の習慣だと答えると、肉料理ではなく豆の皿へ替える案が届いた。


差出人はリディア・アーレン公爵夫人。


公爵の署名は、費用を承認する最終頁にだけある。


私は三年分の私信記録も取り寄せた。出産祝いを送る時期、弔問を控える期間、同席を避けるべき親族。典礼局が公爵家へ問い合わせた二百十七件のうち、百九十八件を彼女が処理している。


残る十九件は、彼女の母が亡くなった前後に集中していた。


その期間の回答は遅く、席順の修正もない。そしてアーレン公爵家で開かれた晩餐では、客の一人が早々に退席している。従弟と相続を争う人物が隣席になったためだ。


記録が示すのは、夫人が感情で仕事を怠ったことではない。


一人の母を弔う数日のあいだ、代わりに処理できる者が誰もいなかったという事実である。


私は調査報告の末尾へ、自分の署名を入れた。


過去、私は彼女の働きを社交に長けた夫人の趣味と評価した。公務の依頼を送りながら、報酬も役職も用意しなかった。公爵家へ頼んでいるのだから、それで正式だと考えたのである。


間違いだった。


翌朝、国王の執務室に呼ばれた。


レオポルト王は報告書を机へ置き、向かいに立つアルノルトを見た。私もその横に控える。


「数字に異論はあるか、アルノルト」


「ありません。家令の記録とも一致します」


アーレン公爵の返答は簡潔だった。先月までなら、夫人の働きも家の管理に含まれると続けただろう。今日は書類の端を見たまま、何も加えない。


「国際晩餐の準備状況を述べよ」


「招待予定者は三十六名。通商協定の代表者を中心に選定しております。会場は王宮西館、献立は」


「誰が客の事情を確認した」


公爵の声が途切れた。


「現時点では、典礼局へ照会を」


「典礼局が持つ記録の大半は、君の妻だった者から得たものだ」


陛下は報告書の一頁を開く。公爵が妻の母の葬儀を欠席した日、王宮で出席していた準備会議の記録である。


会議の議題は、次の晩餐を誰が取りまとめるか。アーレン公爵は、自家に蓄積した信用と経験を理由に議長を引き受けた。


その経験の担い手が喪主を務めている間、彼は名を一度も挙げていない。


「会議への出席自体は職責でした」


私は陛下に問われる前に述べた。


「しかし公爵は、欠席しても代行できる議事を選び、妻にしか代行できない弔いを選びませんでした。さらに、その妻の実績を自家の信用として議長就任の根拠にしております」


アルノルトは私を責めなかった。


「そのとおりです」


わずかな言葉が、広い執務室へ落ちる。


陛下は国際晩餐の任命書を閉じた。


「歓待を家名の備品と数えた者に、人の卓は任せられない。」


議長の交代は、爵位への処罰ではない。公爵は通商協定の交渉委員に残り、領地の責任も変わらない。ただし、人を迎える一夜の責任だけは外される。


「国際晩餐はラウエン旧関税会館で行う。二つの入口を持つ場なら、対立する代表も来やすい。セルン伯爵を議長とし、文化会館へ正式に委託する」


私は用意していた契約案を差し出した。


施設使用料、人員費、献立作成費。これまで公爵夫人の好意へ含めていた項目を、一つずつ金額に変えてある。


契約案には、客の個人情報を王室が当然に受け取らないことも記した。必要な事項は本人の同意を得て会館が管理し、典礼局は目的を示して照会する。彼女の記憶まで買い取るのではない。判断に対価を払い、その扱いにも彼女の権限を残す。


また、王室の要請と安全上の判断が衝突した場合、共同責任者は延期を求められる。従わない自由を持たない責任者は、名を飾った備品と変わらないからだ。


「共同責任者には、リディア・ヴァルト本人を推薦いたします。」


「本人の承諾は」


「まだです。職務範囲と報酬、辞退権を記した依頼書を本日送ります」


陛下は頷き、公爵へ視線を戻した。


「君から働きかけることは許さぬ。これは王室と彼女の契約だ」


「承知いたしました」


アルノルトは議長章を外し、机の上へ置いた。銀の章は、昨年の晩餐で陛下から渡されたもの。妻の葬儀の日に守ろうとした席が、彼の手元を離れる。


私はその姿に満足する資格がない。


彼女の名を数えずに公爵家へ仕事を頼んだ側として、訂正は処罰で終わらせてはならなかった。役職と報酬を本人へ渡し、断る自由まで明記して、初めて制度の誤りを直せる。


退室するアルノルトの背へ、陛下は何も言わない。


議長章を失っただけなら、次の功績で取り戻せるかもしれない。だが、取り戻すという同じ考えを一人の人間へ向けることはできない。


新しい議長席より先に、彼の妻の席が消えていた。

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