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婚姻契約の更新日は昨日でしたので、今さら愛していると言われても戻りません  作者: 九葉(くずは)


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第四話 帰ってきたのは空席

リディアがいなくなって十二日後、私は予定どおり晩餐を開いた。


隣国との河川通商協定をまとめるための席である。招いたのは二十名。料理長には例年の献立を用意させ、給仕の数も減らしていない。公爵夫人が一人欠けた程度で、交渉の場を止める理由はなかった。


開始の一時間前、長卓には十名分の名札しか置かれていなかった。


「残りはどうした」


「本日までに辞退の返書が届きました。ベルン商会は会頭の発熱、ザイフェルト子爵は領地の洪水、隣国領事夫妻は日程の重複とのことです」


家令のコンラートは、十通の封書を銀盆へ載せていた。


発熱した会頭が午前の取引所にいたことは知っている。洪水の報告も受けていない。日程を重ねた領事夫妻は、昨年までなら時間をずらしても出席した。


「理由の確認を」


「先方へ重ねて伺えば、欠席を責める形になります」


「では、今夜の客へ影響を出すな」


空席を詰め、燭台の位置を変えさせた。十名なら十名の席に見せればよい。私はそう判断して客を迎えた。


最初の一皿が運ばれるまで、問題はなかった。


隣国の銀行家が白い魚の香草焼きを前にして、手を止めた。付け合わせの緑の粒を一つ、銀の匙で皿の端へ寄せる。


「アーレン公爵。これは胡桃でしょうか」


料理長が青ざめた。


銀行家の妻は胡桃を口にすると、喉が腫れる。重い症状ではないと本人は笑ったが、皿はすぐに下げられた。代わりの魚が出るまで、卓の会話も止まる。


昨年は何を出したのかと料理長へ問うと、厨房に保存された献立表を持ってきた。そこには胡桃を使った料理も並んでいた。


「奥様が、当日の朝に別の付け合わせへ変更なさいました」


「なぜ献立表へ書かなかった」


「公爵夫人のお手元に、客ごとの注意がございましたので。私どもは毎回、変更のご指示を受けておりました」


不手際を叱責すれば済むと思っていた。だが料理長は、何を調べ直せば同じ間違いを防げるのかさえ知らない顔をしている。


魚が戻っても、協定の話は進まなかった。銀行家夫妻は早めに帰り、商人たちは次の会合で続きを、と口々に告げた。三時間を空けて集めた卓は、一時間半で終わった。


玄関広間に最後の客を見送ったあと、私は食堂へ戻る。


半分の名札が使われないまま、卓の端へ重ねられていた。料理は足りている。葡萄酒も、楽団も、磨かれた銀器もある。それでも客がここへ残る理由はなかった。


「来客の禁忌をまとめた記録を出せ」


コンラートは返事をしなかった。


「聞こえなかったのか」


「記録は奥様がお持ちになった押し花カードです。あれは公爵家の備品ではなく、お一人ずつ許しを得て書かれた奥様の私物でございました」


「写しは」


「ございません」


「お前は何を見て、これまで晩餐の準備をした」


「奥様から渡される指示書を見ておりました。そこには必要な変更だけがあり、理由までは記されておりません」


私は執務室へ移り、過去三年分の晩餐記録を出させた。席順、献立変更、贈答品、弔問の時期。どの書類にも最終確認の欄があり、リディアの小さな署名が並んでいる。


公爵家の使用人が準備し、私は客を招いた。その間を埋める確認を、妻の気遣いだとだけ考えていた。


だが、確認がなくなった今夜、料理長も家令も動けなかった。私も同じである。


「再契約の書類を作れ」


「婚姻契約は終了しております」


「夫人の身分を求めるのではない。晩餐の管理業務として雇えばよい。以前の倍を提示する」


コンラートは手帳を開かない。


「条件が不足していたなら、増やせばいい。」


七年間の働きに報酬がなかったことが不満なら、過去の分も払う。住居は別でも構わない。公爵家の名義を使わせ、必要な使用人も選ばせる。職務であれば、感情を持ち込まずに話せるはずだった。


「金額のお話ではないと、私は存じます。」


「本人がそう言ったのか」


「いいえ。ですが奥様は更新日の朝、もう終わったとおっしゃいました。条件を数える前に、期限をお示しになったのです」


「お前の推測は要らない。書類を作れ」


命じると、コンラートは一礼した。


翌日、業務委託契約書をラウエンへ送った。報酬は相場の三倍である。勤務日は晩餐のある日だけ。公爵家への居住義務も、私との私的な面会もない。彼女が断る理由を一つずつ消したつもりだった。


返書はその日の夕刻に届く。


封を切ると、依頼に応じないという一文と、終了した契約の条件変更は受け付けないという説明があった。礼を欠くところのない、短い文章である。


同封した契約書も戻されていた。


署名欄のそばには、新しいペンで試した小さなインクの跡がある。運んだ従者が用意したのだろう。書面に不備はなく、報酬も住居も相手の自由を妨げない。


それでも空欄は埋まらなかった。


先ほどまで私は、欠けた十席を偶然の重なりとして処理していた。返却された一枚の上では、空白は一人分しかない。それなのに食堂より広く、執務机の端まで冷えているように感じられた。


署名さえ得れば、以前の機能は戻る。私はまだ、その考えのどこが間違っているのかを説明できない。彼女がなぜ去ったかを記す欄は、私の作った契約書のどこにもなかった。


金額を増やした書類にも、彼女の署名だけはなかった。

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