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海繋がる  作者: 加藤無理
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瞳の奥

 皇帝が来る。賀俊学だ。茶垣国の王はその名前を絶対に言ったり書いたりしてはならないと強調していた。「陛下」と呼ばなければならないのだ。


 皇帝が玉座に座る。宰相の合図で私達は頭を床に三回付けて一度立ち上がるとすぐにまた跪く。これを三回繰り返す。秋蓮とその仲間の商人達もやっているが、夏鉄は皇帝の叔父だからか、跪いたまま動かない。


 辛い挨拶が終わると私達は立ち上がる。皇帝の玉座は高い位置にあるので私達は逆に見上げなければならない。皇帝は、

「叔父上、久し振りの再会なのにまた跪かないで下さいよ」

 夏鉄を労った。夏鉄は拱手する。宰相は皇帝にこれまでのやり取りを説明した。皇帝は黙って聴いている。御簾を隔てているので皇帝の表情が読み取れない。


 話を聴き終えた皇帝は明るい声で、

「御簾を開けてくれ。朕は異界の者達の姿を見てみたい」

 朕とは一人称。つまり「私」という意味だ。皇帝だけが使用する言葉だ。皇帝の言うとおりにすべきか壁際で待機していた役人も軍人も宦官も躊躇った。皇帝は、

「開けてくれ」

 と、催促した。宰相と近くにいた宦官が開ける。気さくそうな五十代の男が微笑んでいる。夏鉄は末子で皇帝は長兄の息子。叔父と甥だが夏鉄から皇帝と同じ歳だと聞いている。


 皇帝に万一の事が起きないか、宦官達も役人達も軍人達も身構えている。私は自分の身体が強張るのを感じた。皆も秋蓮達も険しい顔をしている。


 皇帝はかまわずに私達をじっくりと面白そうに見渡す。紺や赤の私達の髪だけではなく顔も体格も服装も観察しているようだ。皇帝は、

「茶垣国の者達に勝った女達はこの中にいるか」

 私はここまで同行してきた部下三人に目配せすると四人で拱手しながら頭を下げた。皇帝は楽しそうに、

「本当に女だな。さほど逞しくない」

 私達は死に物狂いで抵抗した。銃が有ったとはいえ、皇帝の想像通り、私達が勝ったのは奇跡に近い。皇帝は、

「この中に指揮官はいるだろ」

 私達は再度拱手しながら頭を下げた。皇帝は、

「頭を上げてこっちに来てくれ」

 夏鉄と秋蓮が不安げな顔をして私に振り返る。皆も不思議そうに皇帝と私を見比べる。顔を上げたが私が躊躇っていると皇帝は、

「来てくれ」

 と、催促した。皇帝の隣の宦官は盾になるように皇帝の斜め前に立ち、宰相は私を注視しながらみがまえる。警戒されて不快だったが、皇帝自身は私に本気で興味が有る様だ。私は皇帝の五歩手前まで近付いた。皇帝は笑みを絶やさずに私を見つめている。男に勝った異界の女が余程珍しいようだ。


 皇帝は楽しそうに、

「お前の話は詳しく聴いている。勇猛果敢だが品性が有る。瞳には何か強い意思が感じられる」

 海風列島もまほろば帝国も盤古大陸も、それぞれ髪の色が違うが瞳は皆、暗褐色だ。私も皇帝の瞳の奥に底知れなさを感じた。

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