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海繋がる  作者: 加藤無理
37/41

オト

 私達を迎えに来たのは白髪混じりの五十代半ばの夫婦だった。夫婦は百人ほどの民間人と百人ほどの軍人を連れている。軍人達は屈強な男ばかりだが、民間人の半分は女だ。私達百人合わせて三百人を十隻に分けて乗らせる。


 夫婦は茶垣国の王に慇懃に挨拶した。片方の拳をもう片方の手で覆う動作だ。拱手だ。私達もそれに倣う。全員が乗ると船は順番に規則正しく出発していく。私はイロ提督と鞘とロイと同じで先頭の船だ。この船団を指揮する夫婦の船でもある。


 夫婦は仲睦まじい。一瞬の目配せで意思疎通が出来ているのが分かる。夫婦は交代で船の指揮を執る。太鼓を慣らして後ろの船に合図を送る。西江は交通の要衝にもなっており、川魚を釣る漁船以外にも商船が頻繁に往来する。夫婦は衝突しないように絶妙に操舵する。


 夫婦は自己紹介した。夫は賀夏鉄、妻は藩秋蓮。秋蓮は紅帝国一番の商人であり、月経用の下着を扱っている。夏鉄は現皇帝の叔父だが秋蓮と結婚してから妻を支えている。私は盤古大陸が男尊女卑だと知っているので不思議に思った。月経は忌み嫌われるし、皇帝の血縁者ならば居丈高になるものだ。しかし秋蓮も夏鉄も今の生活に満足しており、周りからも評価されているようだ。宿泊先の人達が二人を見る目つきは羨望だ。


 秋蓮の元で働く者達は男も女も勤勉で真面目だ。私達に興味津々の眼差しを向けるが排除はしない。私達を監視する軍人達の前で色々と質問したり世話したりする。私は秋蓮が一流の商人で夏鉄は良い夫だと思う。


 夕方から早朝までは川岸に停泊したり宿泊所で休むが、昼間はどんどん進む。雨天や強風時は無理しない。予定通りならば半月ほどで首都に到着する。


 盤古大陸は円形だ。その円形の同心円上に丸い大運河が流れている。関の角度を絶妙に変えることで季節によって右回りにも左回りにもなる。円河だ。この広大な土木技術は前の王朝が百年以上かけて築き上げたそうだ。それを目の当たりにした時は圧倒された。秋蓮達は円河を難なく通過していく。


 円河と西江だけではなく、それらから沢山の運河と河川が伸びて絡み合っている。人々は船で移動している。橋も沢山あるが、時刻によって開いたり閉じたりする。その沢山の河川から水を引いて水田が広がっている。人々の生活用水にもなっている。建物は岩石と土で出来ている。素人目でも丈夫だと分かる。二階建三階建ても珍しくなく、見た目も美しい。時々、詩が書かれた柱や壁を見かける。


 紅帝国は文化水準が高いのだと私は納得した。そんな私に秋蓮は、

「そういえば、貴方の名前を訊いてなかった気がする」

 確かに私は皆から「艦長」「大佐」と呼ばれることが多い。上官であるイロ提督も私と親しいロイも鞘も人前では私の名前を呼ばない。私は答えた、

「オトです。改めてよろしくお願いします」

 秋蓮は微笑んだ。夏鉄もニッコリ笑みを浮かべる。

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