まほろば帝国との交渉
霊山・富嶽は標高が高かった。麓に到着した私達は五日かけて登った。
私達は四十人、その護衛と監視をする弓と詩郎も同じ数を引き連れている。他の地方三カ所も数十人から百数十人ほど集まって来た。それでも宮殿の大広間に全員が入れた。
私達は整列させられると正座を命じられた。皆、渋々それに従う。周りを見ても正座をしている。宮殿の貴族が掛声をかける。皆、両手をついて頭を下げる。私達は俯く程度にした。
暫くすると人の気配がして上品な男の声がする。私達に挨拶をしているのだろう。恐らく男は帝だ。ここ半年以上の滞在で私達もまほろば帝国の言葉が少しだけ分かるようになった。
帝の挨拶が終わって暫くすると掛声がした。私達は顔を上げて胡座をかいた。まほろば帝国は椅子をあまり使わない。私達には辛かった。
奥には御簾を隔てて女が複数座っている。帝の正室と側室達だ。十人ほどいる。弓が説明した。帝の代わりに彼女達が最終判断をするようだ。私達はまず四つに分かれて三つの府と京の代表者と話し合う。弓と詩郎達東府の者達は通訳をする。私を含めた十人は帝の妃達と広間に残り、他は帝に仕える貴族達の別荘に移った。
東府の者達は京や三つの府に私達についての記録を詳細に記して何度も送った。十人の妃達はそれを読んで確認しながら私達に尋ねていく。正室が議長を務めて滞りなく質疑応答をさせる。
妃達は私達の旅の目的に興味を持った。侵略か援助か取引か。シドは一生懸命に世界の形の証明について語る。私達の世界ではこの世は巨大な球体で出来て太陽の周りを回っているのか、それとも海と空が繋がって太陽と月が回っているのか論争が起きている。そこには侵略の意図は無い。交易ができれば嬉しい。
妃達は目を大きくさせて驚いている。この世が球体だと考えている者はまほろば帝国には殆どいないようだ。だからうぶすな大陸から離れようとする冒険家も滅多にいない。私達が来て心底驚いているのだ。私達は人間の形をしているが紺色のまほろば帝国の人々と違って私達の髪の色は赤い。
妃達は火薬と鉄の塊を使った砲弾に恐怖を感じている。同時に火薬は農薬や肥料、医薬品や洗剤にもなるので興味もある。妃達の中で三人ほどが神通力で心が読めるので、私達に害意が無いと分かって安堵している。
しかし私達の世界は私の母国花国以外は男尊女卑なので私達の歴史や文化や政治を無条件で称賛しない。学問や技術は先進的だと評価はする。妃達は私達の世界とまほろば帝国との交易をしたり交流を図るのには賛成だが、政治や軍事については慎重だ。私達が内政干渉したり攻撃したりしないように条約を取り決める必要がある。
妃達は驚いたり熱弁を振るったりしているが、怒鳴りも泣きもしない。異界の私達を目の前にしている割には冷静だ。私達を対等な人間として議論している。私は彼女達が責任有る女傑だと感じた。
私達は休憩したり食事したりしながらも長い時間、交渉を重ねた。夜には貴族の別荘で寝る。私達は数日ごとに話し相手を変える。妃達以外にも他の府の人々とも交渉した。気付けば三ヶ月ほど経過して春になった。
私達は下山した。




