意思疎通
洞窟で滞在することになった私達はシド以外は女だったので月経の問題が起きた。航海中は使い捨ての安価な下着を使用してそれを凪の時に専用の竈門で焼却処分をしていた。船上での火災は命取りだが、竈門はそうならないように対策してある。
しかし現在私達は新世界の人々に見張られながら意思疎通を試行錯誤している。私達が困っていると言語を学んでいた女達が人気の無い所に連れて衣類を渡し身振り手振りで使い方を教える。私達はそれを使用しては水路に案内されて洗って乾かして再利用する。
私達花国では月経を恥ずかしくない現象として扱うが、私達の世界では男のいる社会では月経を隠すものとされている。この新世界では女の地位が高いのか、私達を排除せずに配慮している。月経痛の者に気付くと薬を煎じた飲物を渡す。効果が有る様だ。
今回の航海では五十代の老兵が多かったので月経痛よりも更年期障害が深刻だった。しかしこちらの世界の人達がその薬も飲ませた。これも十分に効果があった。
三ヶ月ほど経ち、春が終わって夏が来た。新世界の女達の顔付きが明るくなった。男達も穏やかな表情になった。女の一人が私達の共通語で、
「遠路はるばるようこそ。私は松本弓。貴方達に害意が無い事が分かったので城に案内する」
ぎこちなかったが、十分に聴き取れた。私達は驚いた。僅か三ヶ月で言語を習得したのだ。私達が自分達の共通語を習得するのですら一年から三年は必要だ。
弓は説明した。こちらの世界では女の半分が神通力と呼ばれる不思議な能力を持っている。ここにいる女達は特に心を読める。弓自身は心を読めないが、女達から言葉を教わっていたのだ。最初はあまりにも私達の言語も歴史も価値観も異なり過ぎていて戸惑っていたが、一生懸命に言葉を教える私達を観察しながら心を読んだそうだ。
私達花国の様に女しかいない国はこちらの世界では存在しない。また、こちらの世界では女の地位は高く女を蔑ろにする男は処罰される。弓はこの世界の四分の一を統治する御台所と呼ばれる王の様な存在の妹であると同時に御台所を輔佐している。弓は執権と呼ばれており、内政を担当している。兄は外交を担当する大棟梁で、名前は詩郎。
弓はシドとミヤと私を含めた二十人を選び、他百数十名は船に帰す。私達は御台所のいる城に連れて行かれ、他の仲間達はバル提督の待つ沖合に戻って事情を説明する。
私は期待と不安で胸が一杯になった。このまま問題が起きなければ戦争は回避される。交渉が出来るかもしれない。しかし、相手は心が読める者が多い。余計な事を考えて怒りを買うかもしれない。




