未知なる陸地
舵国から出航してから半月ほど経っても小島も陸地も見当たらなかった。途中で二度時化に襲われたが、二十隻五千人は無事に乗り切っていた。私自身も航海に慣れているし皆も精鋭の老兵達なので平気だ。むしろ今までの航海よりも平穏ですらある。頻繁に鐘や太鼓を慣らしたり、手旗信号を送ったりして意思を確かめ合っているので統制は保たれている。バル提督の采配は絶妙だ。
私達は通常よりも大きな軍艦に最新式の浄水装置と砲弾を搭載している。食糧や衣類や医薬品も十分に積んでいる。途中で海藻や魚介類を捕獲するので一年ほどの航海に耐えられるはずだ。
私達の五ヶ国の世界では海流や風向きが複雑だ。特に風向きは季節によって違ってくる。私達船乗りは帆の向きを調節しながら海流に入ったり出たりして目的の港に向かう。五つの大きな島と小さな沢山の島が沢山の海流を作り、風向きに影響を与えているのだ。
しかしそんな世界から出た今回の航海では、風向きも海流も一定だった。風は西から吹いており、海流は西へ向かっている。西進したい私達は帆を畳んで海流に従っている。それでも角度がズレていくので時折帆を広げて帆柱の向きと舵を動かして船の向きを調節する。磁石を頼りにしながら、昼間は太陽の向き、夜間は星空から方位を確かめる。
時々、鯨やイルカやシャチが姿を現す。鮫も泳いでいる。こちらが何もしなければ攻撃してこない。大小様々な魚介類も確認できる。私達はそれを釣って食糧にする。私達の世界では見かけない種類の魚も捕獲出来た。それを絵を描くのが上手い船員が手早く紙に描写する。その後で料理する。海藻も捕れるとそれも調理する。薬品になる種類も有ればダシや調味料にもなる。見かけない種類も有るので絵で描き留める。
出航してから一ヶ月ほど経つと、水平線の彼方から巨大な影が発見できた。それは南北に限りなく伸びている。非常に巨大だ。進むにつれて陸地だと分かる。私達の国のどの本島よりも遥かに巨大だ。
世界の果てだろうか。船は急には止まれない。私達は帆を広げて海流と逆に吹く風を受け入れながら徐々に遅くさせた。
落ち着いたところで錨を降ろす。望遠鏡で不思議なその陸地を観察すると、船らしき何かが陸地を往来している。生物ではない。どうやら陸地には人間が住んでいるだけではなく、文明を築いているようだ。
どの様に近づければ良いのか。それとも接触せずに諦めて帰還するか。いずれにしても言語が通じない向こうとの戦闘を避けなければならない。こちらは武装しているが砲弾には限りがある。
シドは一隻が陸地に近付いて向こうと接触すべきだと主張した。他の十九隻は待機する。向こうが攻撃を仕掛けたらすぐに逃げる。一方、バルは陸地に近寄らず、南か北に向かいながら遠くから陸地を観察すべきだと主張した。
私達花国の四隻を束ねているミヤ少将は私達にどちらを支持するか尋ねた。私達の多くはシドを支持した。ミヤ少将は渋るバル提督にミヤの軍艦がシドを乗せて代表して陸地に向かうと主張した。バルは他の者達にその提案を報せると、皆はその提案に同意した。バルを支持していても自分達ではなく私達花国の者達が行くからだ。
ミヤ少将とシドの指揮の元、私を含む二百数十人一隻は未知なる陸地に向かう。遠くからでも皆が神妙な様子で見送るのが分かる。




