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海繋がる  作者: 加藤無理
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世界の形

 扇国に到着してから三ヶ月ほど経ったある日。私とサリは宮殿に向かった。私達花国の文化に動揺していたサリは顔色が悪かったけれども、扇国の王族と貴族から会うように要請されるとすぐに立ち直った。貴族として毅然としていると私は驚嘆した。また、サリは男を共有する文化から離れられて安堵しているようだ。


 私達花国には貴族はいない。民衆から選ばれた者が責任持って政務を行うからだ。それに貴族の中には女をぞんざいに扱う悪漢も少なくない。私は祭国でもサリの母国である笑国でも悪い貴族を何人か軍に突き出したことがある。私は貴族と王族がサリの様に気高い人達である事を心の中で祈った。


 私達が宮殿に到着すると衛兵が中へ案内した。私はサリの斜め後ろで周りを盗み見る。念の為に暴漢が襲って来ないか確かめているのだ。


 大広間の扉まで行くと私は片膝を床に付けて頭を下げる。サリは重ねた両手をヘソの近くに当てて頭を下げる。扉が開く。


 凛とした女の声で、

「中へ入れ」

 と、命じられた。私達は頭を上げて言う通りにした。奥には壮年期の男女一人ずつとその左右の壁際に奥から手前に向かって男達が並んで座っている。私達は出入口近くの席に座ることになった。命じたのは奥に座っている王妃に違いない。その隣には国王らしき人物が私達を観察している。


 国王の近くにいた男が説明した。提督や私達を受け入れている商人達から今回の私達の航海について報告を受けている。笑国からサリの夫であるシドからも書簡が送られている。扇国の貴族達はシドの研究成果と私達の航海を高く評価している。しかし、シドの願う南の果てまでの冒険を否定してもいる。危険な上に見返りが無いからだ。ただし、笑国一国だけで試すならば扇国は反対しない。


 サリの目が泳ぐ。夫の研究が半分肯定され半分否定されている。サリは今回の航海で満足だが、シドは満足していない。一年以上も会っていないが分かる。私もサリの気持ちが何となく分かる。


 王が目配せして貴族達が語りだした。貴族の中にはシドの様に何かを研究する学者は少なくない。彼等は夜空を望遠鏡で観察したり、晴間に丘から街並みや水平線を眺めたり、商人や水夫に命じて船を動かしたり、色々研究している。


 そこで論争が起きている。この世界は巨大な球体であり、太陽の周りを回っている。もしくは世界の果てでは空と海が繋がっており、月と太陽は空を走った後にそこで遥か地底に潜り、東の彼方まで通った後にまた空高く巡っている。扇国ではどちらが真実なのか侃々諤々とした議論を展開している。


 私も何度か聴いたことがある。私達を受けている商人達も興味を持っており、私達に説明したり一緒に議論したりする。それ以前にも私達花国でも世界の形が話題になる。どちらが正しいのか分からないが、研究を重ねている学者達に皆、敬意を払っている。


 貴族達が話終えると王が低い声でサリに、

「君達は南に行く前に東か西に行ってみたらどうだろうか」

 と、提案した。私は息を飲んだ。そちらの方が確かに現実的だ。祭国の北は氷と寒波が襲うし、笑国の南は時化と巨大海流が襲う。東か西に行けば世界の果てが分かるかもしれない。無茶する前に引き返せば良い。


 王はリンゴを左手で持ちながら右手人差し指で撫でて一周させる。なるほど。私は声を漏らしそうになった。同じ方向に進んで元の世界に戻れれば世界は巨大な球体であることが証明される。

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