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海繋がる  作者: 加藤無理
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軍曹になる

 宿泊所近くの北側の港に戻った後、私達は妊婦達の世話をしたり、また笑国からの以来で荷物を運んだりした。


 笑国に来てからとっくに一年目が過ぎたので今は男と交渉する期間ではない。しかしシドは学者として貴族として私達の艦長達や総督と何度も会って学説を力説している。単なる貴族の承認欲求や道楽ならば一蹴するが、シドの提出した資料や文章には説得力があった。私もそれらを読んだ。シド自身は航海に出たことがないようだが、知識量が豊富で正確で逆に私は学ぶことが多かった。


 どんな時化でも転覆しにくい船の構造、長い期間でも健康を維持させる保存食、浄水装置の改良、食糧になる海藻や魚介類の安全な捕獲方法、最新の海図。


 シドは本当に遥か南に広がる時化と巨大海流の海域に行きたがっているようだ。危険が多く見返りが少ないので笑国の他の貴族も王家もシドに期待していない。しかし私達花国の提督は帰国後にシドの資料と主張をまとめて大統領に報告すると約束した。実際にシドと南に冒険するわけではないが、時化対策や有事の際の回避にもなる。


 シドは北方の祭国から更に北に行くよりも、南への冒険にこだわっていた。シドが単に南方で生まれ育っただけではなく、冬に海の一部が凍るような極寒での冒険の方が危険だと考えている。海が凍ったり巨大な氷塊が流れてきたら航海は出来ない。


 私は日々の仕事以外にもシドの研究を学んだり手伝ったりした。シド本人とも会話をする。私は下っ端の伍長だが、将校達とシドとの会話を聴きながら茶を出していた。将校達もシドに興味を持っているし、シドもそれに対して喜んでいる。


 シドは笑国の同胞達からなかなか評価されずに意気消沈していたが、私達が傾聴するので懸命に研究成果を発表した。笑国では女を見下す下品な男達が多かったが、シドは貴族の次男であるにもかかわらず、驕らずに私達と対話する。上官達はシドを評価したし、シドも私達を信用している様子だ。


 シドは性行為を娯楽にする様な下劣な男でもなく、時折妻を連れては私達に紹介する。妻の覚悟が決まり私達が承諾すれば妻が笑国と私達花国を私達の軍艦に乗って往来する事を提案した。男が三日以上も生きられない花国に行くにはそれ以外の方法は確かに無い。妻は不安そうにしていたが、私達が礼を尽くした態度をとると安心し、その提案を受け入れた。


 そこでシドの妻・サリの護衛と世話係を私が急遽担当することになった。今までの仕事は今回妊娠していない同僚が引き継ぐことになった。突然の任務に驚いたが私は引き受けることになった。サリは共通語を話すのを苦手としていたが、文章を上手く書いていたので暫くは筆談しながらしっかりゆっくり会話することにした。三ヶ月ほど経つと私とサリは十分に意思疎通が出来るようになった。私も笑国の言葉を少し習得出来た。


 笑国に来てから三年で帰港するところを私は二年で別の軍艦に乗ってサリを連れて帰った。サリは貴族の娘で上品だが、謙虚で控えめだ。私と仲間達は遠慮しないようにと何度も諭した。


 帰港すると私は伍長から軍曹に昇格した。大した経験や功績を上げていなかったが、異国の貴族であるサリの護衛と世話を務めるので、ある程度の身分が必要なのだろう。

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