突然の期待
笑国に到着してから約一年。同僚が見事に妊娠した。私達は同僚と同僚が連れて来た子の世話をした。時折、笑国からの要請で物資を運ぶ為に軍艦を動かして操舵と航海の技術を磨く。
他の希望者達も徐々に妊娠していく。軍医達はしっかり診察して一人一人に合った薬を処方して飲ませている。悪阻が完全に無くなることはないが、改善されているようだ。
私は上官達と一緒に宿泊所と軍艦のある港を往復し、仕事をこなす。子どもや妊婦の世話も船を動かすのもどちらも大変だがやり甲斐がある。わけも分からず言われるままにやっていた作業も慣れて目的が朧気に理解出来るようになった。時折、私達や笑国の女達に暴力を振るうような悪漢を捕まえて攻撃して軍に突き出す。
母国花国で家族から男達を攻撃し過ぎない様にと釘を刺されているが、私は逆恨みする男達になるべく落ち着いた口調で説き伏せている。軍は困った顔で私を見るが、悪漢をしっかりと捕縛して牢獄に連れて行く。
そんなある日。私達の艦隊は笑国の南側の港に移動していた。頼まれた物資を降ろし終えた時に私達は笑国の少佐に呼び止められた。私と班長が訝りながら敬礼すると、少佐は私達を部下と共に砂浜に連れて行った。
若い男が沖を見つめている。少佐は彼に敬礼をすると男は振り返る。少佐は私達に紹介した。男は貴族の息子だが跡継ぎではない。領民を働かせて農業経営をしたり王家との交渉をするのは兄に任せて自分は空と海を観察しながら研究をしている。学者だ。
男は私と目が合うとニッコリ笑い、
「俺はシド。君が男だけの遊郭を創れと言っている伍長か」
と、尋ねた。私は、
「何か違反か問題が有るのでしょうか」
少佐は不快そうに私を見やる。シドは笑みを浮かべたまま、
「悪くはないけれど、刺激が強過ぎる」
と、言うとまた沖合の方へ目を向けた。私も振り向く。シドは、
「俺は世界の果てに興味がある」
海鳥が鳴く。波が打ち寄せる。シドは、
「あそこの水平線の奥まで進めば二度と戻って来れないけれど、俺は死ぬ前に一度は行ってみたい」
少佐もその部下も少し怯えた顔をしている。この世界の南側に位置する笑国から更に南に進むと、時化が止まない海域に入る。一度そこに捕らわれると二度と出られなくなる。広大で協力な海流が流れているからだ。あまりにも危険な世界。時化と大海原以外には何も無いと考えられているが、地下資源が豊富な島が有ると考える者もいる。
シドは明るい声で、
「君ならば俺を連れて行ってくれそうな気がした」
私は驚いた。会ったばかりの他国の貴族が私に大きな期待をしているのだ。シドは、
「君の発想と行動力に俺は期待している」




