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吸血鬼とメイド9

リークの執事が言った通りちょうど午後4時にカトレアを迎えに来た。カトレアを迎えに来た馬車は豪華な装飾はなかったが、よく見ると美しい模様が彫られており腕の良い職人が手掛けたであろうことがすくにわかる。


カトレアはそのまま馬車に乗った。


時間はそのくらい経過しただろうか。


馬車に乗った時にはまだ日が見えていたのに、今はもう日が沈んでしまっていた。


いつになったら目的地に着くか分からないことと、どこに向かっているか分からないため、さすがのカトレアも少し恐怖を感じていた。


「どこに向かっているのです?」


「我が主の屋敷でございます」


「レーモンド卿の・・・」


カトレアが窓の外を眺めていると馬車がゆっくり止まった。


「到着いたしました」


やはり帝国屈指の貴族だけありとても豪勢な屋敷だった。大きな柵の扉が開くと中心には大きな噴水があり、その周りには真っ赤なバラが咲き誇っていた。


屋敷の中に入り地下に続く階段を下りていくと小さな部屋があった。部屋の前方の大部分が大きな窓のようにくり抜かれていた。それを背景に椅子が一つ置かれていた。


そしてそこには大きなシルクハットをかぶる青年がいた。相変わらず血色の悪い肌と美しいブロンドの髪、そして、いつもはサファイヤのような青い瞳は燃え盛る炎のように赤かった。


「よく来たねカトレア。君を歓迎するよ」


いつもとは違うレーモンド卿の瞳の色を見てカトレアは少し驚く。


「レーモンド卿。あなたもしかして・・・・」


病的に白い肌、鋭い牙、そして真紅に染まる瞳。


「そうさ。僕もアルトと同じ吸血鬼さ」


感情の制御がうまい吸血鬼なら瞳の色と牙はごまかせると以前アルトが言っていたのをカトレアは思い出した。


しかし、肌の色と日光に弱いことは隠せるものではない。現にレーモンド卿は日中の気温に関係なくいつも長袖長ズボンで、日傘をさすことを欠かさなかった。レーモンド家は代々王族と繋がりの強い貴族だ。その当主が吸血鬼となるとあらゆる憶測が浮かんでくる。しかし、今のカトレアにはどうでもよかった。なぜなら―


「アルトはどこですか」


カトレアはアルトを救うためだけにここに来たのだから。その執念と覚悟を見たレーモンド卿は広げていた両手を下ろし、少し残念な面持ちになる。


「せっかく舞踏会に招待したのに他の男の心配かい?」


カトレアをからかうレーモンド卿だったがそれに動じずカトレアはレーモンド卿をみつめる。


「冗談だよ。そんな怖い顔をしないでおくれ」


そう言われてもこの状況で警戒を解く人間はいない。カトレアはより一層警戒を強めた。


「そんなにアルトが気になるのかい?まぁいいけどね。ほら、君の探し人はあそこだよ」


カトレアはくり抜かれた部分を覗いてみると広大な空間を見下ろすことができた。


自然にできたであろうこの空間は鍾乳洞だったのだ。これを見て気の遠くなるような年月をかけてこの場所ができたのであろうとカトレアでもわかるほど立派な鍾乳洞であった。


そして広大に広がる空間の真ん中に人影が見える。


それは腕と足を拘束されたアルトであった。


「アルト!」


カトレアが駆け付けようと走り出そうとした道を執事によって塞がれる。


「まぁまぁ落ち着いてよ」


レーモンド卿はまるで赤子をあやすようにカトレアをなだめる。


「今から舞踏会の余興が始まるから君はそこからゆっくり観賞していてくれ」


「何をするつもりです」


「まぁ見ていればわかるよ」


アルトの近くに2人の男が近づいて行く。そのうち1人がアルトを鞭で叩き始めた


「う゛ぁぁぁぁ・・っ!」


カトレアは思わず目を背ける。


男は絶え間なく鞭を打ち続ける。


「やめさせてくださいレーモンド卿!」


「何を言っているんだカトレア、これからもっと面白くなるのだよ」


「こんなものが舞踏会の余興だというのですか」


片方の男がナイフを取り出すとアルトの腹部に突き刺した


「う゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!」


「お願いですレーモンド卿!アルトにひどいことしないで!」


するとアルトは自身の腕に勢いよく噛みついた。それはまるで自身の血を飲むように。


「アルトは血の不足による渇きを自身の血を飲むことによって耐えているのさ。い・ぜ・ん・か・ら・ず・っ・と・ね」


カトレアはその事実に自身の頭に金槌を打たれたような衝撃が走った。そのことが事実ならば毎日の拷問の度にアルトはあのような自傷行為をしていたということになる。


「でもいつも涼しい顔をしていつも私をからかって・・・」


「本当にアルトは平気だったと思うかい?」


「・・・でも。・・・だって」


カトレアはこの事実を受け入れられなかった。なぜなら普段あまりにも普通にアルトがカトレアに接していたからだ。


また一人の男がアルトの目の前にやってきた。その手には瓶を持っている。その中には大量の人間の血が入っていた。すると男たちはアルトの口をこじ開けて無理やり血を飲ませ始めた次の瞬間-アルトは飲んだはずの血を勢いよく吐き出し始める。自ら吐き出しているのでは無く、まるで体が拒絶しているようだった。


「驚いたかい?アルトはね無理やり飲ませた血をああして吐き出してしまうんだ。普通、喉の渇きが極限状態の場合、血を欲し、求め、いくら飲んでも足りないものさ。でもアルトは血を欲しているにも関わらず体は血を拒絶する。何故だと思う?」


考えてみればおかしいことだった。カトレアはアルトの意思を尊重して今まで血を飲ませなかった。しかし、他の人たちがそれをしなかったはずがなかった。現に普段の拷問時に無理やり飲ませることも可能だったからだ。


しかし、アルトの体力は回復するどころか衰えていく一方だった。血を長期間飲まなかった吸血鬼は自我を保てないほどの喉渇きに襲われる。アルトも例外なはずがなかった。しかし、目の前でアルトは血を吐き出している。


「彼はね、アルパになりかけているんだよ」


「アルパ・・・・?」


なにかの病気かと思ったカトレアの考えとは遥かにかけ離れた答えが返ってくる。


「アルパとは愛を知ってしまった吸血鬼の成れの果てさ」


その答えにカトレアは混乱する。こんな状況だというのにアルトは誰かを好きだという事実を知り誰のことなのか知りたいという欲と、その人に対する嫉妬の念が沸々と胸の奥底から湧き上がってくる。それを無理やり押し込み自身の疑問をレーモンド卿にぶつける。


「で、でも他人を思いやり愛することは人も吸血鬼も同じではないのですか」


「吸血鬼とは本来他人を愛さない。いつも冷血で傲慢で気分屋さ。僕みたいにね」


「アルトは優しくて面白くて、でもたまに調子に乗ったり、冗談を言って私を困らせたりもしましたが、あなたのように感情がなく冷血な人じゃありません!一緒にしないでください!」


「今・は・そうだね。昔の彼はそれはそれは人間の血を欲し、喰らったものさ。あっ、そうそう人間の村を襲ったこともあったね。一晩でその村は消滅したっけ」


カトレアは何も言い返せなかった。自分の知らなかったアルトを知ってしまったから。


「君に教えてあげよう。アルトがどのようにして生まれどのように生きそして、どのようにして人を愛する脳になったのかを」


レーモンド卿が浮かべるその不敵な笑みに、カトレアは不安を隠さずにはいられなかった。



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