吸血鬼とメイド3
今日はこれで3つ目の投稿になります。皆さんに見ていただけると嬉しいです!!
心地よい風が吹き春の訪れを肌で感じ取れる。
あたたかな陽の光は王城の廊下を掃除しているカトレアとエミリーにも届いていた。
「そういえば最近どうなのさ。あんたの彼氏」
「だから彼氏ではないですって」
昨日カトレアはアルトとの喧嘩を繰り広げ最後には丹精込めて作った料理を相手に盛大にかけてしまうという大胆な行動をしてしまった。
その後、カトレアはアルトに着替えを持って行き最低限の仕事と会話しかしていない。
「専属のメイドになって10年以上でしょ。それそろ進展があってもおかしくないんじゃない?」
「なにもないわ。いつも通りよ」
進展があったらこんなに血を飲ませることに苦労はしない。
「もしかして他に好きな女がいたりして」
カトレアは掃除をする手が止まる。
「だってそうじゃない。10年以上こんなに一途に思われたら誰だって好きになっちゃうでしょ、普通は」
「それは人それぞれなのでは?」
「だとしても悪い気はしないはずよ」
たしかに。カトレアが嫌なら早々にメイドを後退させられているだろう。自分の代わりなどいくらでもいるのだから。
「カトレアがこんなにも一途に思って健気に尽くしてもなびきもしない。ということは他に気になる女がいるのよきっと!!」
その後もエミリーはたわいのない話を離し続けたがほとんど内容を覚えていなかった。アルトに好きな人がいるのかもと聞いてそればかりが気になってしょうがないからだ。
今までアルトに好きな人がいるだなんて全く考えたことはなかった。好きな人がいるのならその人の血なら飲んでくれるかもしれない。
しかし、問題はその女性が一体どこの誰なのか。今アルトのいる塔に入れるのは自分だけである。鍵を盗み出して入ろうと思えば入れるがそもそも怖がって誰もこの塔には誰も入ろうとはしなかった。だとすれば私の前任のお世話係だろう。
しかし、それも可能性は低かった。なぜなら、今までのお世話係はすぐに解雇されたからだ。記録によればアルトが拒否したのだとか。もって数年だったらしい。
しかも、任期満了までまだ数年もあるのに結局解雇されていたらしい。だとすれば可能性としてはこの塔に幽閉される前に出会った女性となる。
アルトがこの塔に幽閉されたのが約50年前なのでそれより前となる。となるとアルトが恋焦がれている女性は生きていてもかなり年を取っているかもうこの世にはいない可能性があった。
アルトは200年以上も生きる吸血鬼。その女性はこの世にいない可能性の方が高い。生きているのならま希望はあったがこの世にいないとなると会わせるのは不可能だ。
カトレアは割り当てられていたカ所の掃除を済ませアルトの部屋へ向かおうとして、そういえばアルトの髪が手入れされず伸び放題だったのを思い出し散髪用のハサミも持った。
カトレアはアルトのいる塔を登り部屋のドアをノックする。
返事がないのでゆっくりドアを開ける。
「アルト、入りますよ」
ドアを開けるとそこには机にうつ伏せになり気持ちよさそうに寝ているアルトに姿があった。
午後の昼下がり、塔の隣にある大きな木から漏れ出す、木漏れ日がアルトの部屋に優しく温かな光が射す。窓をすこし開けているためそよ風が部屋に入りアルトの髪をそっとなびかせる。
カトレアはほほ笑みながらアルトの頬ににかかっている髪を優しく払う。
すやすやと安心した表情で寝るアルトを見守るように見つめるカトレア。
アルトを起こさないよう、アルトの正面に静かに座る。カトレアは己のしようとしていた仕事を忘れ、ただただ優しい眼差しでアルトを見ていた。
「本当に他に好きな人がいるんですか?」
眠っていて聞こえるはずもないアルトに静かに問いかけた。
本当に好きな人がいるなら教えて欲しい。もしその人が生きているのなら探し出して見せるから。そうしたらきっとあなたは生きる希望を取り戻してくれるはず。私にはできなかったことをその人は可能にしてくれるはずだから。
でもなぜだろう。胸がとても苦しくなる。できることならその役割は自分が良かった。もしそうなら今すぐにでもあなたを助けられるのに。
こんなに悩んでいるカトレアをよそに何も知らないアルトはすやすやと寝ている。本当に暢気なものだと呆れた。
「エルゼ……」
すると突然アルトが女性らしい名前を口にする。
これまでもアルトの寝言を聞いたことはあったが誰かの名前を口にすることは初めてだった。
それも親しい間柄だろうか。夢にまで現れその名を口にするアルトを見てカトレアはそう思った。
エルゼって誰?もしかしてその人がアルトの好きな女性なんですか?
アルトの好きな人であろう女性の名前を知れて現状を打開できる手掛かりを見つけたはずなのになぜだろう。いざその女性の名前を行くと胸の中で嫉妬と独占欲で埋め尽くされる。
自身はアルトの専属のメイドでありそれ以上の関係ではないのに、アルトに優しく名前を呼ばれるエルゼという女性に嫉妬してしまう。
十年以上アルトのお世話をし、誰よりもアルトを知っているつもりだった。カトレアに向けられる優しい表情は自分しか知らないものだと思っていた。
だけど、それは間違いで、カトレアはアルトのことなど何も知らなかったのだ。自分以上にアルトを知っている人がいると知りその女性に対する羨ましいという気持ちと、私も優しくアルトに優しく名前を呼ばれたかったという嫉妬、そして優しく名前を呼びかけるのは私だけにして欲しいという独占欲。これらの黒くよどんだ感情が胸の奥底から沸々と湧いてきた。
するとアルトがゆっくり目をあけあくびをする。
「うおぉぉ!?いたのか。おどかすなよ」
「いたら悪いですか?」
「別にそんなこと言ってねえだろ……なんか機嫌悪いなお前」
「いつも通りですが?」
「いや、いつもならもっと感情がなくてこの世の物なんて無関心って感じだろ。やっぱり昨日のこと怒ってるのか?」
「自覚はあったようですね。いつも言われっぱなしでは気に食わないので今回は何かしらの制裁を加えたいと思います」
カトレアは手提げかごから散髪用のポンチョとハサミを取り出す。
「おい、ちょっと待て。まさかその手に持っているのは……」
「そうです。ハサミです。手始めに今日は散髪をしようと思います」
するとアルトはこの世の終わりばりに絶望した表情をする。
「それだけはご勘弁を」
「そうそう、言い忘れていましたが先ほどあなたが言った通り私は機嫌が悪い。拒否するのは勝手ですがよく考えたほうがよろしいかと」
「脅迫じゃねえか」
アルトはカトレアに言われるまま椅子に座りポンチョを着る。
ここまでアルトが散髪に苦手意識を持ってるのは15年前にさかのぼる。カトレアがアルトの専属メイドになりたての頃、今と同じようにアルトの髪が伸び放題だったためカトレアが散髪することになった。
しかし、髪なんて一度も切ったことのないカトレア。出だしは順調だったが髪を切り進めていくと一部分誤って髪を切りすぎてしまったのである。部分的に髪を切りすぎたので調節するために他の部分を切るというのを繰り返し行い気付いたらおかっぱヘアーになっていたのである。鏡で散髪後の髪を見た時アルトは驚きのあまり気絶するほどであった。
それ以来アルトは散髪をすることに苦手意識を持つようになったのである。
カトレアは順調に切り勧めていく。傷んだ毛先を切り厚くなった髪をすいていく。
手慣れた手付きで進めていくカトレアを見てアルトは驚いた表情になっていた。
過去の失敗を反省したカトレアはまたアルトの髪を切るかもしれないのではじめは動物のトリミングでカットになれそこから徐々に人の髪で練習していた。
今の技量になるまでにはたくさんの練習を費やした。当然カットに慣れていないときに練習相手になっていた人の中には悲惨な目にあい涙を流すものもいたが……
散髪をしたあとは髪を洗い乾かし、ヘアオイルをつけ髪をくしでといて行いく。
ヘアアレンジは得意ではないので簡単に髪を一つに結う。
「できました」
アルトは手鏡を見る。
「お前いつの間にこんな手慣れた手付きになったんだ?」
「私はアルトとは違い真面目なので過去を反省しそれなりに練習したんです」
カトレアは知らず知らずのうちにドヤ顔になっておりそれを見たアルトはくすっと笑う。
「そういえば、お前はいつも同じ髪型だが変えたりはしないのか?」
カトレアはそんな事考えたことなかった。仕事にいつも追われていて自分の身だしなみは最低限のことしかしていなかった。
「髪整えてやろうか?」
「できるのですか?」
アルトがそんな器用なことができるなんて。
カトレアは半信半疑で椅子に座る。
アルトは手慣れた手付きで髪を結い上げていく。頭の横に編み込みをしていきハーフアップした髪に結い上げていく。
いつこのようなことをできるようになったのだろうか。自身の髪でそのようなことをしているのは見たことがなかった。
さっき寝言で言っていた女性の名前。彼女の髪をゆっていたのだろうか。この優しい手付きがそれをうかがわせる。
その考えに至ったカトレアは嫉妬を覚えた。この優しい手付きが他の女性のためにしていたなんて。
「できたぞ。鏡を見てみろ」
鏡を見てみるといつも味気なく地味な風貌の自分とは思えなかった。両サイドに編み込まれた髪は後ろでまとめられ、ハーフアップでお団子にされている髪に巻き付いている。いつも邪魔なので一つにまとめられていたカールのかかった髪は櫛でとかされ下ろしている。
「どうだ?結構うまく出来てるだろ」
あぁ、本当にうまくまとめられていた。カトレアの髪質を十分に活かしたヘアアレンジだった。
「あなたがこんなに器用だとは知らなかったです。自分でしていたようには思えませんし昔誰かにしてあげていたんですか?」
「昔ちょっとな……塔に幽閉される前孤児院に通っていたことがあってそこでガキんちょたちの髪を結ってたんだ。はじめは全くできなかったが見るに見かねたのか結い方を教えてくれる奴がいてな。ほんと意地っ張りで頑固な奴だったな」
昔のことを話すアルトは楽しそうだったが少し悲しそうだった。
「見るに見かねたということはよっぽどひどい出来だったんでしょう」
「いつものことながら可愛くない反応だな」
カトレアはハサミなっど持ってきた道具を手提げかごにしまう。
「そろそろ戻ります。あちらに仕事を残していたので」
「お、おう」
いつもなら1つや2つどころでないくらいカトレアに言い返されるのだが今日はそれがないのでアルトは拍子抜けしたような返事をした。
カトレアは塔の外を出て人気のない木の陰へ移動したとたん、涙が溢れてきた。
アルトにそっけない態度を取ってさっさと塔を去ったのもアルトに涙を見せないためであった。
自分の知らないアルトの姿を彼女はもっと知っているのだろう。自分は塔に幽閉された哀れな吸血鬼の姿しか知らない。
それを考えると羨ましくて悔しくて嫉妬にくるい涙が溢れてきてしまう。
カトレアは声を押し殺し涙が枯れるまで泣き続けた。
するとカサカサと草むらの動く音がした。
「だれですか?」
音のする方を見るとそこにはレーモンド卿がいた。
「申し訳ない。盗み見るつもりはなかったんだ」
申し訳なさそうに言うレーモンド卿にカトレアは首を振る。
「いえ、レーモンド卿が謝る必要はありません。お心遣い感謝します」
レーモンド卿は静かにこちら絵近づいてきて涙を拭く。
「君をこんなに悲しませるなんて。僕なら絶対こんなことしないのに」
そう言うレーモンド卿の瞳は優しくこちらを見る。カトレアは吸い込まれそうなその瞳から目を逸らす。
「そんな、恐れ多いです。私などレーモンド卿には到底釣り合いません」
「そんな寂しいことを言わないで。この調子なら舞踏会の件も断るつもりだろう」
「……ええ、そのつもりでした」
カトレアはバツが悪そうに曖昧に返事をする。
「この間も言ったが僕は君に一人の女性として隣にいて欲しんだ。身分など関係なくね」
「レーモンド卿のお心遣いはありがたいのですが世の中にはよく思わない方の方が多数なのです。私は何といわれてもかまいませんが卿の立場が危うくなるのは絶えられないのです」
「そうかい。君の考えは分かったよ。でもね、僕は君に本音を言ってほしいんだ。本当は他に好きな奴がいるのだろう?」
「っ!?」
「それなら僕を利用すればいい。僕と舞踏会に行けば少なからず相手は嫉妬するはずだ。男って単純だからね。今まで自分しか見ていなかった女性がいざ別の異性に目を向けると嫉妬するものなのさ」
レーモンド卿は真剣なまなざしでカトレアを見る。
「僕のことは気にしなくていい。君は自分のことだけを考えていればいい」
「それではレーモンド卿が……」
「勘違いはしないでほしい。僕は君を諦めたわけじゃない。こうして君の弱みに付け込んでまで好きになってもらいたいからね。今後また君が泣いていたら僕は助けに行くよ。君がどうしようもなく好きだから」
レーモンド卿は地面に膝をつきカトレアの手の甲に優しく口付けをする。
「君の王子様に言っておいてくれ。もたもたしているうちに僕がお姫様を奪ってしまうよってね」
恥ずかしげもなく言うそのセリフは、人間外れの美貌と相まって、まるで本物の王子様の様ようで不覚にも胸がざわついてしまったのだった。




