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吸血鬼とメイド10

リークにアルトの過去を聞いたカトレアはなんとも言えない静けさがただよう。


アルトが頑なに自分を受け入れなかったのは、かつてエルゼに自身を受け入れてもらえなかったからなのだろう。

しかし、話を聞く限りエルゼがアルトを受け入れなかったとは考えられなかった。もしそうならば正体がバレた時点で拒絶されていただろうから。


「それで、アルトを助けるために私の血を飲ませるか自死しろというの?」


「まあ、そうなるかな。どちらの選択にするかは君次第だけど」


「そんなの決まってる。私の血を飲ませてアルトえお手に入れる」


「人間ってのは恐ろしいね。まるで獲物に絡みつく蛇だ」


「なんて言ってもらっても構わないわ」


「それならアルトも安心だね。二人が死ぬまでずっと一緒にいられるんだから」


「アルパはね、血を介して愛をもらうんだ。だから相手の愛が枯れてしまえばいくら血を飲んだところで喉の乾きは収まらない。癒えない喉の乾きを収めるように血を飲み続け挙句の果てには相手後を飲み殺し挙句の果てには自身も死にいたる。哀れこの上ないね」


「そんなのかわるはずない」


「本当に?この先、その愛は変わらずにいられるという自信はあるかい?」


「それは……」


たしかに今はアルトのことが好きだ。だが、果たして変わらずに愛し続けることができるのだろうか。もし、自分の愛が枯れてしまったらアルトを死なせてしまうという恐怖がカトレアに襲い掛かる。


リークは木箱を開けると一本の注射器があった。


「これは吸血鬼にも聞く強力な鎮静剤だ。これを打てば一時的だがアルトは正気にもどる」


「う゛う゛う゛う゛―ーーー」


アルトの苦しそうな呻き声が響く


「アルトはもう限界みたいだよ?」


追い打ちをかけるように言うリーク。


カトレアは勢いよく木箱から注射器を奪い取った。


「あれ?もう決めたのかい?」


「私はアルトを救いに行くの。ここを開けて」


ふ、と笑うとリークは扉を開ける。


「幸運を祈ってるよ」


心にもないことをと、心のなかで悪態つく。


アルトを目の前にするとやはり怖気づく。牙を向き瞳が赤くなっているのはまさに吸血鬼そのものだった。


獣のように唸る姿は苦しそうで今にも助けてあげたい。


すると銃声がなりアルトの鎖が砕ける。


「忘れていたけど大人しく血は飲ませないよ」


鎖から解き放たれたアルトは獲物を見定めるようにこちらを見てくる。


(そう簡単には行かないはよね。)


獲物を見定めたアルトは勢いよくこちらへと向かってくる。

カトレアの首に噛みつこうと手を伸ばしてくるのをスレスレでかわす。


通常の吸血鬼なら運動能力に優れているので獲物を一発で捕まえるだろうが、今のアルトは体力の限界のようでふらつきながらこちらに近づいてくる。


何度も襲いかかってくるアルトを必死に避ける。


(これじゃ、アルトには近づけない。どうすれば……)


アルトに解毒薬の注射するには近づかなければならない。だけどむやみに近づくとこちらが殺されかねない。

いや、吸い殺すぶんにはいいが、カトレアの血を飲まれるとアルパに本格的に侵されることになる。そんなこととなればアルトはカトレアに一生拘束され、カトレアに命の手綱を握られることとなる。

経験したことのない長い時間、果たして心変わらず愛し続けることができるのだろうか。


すると、隙をつかれアルトに地面に拘束される。


「ゔッ!!」


必死に拘束を逃れようとするが力が強すぎて抜け出すことができない。


ああ、どうしよう。二人が結ばれるとしてもアルトを殺してしまうかもしれない。そんな恐怖がカトレアを襲う。

牙をむき、カトレア落ちをすおうとするアルト。

カトレアは、強く目をつぶり痛みに耐える準備をしていたが一向にその痛みがない。

かわりに頬の濡れる感触がある。

目を開けるとそこには涙を流し自身の腕が噛みちぎれんばかりの力で自身の腕にかみついていた。

土壇場でアルトの理性が戻っていたのだ。


アルトはカトレアから離れる。


「アルト!!」


「俺に近づくな!!……お前を傷つけたくはないんだ……ッ」


涙を流しながら必死にカトレア後を吸うことを耐えるアルト。


「本当は気づいていたんだ。お前が好きなことに。姿を見るたびに高鳴るこの鼓動がきっと愛しているという感情なんだろう。お前が俺に好意を示している時点で拒絶すべきだったのに、一緒にいることが心地よくて拒絶することができなかった」


アルトの告白に戸惑うカトレア。


「だが、この曖昧な関係はもう終わりにしよう。俺なんか見捨ててさっさと友達の元へもどれ。お前を本当に大切にしてくれる人のところへ」


「!?まって!そんなの勝手に決めないで!!アルト以上に大切な人なんていない」


「なんで俺の言う事をいつも聞かないんだ!こんな時くらい言うことを聞いてくれ!!そうじゃないと……お前を一生縛り付けてしまう。そんなの嫌なんだ……」


最後の理性を振り絞り必死に訴えるアルト。


(そうか、アルトも怖いんだ。相手の心と体を縛り付けるのは)


アルパとなり血を介して愛をもらう。吸血鬼の心は変わらずとも人の心は移ろいゆく。アルパとは一種の契約だ。人間から血と愛をもうかわりに吸血鬼の不老長寿と驚異的な回復力が人間側へ与えられる。


吸血鬼の心は変わらずとも人の心は移ろいゆく。アルトは愛している人間の心を縛り付けたくはないのだろう。

だから恐れているのだ。一度交わした契約は一生縛りつく。

カトレアの心が変わればバラのツルのように絡まった契約はバラの刺のように契約者を蝕み死へと追いやる。

カトレアを思うこそこの契約者を交わしてはいけないのだ。


自身と同じようにアルトも相手のことを思い恐れている。


そのことを知りカトレアは霧が晴れたかのようにおそれがなくなった。


互いのことを思いやることができるならきっと大丈夫だと。


カトレアはアルトに近づこうとするが制止される。


いや、自身の命なんて惜しくない。あなた以外に何も要らない。だってこんなにも愛しているんだから。


あなたのためだったら何度も命をかけられる。


ゆっくりと確実にアルトのもとへと近づく。


するとカトレアは自分の唇を噛み両手でアルトの頭引き寄せる。そして血を流し込むように口付けをした。舌で自分の血をからめとりアルトの口の中に流し込む。


ーアルト、正気に戻って


目の前のアルトは不意打ちでキスをされたせいか動きがまる。その隙にカトレアは懐から注射器を取り出しアルトの首元に薬品を流し込む。


これで正気に戻ると安心したカトレアは唇を離そうとするがアルトはそれを許さなかった。


カトレアがしたキスよりも情熱的で激しかった。


今まで我慢していたものをカトレアにすべて注ぎ込むようだった。


「ちょっ・・・まって。んっ・・・息ができ・・ない」


カトレアの必死な主張は虚しくもアルトには届かなかった。


しばらく時間が過ぎ満足したのかカトレアの唇から離れた。


あるとの顔色はみるみる良くなり傷もあったのが嘘のように消えていく。


「まったく、お前は。普通俺の事見捨てるだろ。こんなに傷だらけになって。こんなろくでなし、見捨てればよかっただろ。そしたらお前は普通の人間と結婚して子供ができて、望んていた普通の幸せを手に入れられるはずだったのに」


その言葉を聞いたカトレアは勢いよくアルトに詰め寄った。


「勝手に私の幸せを決めつけないでください!私はあなた以外の人と幸せになるなんて絶対あり得ません!だいたいなんですか。さっきまで気のすむまでキスをしていたたくせに今になって弱音を吐くなんて!両想いなんだからいいじゃないですか!」


「お前キャラ変わってね?そんなに大声出すキャラだったっけ?」


アルトはカトレアの圧倒的な圧力にただただ驚かされていた。


「とにかくあなたが何を言おうと私はあなたといられればそれだけで満足なんです!幸せなんです!」


あまりにもまっすぐな告白にアルトは照れたのか顔を赤くし顔を俯かせた。


「・・・いいのか。今逃げ出さなきゃその嘘を信じちまうぞ。お前が俺を嫌いになって逃げだしたいって言っても逃がしてやらないぞ」


「望むところです!」


アルトは口ではそう言っているが本気でカトレアが自分から逃げ出したいと望むなら彼女の願いをかなえるだろう。カトレアの幸せがアルトにとっての幸せだからだ。だからカトレアが自分を望む限りアルトはカトレアに尽くすことをここで誓った。



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