吸血鬼とメイド11
「うわー、すごいね。まさか契約しちゃうなんて」
拍手をしながらゆっくりと近づいてくる。
「前の人間は死を選んだけどこっちは茨の道を選んだか。興味深いね」
「無駄話もそこまでだ。これ以上お前に付き合うつもりはない」
「大人しくここを出られるとでも?」
リークが襲いかかりアルトの首をつかみ地面に拘束する。
「君さあ、僕に一度も勝てたことないだろ?それに長年ろくな食事に食事をしなかったその弱りきった体で僕に勝てるはずないだろ」
リークは強気でアルトを挑発する。
「それはわざと勝たせてやったのさ」
「虚勢を張るなんて最後の悪あがき?」
「それはどうかな」
アルトは足でリークの腹を蹴り飛ばす。
「蹴り飛ばされるなんて思わなかったよ。これも愛の力かな」
アルトはカトレアの血を飲んだだめ予想以上に回復したらしい。
自身も今までにないくらいの力の発揮に驚いていた。
アルトは反撃し右左にフックを入れ右足で蹴る。しかしリークには何も効いている様子はなかった。
カトレアはアルトとリークの隙のない攻防をただただ眺めるしかなかった。
しかし、流石に長年のブランクか、リークにおされていく。
地面に投げ飛ばされ地面に叩きつけられる。
「ぐぁッ……!」
「バイバイ、アルト。今までありがとう」
拳が振り下ろされそうになったその時、リークの動きが止まる。
「こ、これは……」
今のリークの目には全身に絡まるバラの棘。リークから養分を吸い体が干からびていく対照的にバラは蕾が膨らみ開花していく。
「やっと効いたか。お前に気付かれないよう少しづつ幻術作用のある俺の血を流し込んだのさ。カトレアの血で回復したからってこの弱りきったからだでお前に真正面で勝とうなんて思っちゃいないさ」
「幻術か。お前にこんな能力があったなんて、ずっと隠されて僕少し寂しいな」
「信頼していないやつなんかに奥の手をさらすわけないだろ」
アルトはカトレアの手を引く。
「今のうちにここから逃げるぞ。あいつレベルの吸血鬼になると俺の幻術もそう長くはもたない」
2人は急いで地下空洞から脱出する。
しばらく森を走り続け開けたところに出る。
外に出てカトレアは一瞬ホッとするが、、アルトの後方に投げ飛ばされる。
「きゃッ!!」
リークが追い付いてきてカトレアに攻撃しようとしたところをアルトが逃がしてくれたのだ。
「ちッ、もう回復しやがったか。わかっていたことだが予想よりかなり回復が速い」
「逃がさないよ~、まったく、君の幻術解くのに体中の血を抜いて同胞の命を犠牲にしてしまったじゃないか」
「ふん、はなからそんなこと思っちゃいないくせに。他の命はおまえにとって実験用のラットだろ」
「そうだね、ありとあらゆる生き物は僕の好奇心を満たしてくれる。だから、その好奇心を満たしてくれる可能性がある同胞を僕は失ったのさ。その分の償いはしてもらうよ。君とカトレアを使ってね。さあ、僕を楽しませておくれよ」
「このいかれ野郎め」
リークの攻撃をアルトは受け流そうとするが鋭い爪で左腕を切断され、回し蹴りで吹き飛ばされる。
「さあ、これで本当に終わりだよ」
リークは鋭いつめでアルトを貫こうとする。
どうしよう。アルトが殺されちゃう。
とっさにあるとの前に出るカトレア。
リークの腕がカトレアの腹を貫通する。
「うッ……はアッ」
腹を貫通する衝撃で吐血するカトレア。
「……つかまえた……ッ」
腕をしっかりつかむカトレア。
「この人間風情が。汚らわしい手を離せ!!」
リークがカトレアを殴るがカトレアは必死にしがみつく。
「はなせ!はなせ!はなせーーー!!!」
「はなしてなるものですか」
「この、死ねーーーー!!」
リークは鋭い爪でカトレアの首を切ろうとするが
「死ぬのはお前だ」
アルトはリークの背後に周り自信が拘束されていた銀の鎖で首を一刀両断する。
首の取れたリークからは血が勢いよく噴射し地面に力なく倒れ込む。
死体は灰とかした。
その拍子でカトレアも力なく倒れる。
「カトレア!!」
アルトはカトレアを受け止める。
アルトは急いでカトレアの傷の具合をみるが修復が間に合っていない。
いくらアルパと契約したからと言って完全に不老不死となるわけではない。傷の修復も吸血鬼の恩恵を少しばかり受けるとはいえ大きな怪我であれば修復は追いつかないのだ。
カトレアは自身の死を受け入れる。欲を言うならアルトとともに生きたかった。
だけどこの怪我では助かる見込みがないと自身の死をさとるカトレア。
カトレアはアルトが助かれば満足だった。少し心配なのはエルゼと同じようにアルトをひとりおいていってしまうこと。それだけが心残りだった。
「俺が絶対に死なせない」
アルトはカトレアに深く深くキスをする。
アルト自身の愛をカトレアにうつすように。
するとカトレアのキズがみるみる治っていく。
風穴が空いていたお腹もみるみる修復していき美しい純白のような肌が見える。
カトレアのキズが修復していくのと対象的にアルトの体には干上がった地面のようにひびが入っていく。ひびの隙間からは星の光のように暖かく光を放っていた。
カトレアのキズが修復し終わりカトレアの唇から離れる。
「私に何したの?私が死んであなたを助けるはずだったのにどうしてあなたの体に亀裂が入っているの?」
カトレアはなにか察したのだろう。おそれのあまり体が震える。
「ごめん。お前を助けるためにはこれしかなかったんだ。俺がいなくなってもうまくやるんだぞ。お前、結構みんなに誤解されやすいからな」
「いやだ、何言ってるかわからないよ。私を一人にしないで!一人は悲しい。孤独だ。アルトが死ぬくらいなら私……ッ」
アルトは優しくカトレアの頬に手を当てる。
「大丈夫だ。俺が死んでもお前の思い出の中で生き続ける。だからお前が死ねば本当に俺は死んでしまう」
「卑怯よ。そんなこと言われたら死ぬに死ねないじゃない」
「すまんな。こんな卑怯な男に捕まったお前の運を恨め」
アルトは自身の左手首に切り傷をつけ血を芝生に飛ばす。
「何をしているの?」
「俺からの最後の贈り物だ」
そこにはアイリスの花のつぼみがあった。よく見ると一面にアイリスの花のつぼみがある。ここはアイリスの群生地のようだ。
アルトの血を浴びたアイリスの花が開花し始める。一つ咲くごとにまた一つと開花していく。
「きれい。何をしたの?」
「今アイリスの花は俺の血で幻覚を見ているんだ。もう咲く時期だとね」
「花も幻覚を見るの?」
「植物も生きてるからな」
「不思議な光景ね」
季節外れの開花。それは何とも異様だがとても幻想的で美しかった。
「俺さ、お前に出会えて本当によかった。とっつきにくくて不愛想で突拍子もないことをする奴だけど、その毎日が俺の色あせた日常を色鮮やかにしてくれた。そんなお前が大好きだ」
はじめて真正面から大好きといわれて照れて頬を紅潮させるカトレア。
「私だって、アルトに出会えてよかった。私ね、ずっといつ死んでもいいと思ってた。だけどね、アルトに出会ってから毎日が楽しくて私なんかがいいのかなって思ってた。でもねアルトに出会ってから毎日が楽しくて、でも私のアピールには全然なびいてくれなくて」
「そ、それは」
「わかってる。エルゼのようにはしたくなかったんでしょ。でも、アルトに好きだって言われてもう胸がいっぱいで張り裂けそう。それくらい嬉しかったんだ」
「俺はお前と入れて本当に幸せだった。ありがとう」
「ええ、わたしもよ」
カトレアは涙を流しながら必死に笑顔を作る。
アルトは優しくカトレアにキスをする。二人は互いの愛を実感するように長く深いキスをした。
アルトの体に入った亀裂は細かくなっていきその隙間からは温かな光がますますあふれ出す。
アルトの体は次第に崩れてゆき灰となっていく。
「じゃあな、カトレア。お前を愛している。
「いや!!待って!!」
カトレアは崩れゆくアルトの体に抱き着きこの世にとどめようとするが、崩れゆく体をとどめることができず崩れていく。
細かくなった粒子は心地よい風にのり朝焼けの光で屈折し美しく輝いていた。
闇で包まれていた空は太陽の光で徐々に照らされてゆく。夜と朝のはざまの中で朝焼けに照らされた灰は心地よい風で夜空に運ばれてゆき美しく光り輝いていた。
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それは赤く輝く皆既月食の夜だった。
程よく冷たい風が真夏の夜にはとても心地よかった。
森の奥深く。月の光が届かないくらい深い森にが一部開けている。
そこには大きな泉があり透き通るくらいきれいな水は月食の光で青く輝いている。
泉の中心には太く大きな木があった。その大木は湖の底に太い根を張り巡らせていた。
木に葉が生い茂る中、人間の腕でやっと抱えられるほどの大きな実がなっていた。
その実は月の光をこれでもかと吸収する。そして外壁を突き破り実の中からそれは出てきた。
それは勢いよく転がり泉に落ちていく。
徐々に沈んでいくそれを女性が急いで湖の中に飛び込み助ける。
陸に上がるとそれは肺呼吸を始めたのか肺にたまっていた水を吐き出すように咳い込む。
容姿は六歳くらいの少年だろうか。伸びきった髪は光に当たると青みが買って光る。月食の影響もありそれはまるでサファイヤのようで瞳はアメジストを思わせる、
その容姿を一目見て見て女性――カトレアは瞳に涙をたたえ少年を優しく抱きしめる。
少年は不思議そうにカトレアを見る。
「あんた、だれ?なんで泣いてるんだ?」
「あなたに会えたことが嬉しいの」
「俺に初めてあったのに?へんなの」
そんなことを言っているもののカトレアを拒絶しない。カトレアのされるがまま動かなかった。
カトレアは優しく少年を抱き寄せ続ける。
「おかえりなさい。この残酷でどうしようもなく美しい世界へ」
夏の終わり。二人の出会いを祝福するかのように蛍が辺りを照らしていた。




