吸血鬼とメイド アルト過去編12
アルトがアルパになりかけ?
誰かを愛しているってこと?
自分の中で人へ言えぬ醜い感情がおおう。
「アルトはアルパになりかけている。このままではアルパになってしまうだろう。だか、まだ間に合うはずだ。救う方法が二つある。一つは相手の女を殺すこと。二つ目はいっそのことアルパにさせて相手の血を飲ませることだ」
リークのことだからろくな方法は無いとわかっていたが、一つ目の方法はできるだけ取りたくはない。しかし、アルトを救うためならエルゼは手段を選ばないだろう。
「しかし、2つ目の方法もそれなりにリスクはあってね、好きになった人間の血しか飲めなくなるということは、その人間に何かがあって死亡してしまった場合、アルトは身を引き裂かれるような苦しみの中死ぬことになる。はたしてアルトにとってはどちらの方が平穏な日常をおくれるのかな」
おそらくリークは1つ目の案を実行したいのだろう。それが一番アルトにとっては平穏なのだから。
アルパに完全になっていないということは、アルトが好きな女性を殺すまで行かなくともアルトと引きはなぜばいい。
リークに気付かれないようにその女性をアルトから引きはがして2人の手の届かない所へ逃げせばいい。
両想いならばその女性にも申し訳ないが……
「それで、相手の女は誰だか分かっているの?」
そう肝心のターゲットがわからなければアルトを助けることはできない。
「それなら検討がついてる」
「へぇ、仕事は早いのね。それで、ターゲットは誰なのかしら」
するとほほえみながらリークはゆっくりと指さした。
「君だよ。エルゼ」
「……え」
アルトが自分を好き?そんなはずはない。現に先日アルトに振られたばかりなのだから。
「なにかの間違いよ。だって私はアルトに振られたもの」
「いや、間違いではないよ。君に向けるアルトの視線は特別以外の何者でもなかった」
「そんな……」
では、アルパを防ぐためには私の血を飲ませればいいのか。いや、それではアルトを完全にアルパにしてしまって私がいなく経ってしまったらとてつもない苦しみを与えてしまう。
「いいわ。アルトを助けるためならなんだってするわ」
「ありがとう!これで手を煩わせなくてすむね」
「勘違いしないでちょうだい。あなたのためではないから」
「そうだね。君が僕の協力を拒んだときのためにいろいろ考えていたんだよ。例えばね、君の大切な大切な子どもたちを使うとか」
エルゼはリークを凍えるほどの冷たい目つきで睨む。
「あの子達に手を出したらあなたを地の果てまで追いかけてこの世のものとは思えないほどの苦痛と絶望を与えるわ」
「冗談だよ。そんな怖いこと言わないで」
どこまで冗談でどこまで本気なのかわからない。少なくとも今は子どもたちに手を出すつもりはなさそうだ。しかし、いつでも子供たちの命を握られていると考えていた方がよさそうだ。
エルゼはリークについて行くと大広間に案内された。
何十人もの人が広くダンスをしても余るほどの広さだ。
一階の入り口もあるが2階から降りることの出来る階段が二股に分かれるようにある。
昔は華やかな舞踏会が開かれていたのだろうが今はその面影もなく物悲しい雰囲気が漂っている。
奥には大きなガラス張りの窓がある。そこから下を覗くと絶壁であった。闇に包まれた谷底はどのくらい続いているのかと思わせるほどだ。
「崖の下には妖魔がうじゃうじゃいるからね。落ちて生きていたとしても彼らの餌になって終わりだよ」
崖のそこから獣のうめき声がここまで響いてくる。
「それで、あなたはどちらの選択がご希望かしら?」
「僕が望むのはアルトの平穏さ」
その答えを聞いた瞬間、エルゼの死は決まった。
エルゼは子どもたちの命を握られているし何よりここから逃げられる隙は無いからだ。
死が決まったはずなのになぜか心は落ち着いていた。
なぜなら、エルゼ自身がアルトを助けられるのだから。
「一つ心残りがある。孤児院の子供たちは私が領主のもとへ行かなくとも支援を受けられるのかしら」
「リーク・レーモンドの名に懸けて誓う。孤児院の支援は約束しよう」
その答えを聞いてエルゼは安堵した。これで安心して死ねると。
「さぁ、君の王子様が来るまでティータイムとしようじゃないか」
楽しそうに言うリークをかたわらにエルゼはただただみんなの幸せを願うばかりであった。
☆☆☆
エルゼに別れを言うことはなく今後会うことはない。
以前の自分では特別何も思うことはなかったーーーはずだった。
エルゼが領主の元へ行く当日、見送りに行くことができなかった。なぜか胸の奥が締め付けられる気がして。
以前からこの胸の違和感があったが不思議と不快ではなかった。
しかし、今回の違和感は不快でたまらない。自分の元からエルゼがいなくなる。
誰かのものになってしまうと考えるだけで奥底から何やら黒いものが湧き出てくるような。
初めての名前も分からぬ感情をどう発散していいか分からず悶々としていた。
エルゼが領主の元へ行ったであろう後に孤児院を訪れた。エルゼを避けるように。
扉の奥から子どもたちの泣く声がする。
ゆっくりと扉を開けるとそこには子どもたちがうずくまり泣いていたり、互いに寄り集まっていたりしていた。
アルトがいることに気づくと子どもたちが駆け寄ってくる。
「エルゼ姉いなくなっちゃったよ!いやだー!!」
とハナが
「エルゼ姉を連れ戻してくれよ!!」
とジョンが。
子どもたちは各々の気持ちを泣きながらアルトにぶつける。
だがアルトにはどうすることもできなかった。領主との契約となると自分が付け入る好きなどないからだ。
それに彼女は自ら臨んで領主の元へといった。それを止める権利など自分にはない。
一向に泣き止まぬ子どもたちをアルトは優しくなだめていると扉がノックされる音がした。
「失礼します。わたくし領主様にお仕えするベンと申します。エルゼ様はいらっしゃいますか?」
領主に使えているベンという使用人がエルゼを迎えにきだというのだ。
「エルゼは今朝領主の元へと向かったと聞いているが違うのか?」
何かが噛み合っていないことに徐々に気付かされる。
「そのようなことは領主様から聞いておりませんが。もとから今の時刻にお迎えに上がる予定でございました」
その瞬間、背筋を這うような恐怖に襲われる。
エルゼがいなかったので使用人はそのまま帰っていった。
どういうことだ?エルゼは領主の元へと向かっているのではないのか?
しかし現に今、領主からの遣いとやらが来たことを考えると答えは自ずと絞られる。誘拐だ。
しかし、いったい誰に?どうして誘拐を?身代金目的だろうか。
そんなことを考えていると服を軽く引かれる。
見てみるとそこにはマーガレットがいた。
「あのね、私ね、聞いちゃったの」
「何を聞いた?」
「エルゼ姉にお嫁さんに来ないかって」
マーガレットはエルゼに孤児院の経営を支援するかわりに花嫁にならないかという話を直接見ていたのだ。
「それでね、エルゼ姉に話していた人がね、なんか怖い人だったからね、エルゼ姉が心配なの」
「その怖い人の特徴だったり、できれば名前は覚えているか?」
「名前はわからないんだけど、たぶんアルトお兄ちゃん知ってる人だよ」
隣街の領主とは面識はないしそもそも貴族とのつながりなんてない。いや、一人だけいる。その末恐ろしいし予測が外れてほしいと強く願うがーーーー
「アルトお兄ちゃんのお友達って言ってたよ」
その瞬間、最悪の展開になったことに絶望するアルトであった。




