吸血鬼とメイド アルト過去編11
エルゼが嫁ぐ朝。領主の遣いが迎えに来る。
「お迎えに上がりましたエルゼ様」
そこには質の良い服を着た御者がいた。
エルゼを心配そうに見るものや寂しくて泣き出す子もいた。
「エルゼ姉行かないで。俺たちと一緒にいて!」
「やだよ。行かないで!!」
ジョンとハナが泣きながら言う。一人泣き出すとまた一人と泣き出す。
「みんなこっちにおいで」
エルゼに促され子どもたちは集まる。
すると優しく包み込むように子どもたちを抱き寄せる。
「大丈夫だよ。エルゼ姉はいつもみんなのことを思ってる。だからいつでもみんなの心のなかにいる。だから寂しくないよ」
エルゼはこの中で最年長のショーンの頭を優しく撫でる。
「まだ小さいのにごめんね。みんなのことお願いね」
優しく言うと最年長の責任からか泣くことをこらえていたショーンが泣き出してしまう。
「任せてよ。エルゼ姉みたいにできるかわからないけど頑張るから」
「うん、ありがとう」
エルゼは子どもたちを優しく抱きしめたあと馬車とは違う方向を眺める。
(見送りには来てくれないのね)
アルトだけが見送りに来てくれなくて、エルゼは少し寂しそうな表情をする。
エルゼは馬車に乗り込む。ゆっくりと走り出し領主の屋敷へ向かうが後ろから子どもたちが走って追いかけてくる。
エルゼは馬車の中から子どもたちに手を振りながらその場をあとにした。
馬車に揺られること数十分。
分かれ道に来たが違う方向へ行く馬車。
隣街へ行くには右側の道だったと思うけど……
道を間違えたのかしら
エルゼは窓を開け顔を出す。
「あの、隣街は右の道ですよ」
しかし、御者は何も反応がない。
次第にエルゼは不穏に感じ始める。
おかしい。この道は妖魔が出没する森だ。そのためめったにこの森に近づく人間はいない。
一体どこへ向かっているのかしら。
しばらくすると大きな鉄製の門が現れる。門はエルゼたちが来たのを察知したかのように自ら開く。
なんとも不気味だ。
並木が続き視界が開けるとそこには美しいバラがあった。
御者に案内されるまま邸宅へとむかう。
石造りの美しい邸宅はどこかで寂しげで怪しげな空気が漂っていた。
中に入ると薄暗く陽の光が隙間からやっとのことで入ってくるほどだ。
2階へと上がると奥に何やら人影があった。
近づいてくるにつれ遠目では見えなかった人の輪郭が見えてくる。
「やあ、またあったね。ご機嫌はいかがかな?」
肩で切りそろえられている美しいプロンド。陶器のように白いと言うには青白く生気のない肌色。
リーク・レーモンドである。
「リークさんこれはどういうことですか?」
「驚くのは無理もないね。君には隣街の領主の元へ向かうと伝えていたからね」
リークは淡々とそして何やら楽しそうに話し出す。
「君はアルトをどう思ってる?」
え?アルト?
なぜ急にその話になるのだろう。
「どうって……大切に思ってる」
「あーあー、ごまかさなくていいから。君たちの関係は大体のことは知っている」
「なら、答えなくともいいのでは?」
「ふふ、僕はね直接君から聞きたいのだよ」
「なんてひねくれた性格なのかしら」
楽しそうに微笑んでいるリークとは対象的にエルゼは嫌悪感がむき出している表情をする。
「それで、アルとのことはどう思っているのさ」
「ええ、好きよ。これで満足かしら」
「ああ、とってもいいね。君の表情を見るとゾクゾクしちゃうよ」
エルゼはリークが何をしたいのか分からなかった。こんなことを聞いて何がしたいのか。
「じぁ、その後の関係は?進展はあったのかい?」
「知ってるんでしょ、見事に振られたわよ」
「じぁ、こうは考えたことはあるかい?吸血鬼、いや妖魔は人と同じように愛することができるのかと」
「え……」
考えもしなかったことに一瞬戸惑うエルゼ。それもそのはずエルゼは吸血鬼でも使徒と同じように誰かを愛すると考えていたからだ。
「本来妖魔とは他を愛さず自分本位な生き物なのさ。持っているのは凶暴性と残虐性。本来僕らは非情な生き物なのさ。それはアルトも変わらない」
「でもアルトは変わったわ。私達を。少なくとも子どもたちのことは大切に思ってるけているわ」
「そう、アルトも例に漏れず僕たちと同じだった。だけど彼は変わった。僕らが持ち合わせていない情を持つようになった。君とあってね。そんなのはありえないはずなんだが偶にいるんだよ。彼みたいに突然変異するやつが」
リークは意気揚々と話し続ける。
「200年前にもいたんだよ。彼みたいに人間を好きになった吸血鬼が。彼女の名前はアルトラっていうんだけどね最後はどうなったと思う?」
エルゼからしてみれば幸せになったとは考えにくい。種族間の問題や結婚の問題もあるだろうから。し
かし、どちらも幸せになってほしいものだが。
一呼吸おいてリークは言う。
「死んだんだ」
その瞬間予想だにしない答えが返ってきた。
「正確には吸血鬼であるアルトラだけ死んだんだ。血を吸えず人格が崩壊してね」
血を吸えなかった?だとすればアルトラは相手と結ばれなかったのだろうか。
「彼女はね相手に受け入れてもらえなかったのさ。しかし、自分の慕っている相手を襲うことができなかった」
「それはおかしくないかしら。相手から無理やり飲みたくないのなら他人の血を飲むとかいくらでもやりようはあったはすでしょ?」
「それができなかったのさ。彼女はねアルパという病にかかっていたからね。この病は愛が芽生えた吸血鬼に起こる現象さ。この症状が現れると愛が芽生えた対象以外の血は飲めなくなってしまうのさ」
なんとも悲しい病なのだろう。相手を好きになるだけで死につながるかもしれないなんて。
「それで、彼女はアルトとはどう関係してくるの?」
「それはね、おそらくアルトはアルパに侵されている。正確にはなりかけかな」
その瞬間アルトを心配する気持ちと一体アルトは誰を愛しているのかと自分の醜い感情が溢れ出てきたのだった。
「あ~、胸の高鳴りが止まらない。こんなにに高鳴ったのは何百年ぶりだろうか」




