吸血鬼とメイド アルト過去編10
買い物に行くという口実で孤児院を出てきたが行く当てもなくただただ街を歩いていた。
つい先日にアルトのことが好きだと気づいたばかりなのになぜこのようなタイミングなのか。
何故私なのか。
しかし、自然とこの状況を飲み込で行く自分がいた。たしかにアルトのことは好きだ。
しかし、自分が領主のもとへ嫁ぐことで孤児院のみんなが助かるなら選択肢は一つしかない。自分が犠牲となりみんなを助けることだ。
しかし、アルトを好きという気持ちをどうしても本人に伝えたい。
そう思ったら体が勝手に動きだし急いで孤児院へ戻る。
「アルト!!」
ドアを勢いよく開けそういうと子供たちとアルトは驚いてこちらを見る。
「どうしたんだよそんなにあわてて。買い物に行ったんじゃなかったのか?」
「明日私とデートして」
「急にいなくなるから心配して――――はあ?」
「だから、私と明日デートして!!」
「はぁーーーーー!!!!」
アルトの驚きの声が孤児院に響き渡る。
―――翌日―――
エルゼは事前にアルトに待ち合わせ場所として街の中央広場の噴水の前と指定していた。
エルゼは街阿波是場所に着くと、アルトが噴水の前で一人立っていた。
「アルト―」
エルゼは今はやりのワンピースを揺らしながらアルトに駆け寄る。
「待った?」
アルトは首を横に振る。
「そう、よかった。さあ、行きましょ!!」
エルゼはアルトに手を差し出す。
アルトは何のことか分からないというような顔をして握手をしようとしたのでエルゼは不機嫌な顔になる。
「そうじゃなくて、デートといえば手をつなぐでしょ?」
エルゼは顔を赤らめながら言う。
「そういうものなのか?」
アルトは涼しい顔でエルゼの手を優しく握る。するとやかんが沸騰したかのようにエルゼの頬は紅潮する。
「さ、さあ、行くわよ」
エルゼはアルトの手を引き街中へと歩いて行く。
いつも見慣れた市場が今日だけはキラキラと輝いて見える。エルゼは年相応の娘のように心をときめかせていた。
「あそこのお菓子屋さんに行きましょ」
2人はテラス席へと案内される。
エルゼはショートケーキ、アルトはフルーツタルトを頼んだ。
店員がスイーツを運んでくる。
自分たちにとっては高級品なスイーツたち。
しかし今回ばかりは贅沢してもいいよね。
目の前に運ばれてきたスイーツたちはどれも光り輝いていた。
「うわー、おいしそう。いただきます」
「いただきます」
エルゼにつづきアルトもあいさつを終えるとスイーツを口へと運ぶ。
「ん~~~っ、ほっぺがとろけて落ちてしまいそう」
エルゼは零れ落ちそうな頬を軽く手で支える。
アルトも初めて食べた味なのか一瞬驚く顔をする。
「おいしいでしょ?」
「……まあな。……でもエルゼの作るお菓子の方がおいしい」
「…………」
「なんだよ」
「アンタってそれ狙ってるの?それとも天然のタラシ?」
「?別に素直に言っているだけだが?」
エルゼは顔を赤らめさせる。
「まあ、お世辞でもうれしいわ。ありがとう」
エルゼはお世辞でもと言っているが顔を赤らめさせ嬉しさを隠しきれていなかった。
「次はどこへ行くんだ?」
「私の一番のお気に入りの場所よ」
アルトはエルゼに言われるままついて行く。坂を上り高台へと登っていく。
「そろそろかしらね」
高台を登りるとそこには夕日で赤く染まる街が一望できた。
あまりの美しさにアルトの動きが止まる。
「どう?きれいでしょ?」
アルトは静かに頷く。
沈みゆく夕日。この僅かなひとときを静かに眺めゆく。
「私ねお嫁に行くの」
急な話に引き込まれるアルト
「孤児院の経営が厳しいのは知ってるでしょ?」
孤児院の経営が厳しいのはアルトも知っていた。前の領主が補助はしていたがそれでも足りない部分はエルゼが働いてやっと補っていた。
しかし、前回のハナの事件で領主はパトロンから降りてしまいこのままでは孤児院は経営を諦めざる負えなかった。
「リーク卿がパトロンの話を持ってきてくれてね隣の領主がこの街も兼任で領主になるにあたりこの孤児院も援助してくれるそうの。その条件として私が領主に嫁ぐこと」
いつも表情をあまり変えないアルトが驚きの表情になった。
「だからね最後だけでいい。アルトとの思い出が欲しかったの。そしたら私は悔いなくここを離れることができるから」
エルゼはアルトを見つめる。
「私ね、アルトのこと好き。多分あった時からずっと」
やった。やっと伝えることができた。
エルゼの胸は今最高潮に高鳴る。
「俺みたいな化け物にはそんな感情は持ち合わせていないことは知っているよな」
「ええ、もちろん。だけどあなたは他の妖魔とは少し違うと思うの。あなたは自らを省みず私たちを助けてくれた」
「それはただの気まぐれだ。飽きたらお前たちを食うつもりだったかも」
アルトはいたづらっこのようにエルゼに言うが当の本人は柔らかい表情で首を横に振る。
「あなたはそんなことしないわ。私にはわかる。こう見えても人を見る目があるの」
エルゼは自信満々で言う。
たしかに本人の言う通りアルトには妖魔としての残虐性は確かにあるのだろう。
しかし、アルトは他の妖魔のように残虐性だけを持ち合わせているようにはエルゼには到底思えなかった。
オオカミに襲われたあの日、たしかにアルトに救われたのだ。
その事実は変わらない。
「俺に期待してくれているのはありがたいがお前の求める返事はできない」
「うん、いいの。これは私の自己満足。ここを離れる前にあなたに伝えたかっだけだから。でも一つだけお願いしてもいい?」
「内容にもよるな」
「この景色を気に入ってくれているならたまにでもいい。この景色を思い出してほしい。そしてその景色を一緒に見に来た私のことも忘れないでほしい」
「わかった。今日のことを忘れない」
闇と光の間の時間の黄昏時。その一瞬の奇跡のような時間が永遠に続けばいいとエルゼは心の中で強く思うのであった。




