吸血鬼とメイド アルト過去編9
遭難事件から数日。
アルトは日課のように孤児院を訪れる。
事件以降子供たちはアルトにより一層なつきアルトの取り合いになっている。
「だめー!!ハナと遊ぶの!!」
「ハナばっかりずりーぞ!!」
ハナとジョンがアルトを引っ張り取り合う。これはもう日常茶飯事である。特にハナは二度アルトに助けられたこともあり他の子供たちよりもなついていた。
「そんなにひっぱるな――うわっ!」
アルトが左右から引っ張られアルトの制止する声はむなしくも届かなかった。そして三人とも勢いよく床に倒れ込む。幸いアルトが下敷きになったので2人は無事だった。
ああ、こんな時間がいつまで続くのだろうかとエルゼは椅子に座り三人を眺めながら思う。生活はけして楽ではないものの、孤児院にあふれる笑顔と笑い声。こんな何気ない日常がずっと続けばいいのにとエルゼは心から思った。
そんなことを考えながら、やんちゃな二人の対応に困っているアルトにやれやれとエルゼは助け舟を出す。
「そろそろお昼ごはんだから片付けてくれる?」
エルゼに言われ子供たちはおもちゃを片付けはじめた。
「アルトは庭で遊んでいる子たちを呼んできて」
「ああ」
アルトはエルゼに言われるまま外で遊ぶ子たちを呼びに行こうとするとアルトの肩がエルゼに当たってしまう。
その拍子にエルゼが手に持っていた絵本を落としてしまう。
エルゼは落とした絵本を拾おうとした拍子にアルトの指先と触れ合う。
「ふぁ!?」
エルゼは驚いて手を引っ込める。
エルゼは顔を赤らめ動揺しているのか微動だにしない。
石のように固まっているエルゼの顔をアルトが覗き込む。
「なんか顔赤くないか?」
「へえ!?」
アルトに言われるまで気づかなかったが頬が熱いのを感じる。
アルトがエルゼの額に手を当てる。
「熱はないようだが……」
「だ、大丈夫だから。それよりもアルトは子どもたちを呼んできて」
恥ずかしさのあまりエルゼは後づさる。
「わかった」
アルトは子どもたちを呼びに行く。
はぁ~~っびっくりした。前まではこんなことなかったのにどうしちゃったんだろう。
エルゼは顔を赤らめさせその場で立っているとハナが近づいてくる。
「エルゼ姉はアルトお兄ちゃんのことが好きなの?」
「ふぁ!?」
ハナの突拍子のない問いに驚く。
わ、私がアルトのことを好き!?
「もしそうならエルゼ姉は私の敵だから」
ハナはこの間までうじうじして人見知りしていたとは思えないほどたくましくなっていた。
恋というものはここまで人を成長させるのかと驚きを隠せないエルゼであった。
エルゼは先ほどまでの異常な反応はアルトに恋をしていたからなのだと自覚した。
幼い子供に自覚させられたのは年上として少々恥ずかしかったがハナのおかげで心の整理がついた。
恋を自覚したのはいいもののアルトは人間ではなく魔物だ。
人間ではないアルトと果たして恋はできるのだろうか。
そんなことを考えていると呼び鈴が鳴る。
「はーい」
アルゼは返事をしてドアを開けるとそこには上等な服を着た紳士が一人いた。
年はエルゼよりも少し年上だろうか。美しい金髪を肩で切りそろえ大きなハットをかぶり上等な生地でできたタキシードを着て日傘をさしていた。
「はじめまして。僕はリーク・レーモンド。あなたに会えてとてもうれしいよエルゼ」
何故私の名前を知っているの。それにレーモンドという名。どこかで聞いたことのある名だ。
「実は今回こちらに伺ったのは――――」
「おまえなぜここにいる」
振り返るとそこには鬼の形相で睨むアルトの姿があった。
「やあ、アルト。会いに来ちゃったよ」
「アルト。知り合いなの?」
アルトは鬼の形相でこちらに近づいてくる。
「別に。ただの顔見知りってだけだ」
「んっもーん。ひどいなアルトは。一つ屋根の下で暮らしているじゃないか」
「お前なあ。からかうつもりなら帰れ。俺は忙しいんだ」
2人の間に何やら緊迫した空気な流れる。
「まあまあ、ここではなんですから中でお話しませんか?」
「さんせーい。ではお邪魔するね」
エルゼはリークをテーブルに案内するとマフィンとお茶を出す。
「すみません。うちにはこれしかなくて」
「これはエルゼさんの手作りですか?」
「ええ、はずかしながらうちにはこれしかなくて」
「文句があるなら食うなよ」
「ひどいなあアルトは。誰もそんなことは言っていないじゃないか」
リークはそういうとナイフとフォークで器用に食べるリーク。
「とてもおいしいね。こんなにおいしいものを食べられるなんて子供たちは幸せだ」
「それで何の用だ?まさかマフィンを食べるためだけにここに来たわけではないだろう?」
「そんなに怖い顔をしないでおくれ。ただ君がいつもお世話になっている人に会いたかっただけだよ」
そういうとエルゼを見るリークを怪しげな目で見るアルト。
「いえ、お世話になっているのはむしろ私です。買い出しや子供たちの世話をしてくれてとても助かっています」
「そう、それならよかった。アルトは世間知らずなところがあるから少し心配で」
「あー、それ分かります。はじめ見たときは度肝を抜かれました」
「……おい」
楽しそうに話す二人に仲間外れ感を感じたのか不機嫌になるアルト。
「それでも最近はアルトがこの街にも慣れてきて、子供たちとも仲良くなって私はとても嬉しく思っているんです」
素直に言うエルゼの言葉になんて反応をしていいのかわからないのか口をつぐむアルト。
「あ、そうそうお茶のお代わりをくれるかな?」
カップをアルトに向けるリーク。
「お前なあ」
「こんなこともできないなんて言わないよね」
「大丈夫ですよ。私がやりますから」
しかし、アルトはリークからカップを奪い取る。
「大丈夫だ。俺がやる」
そういうとアルトはキッチンへと向かった。
「かわいいとこあるだろ。からかったらすぐに真に受けるんだ」
笑うリークにつられて笑う。
「ここに来た理由は君に会いに来たことと、言伝を頼まれてきたんだ」
リークは手紙を渡す。
手紙を見ると裏にはこの街の領主の紋章があった。
「実はね僕はこう見えてもこの国ではそれなりに権力を持っている貴族でねこの孤児院を援助するように領主に頼んだんだ」
しかし、ここの領主といったら以前ハナをつれていこうとした奴だ。信用できない。
「ここの領主は人格的に信用出ません」
「心配はいらないよ。近々この街の領主は変わるんだ。調べてみたらあらゆる不正をしていてね階級ははく奪され隣の領主がこの街の領地を併合して統治することになったんだ」
急展開に驚くエルゼ。
「次の領主は人間的にも人格的にをとてもよくできた人だから安心していいよ」
これで私たちは救われるのか。今まで一生懸命内職をしてきてこの孤児院を経営してきたが、これで子供たちにもう少し豊かな生活を送らせてやれると思うとエルゼは安心した。
嬉しさのあまり涙があふれてくる。
「でも、どうして」
「君にはアルトがお世話になっているからね。それくらいの恩返しをしないと」
エルゼは嬉しくて涙を流す。もうこれで子供たちにひもじい思いをさせなくて済む。
「なんとお礼を言っていいか。本当にありがとうございます」
エルゼは深々と頭を下げる。
「そんな頭を下げなくていいよ。その代わりと言っては何だが一つお願いがあるんだ」
「なんでしょう」
「君には領主のもとへ嫁いでほしんだ」
突然何を言われたか頭が真っ白になる。
「わ、私が領主様のお嫁さんに!?む、無理ですよ。私なんかが」
「これは領主たっての希望なんだ。きみの献身的に孤児院を支える姿に心を打たれたらしい」
「そんなこと言われても」
「返事は急がなくてもいいよ。ゆっくり考えてね。まあ、君の選択肢は一択しかないと思うけどね」
「お茶入れてやったぞ。ありがたく飲むんだな……っておい、お前どこに行く気だよ」
リークは帰るのか席を立っていた。
「ごめんね急用を思い出したんだ。僕は帰るよ」
リークは嵐のように去っていった。
「なんだったんだあいつ。かってなことばかり言って。なあ、エルゼもそう思わないか?」
しかしエルゼは上の空で何も耳には入っていないようだ。
「おい、聞いてるのか」
「え?うーん聞いてなかった」
「だからあいつ勝手だよなって話だよ」
「あ―そうだね。ほんとすごかったね。あ、私買い出しに行かなくちゃあから子供たちお願いね」
「お、おい」
アルトの声にも返答せず、エルゼは買い出しに出かけてしまった。




