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吸血鬼とメイド アルト過去編8

森の中を捜索し始めて数分。奥の方から嗅ぎなれた匂いがしてくる。

その血の香りはエルゼの物であった。アルトはその匂いをたどっていく。


血を辿っていくとエルゼの匂いが強くなっていく.

それに伴いアルトの胸のざわつきも強くなっていく。


エルゼは無事なのか。もしかしたらすでにオオカミたちに食われているかもしれないと。


そんなことを考えながら森を走っていると、一際開けたところに出た。


そこには数匹のオオカミと、それから守るようにハナに覆いかぶさっているエルゼがいた。


一匹のオオカミがエルゼに襲い掛かる。

アルトはそれを一蹴りで追い払った。


「無事か」


アルトはエルゼの方を見て言うと、エルゼはなぜここにいるのと言いたげな表情をしていた。


アルトはオオカミを睨む。


「この山の主に伝えろ。これ以上俺たちに関わるな。これ以上干渉するなら容赦はしないと」


アルトは鋭く睨む。アルトの瞳は紅蓮のように赤くなりそれは人の物ではなかった。牙は鋭く食物連鎖の頂点に立つ畏怖を感じる。


オオカミたちは一歩も下がる様子はなかった、一匹のオオカミが襲ってくると次々とオオカミたちがアルトに向かって襲い掛かってくる。


オオカミの鋭い爪と牙がアルトを襲う。オオカミたちにつけられた傷から血がしたたり落ちる。

そしてアルトは自身の爪を鋭利にとがらせオオカミを貫いた、

そしてアルトはそのオオカミに勢いよくかぶりつき血を吸う。するとオオカミにつけられた傷は瞬く間に再生していく。


「無駄な争いをだらだらと続けていいが、俺はこうして傷ができてもお前たちの血で回復することができる。消耗するのはお前たちだけだ。それでもまだ続けるか」


オオカミたちはアルトの言葉に怯んだのか攻撃がやんだ。

しかし、オオカミたちは決してこの場から離れようとはしなかった。


「お前たち、もうおやめなさい」


オオカミの群れをかき分けこちらに近づいてくる一匹のオオカミがいた。

そのオオカミは他の個体と比べると一回り大きかった。

鋭い爪に、大きな牙。それはどんな獲物であろうと仕留めてしまいそうなほど立派なものであった。


「ここは我ら一族が何百年と受け継ぎ守ってきた土地。そんな土地にお前のような上位の力を持つ吸血鬼が足を踏み入れるということがどんなことか理解しているのか。我らの土地を奪いに来たと思われてもおかしくないのだよ」


そのオオカミは上位の妖魔なのであろう。その言葉と発する声から聡明さが伺えた。


「俺はここにいる人間を連れ戻しに来ただけだ。この土地を奪おうなんて馬鹿な考えは持っていない」


「だが、我らの獲物を奪おうとしているのはどのようにして説明をするのかね」


「この人間たちは俺の知り合いだ。それに手を出すっていうのは俺に喧嘩を売っていることと同義だと思うのだが」


「不思議だな。吸血鬼が人間を仲間だというなんて。我が知っている吸血鬼は、傲慢で気まぐれで遊びのように他の種族を殺す。人間など餌としてしか見ていないと思っていたよ」


森の主はアルトとエルゼを見ると優しく微笑んだ。


「お前たち、今日の獲物は諦めてねぐらへ帰るとしよう」


そう言うとオオカミたちはここから立ち去っていった。


アルトはエルゼの方を見るとブルブル震えていた。

エルゼの目は捕食者を見るように怯えた目をしていた。


「俺が怖いか?無理もないな」


アルトは悲しげな表情で自身の赤く輝く瞳を手で覆った。

アルトは思った。アルトが吸血鬼だと知ったエルゼはきっと自分から離れて行ってしまうのだろうと。

人間から見てアルトは捕食者であり化け物だからだ。


エルゼも今に怯えて逃げて行ってしまうのだろうとアルトは考えていたが、自身の想像していたものとは違った言葉がエルゼから発せられた。


「……あ、あり、が、とう。たすけてくれて」


その言葉を聞いてアルトは驚いたのか目を見開く。


「俺が怖くないのか?」


「こ、怖くなんかないわよ。あ、あなたを怖がる理由はないわ」


「でもさっきから震えてうまく話せてないぞ」


「こ、これは少し驚いているだけ」


エルゼは全力で笑顔を作る。

小さな体で意地を張るエルゼを見て、クスッと笑うアルト。


「わ、笑うことないでしょ!!うまく話せないからしょうがないじゃない」


「だっておまえ、全身震えてるのに強がってるからさ」


エルゼは今自身の本能と戦っているのだろう。

エルゼの本能は今すぐにでも逃げろと発しているはずだ。しかし、エルゼは理性で無理やり本の押さえつけている。

その証拠に体全身が震えているが必死に笑顔を作っている。


アルトはエルゼの傷の具合を見る。

見てみると右足の腱が噛み切られていた。これではもう右足は使い物にならないだろう。

アルトは最低限の手当てをする。


「もう日が暮れる。今日はどこかで野宿だな」


アルトはそういうとエルゼの前でしゃがむ。


「その足では歩けないだろ。乗れ」


「私は大丈夫よ。それよりもハナをお願い」


そういうとエルゼは自力で立とうと木につかり立とうとするが


「きゃっ」


バランスを崩して倒れてしまう。


「その足では歩くのは無理だ」


エルゼは観念してアルトに背負われることになった。

アルトは背にエルゼを背負い。ハナを抱きかかえる。

しばらく森を歩くとハナは心地よい揺れのせいか寝落ちしていた。

エルゼはというと、ハナを探しに行く前に言い争ったことを思い出しとても気まずかった。


野宿にちょうど良い洞窟を見つけるとそこ入る。

アルトは小枝を拾い火をつける。

ハナは寝ており二人だけの沈黙の時間が流れる。

沈黙を破ったのはエルゼだ。


「あの、えっと、さっきは助けてくれてありがとう。それとひどいことを言ってごめんなさい」


「ひどいこと?」


「ハナを助けに森に入る前に、その、あなたには大切なものがないからわからないって言ったこと」


「ああ……。そんなことか。別に気にしてない。本当のことだしな」


自分は生きるために人間を殺してきた。他人と交流を持ったのも最近のことだし、エルゼのように命に代えても大切なんてものはない。なんとなく生きているだけだ。


「わたしね、昔は路上で暮らす孤児だったんだ。毎日お腹を空かせて空腹を満たすために食べ物を盗んだり盗みをしていたの。それがばれて殴られたりしたわ。この世は残酷で絶望してた。いつこの世界から消えることができるんだろうって。だけど自分で死ぬ度胸なんてなくてね。その時に孤児院の院長先生に拾われて、温かい食べ物と服をくれた。だけどその頃の私は人間不信で他人なんて到底信じられなくて優しさを受け入れられなかった。私をどこかに売り飛ばすんじゃないかって。だから孤児院を勝手に抜け出したんだけどその時に本当の人攫いに攫われてもうこれで終わりなんだと思ったの。そしたら院長先生が助けに来てくれて。泣きながら私を抱きしめたの。その時に初めてこの人は私を大事に思ってくれてたんだって。これまで院長先生が私にしてくれていたことは私を思ってくれてやっていたことだと理解したの」


エルゼはその時のことをかみしめるように言う。


「優しさなんて知らなかった私がその日を境に他人にも優しさを分けられるようになったの。人を思いやるということを学んだ。だから私は私を救ってくれた孤児院のみんな、家族を命を賭けて守るの。私の持論なんだけどね。アルトは本当はもう大切なものを見つけているんだけど、私と同じで気づいていないだけだと思うの。」


「何が言いたいんだ」


「あなたは私たちを見捨てず助けに来てくれた。ほっとくこともできたはずなのに」


「お前たちを食べるために助けたのかも」


「だったらとっくに食べられてる」


「俺たちみたいな化け物は気まぐれに人を殺す。気を許さない方がいい」


「本当の悪い人はそんな顔しないわ」


その時アルト自身は気付いていなかったが化け物と自信を揶揄した時に一瞬だったが悲しげな表情になっていた。


「アルトは優しいもの。私知ってるわ」


「勝手にしろ」


アルトはこれ以上相手にしてられないと背を向け寝転がる。


「フフ、おやすみ」


エルゼは笑いながら横になる。

しばらくすると寝付いたのかエルゼの寝息が聞こえてくる。


自分が優しいなんて誰にも言われなかった。妖魔は優しさとかけ離れた存在だ。人を襲い殺す。自身もそんな存在だと思っていた。だから優しいだなんて本来は屈辱的な言葉なのだろうが何故だろう。不快ではなかった。それどころか心地よかった。





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